工作機械には、高速化と高精度化を両立しながら、消費電力や発熱を抑え、安定した加工品質を実現することが求められている。さらに、機械の高剛性化や高負荷化、設計期間の短縮、熟練者不足への対応など、工作機械分野を含むものづくり現場の要求は一段と多様化している。
こうしたニーズに対し、THKは直動案内LMガイドやボールねじをはじめとする直動システムの性能向上に加え、ユーザーの機械設備の動剛性の測定・理論シミュレーションにまで踏み込んだCPS(サイバーフィジカルシステム =実世界と デジタル空間をデータでつなぎ、分析・最適化するシステム)サービスを展開している。
ここでは特に、JIMTOF2026(第33回日本国際工作機械見本市)で披露する最新の直動システムとソリューションについて、THK 常務執行役員 産業機器統括本部 LMシステム企画開発本部長 飯田 勝也 氏に話を聞いた。
JIMTOF2026で披露する最も注目すべき製品は、10月に受注開始予定の低トルク・低発熱を実現した新開発の低摩擦・高精度ボールねじ「形番:BPFP」である。工作機械メーカーからは、ボールねじを軽く動かしたい(トルク低減)、発熱を抑えたい、反転時のトルク変化を改善したい、軸方向の剛性を高めたいという四つの要望が寄せられてきた。THKはこれらのユーザーニーズを一つのボールねじで解決することを目指し、従来の接触構造を見直している。
従来のシフト予圧型の精密ボールねじでは反転時に生じるトルク変化、いわゆる象限突起やフリーゾーン(ボールねじの運動方向が反転する際にボールの接触状態が変化し、摩擦が急変する区間)の低減が求められる(図1)。工作機械では円弧補間などの際に各軸が停止・反転するため、この部分の制御調整が難しく、機種やロットごとに補正が必要になることもある。
開発品ではこの現象をボールと転動面との接触を最適化し余分な摩擦を排除することで、制御調整や機械組み立ての負担低減を狙っている。また、動摩擦トルクが従来比で1/2以下(図2)、発熱も約1/2(図3)に低減。これによってモータ負荷の低減や応答性の向上、消費電力の削減につながるほか、発熱に伴うねじ軸伸びによる位置ずれを低減しつつ、ボールねじの発熱対策として用いられてきた中空軸の冷却水や供給ポンプなどの装置を削減できる。
さらに、トルクが軽くなったことで、従来の予圧(G0)より大きな予圧(GM)を設定でき、軸方向剛性の向上にもつながる。開発品について負荷耐久試験や高速耐久試験などを実施し、従来品と同等以上の基本動定格荷重、静定格荷重、軸方向剛性などの性能を確保していることを検証している。
取り付けインターフェースも従来品と互換とすることで、ナットホルダーなど周辺部品の変更を抑えた、従来品からの置き換えを可能にしている。



高速化への対応では、コンパクトなDIN規格(DIN 69051)準拠の精密ボールねじ「SDA-V/SDA-VZ形」(図4)のDN(ボール中心径 D [mm] × 回転数 N [rpm])値を18万まで引き上げた。工作機械の送り速度が高まる中、従来のカタログスペックである総ボールタイプSDA-VZ形のDN値13万、リテーナ入りSDA-V形のDN値16万では、高速化への対応が訴求しにくいという課題があった。
そこでTHKは高速耐久試験を重ね、リテーナ入りのSDA-V形、総ボールタイプのSDA-VZ形ともにDN値18万をカタログスペックとして示すこととした。これは単なる数値の引き上げではなく、社内で蓄積してきた試験データを背景に、製品の持つポテンシャルを明確化したものである。今後は循環構造なども見直しつつ、さらに高いDN値も視野に入れ、工作機械の送り速度の高速化への対応力を高めていく。

ボールねじの性能を引き出すうえで重要なのが、支持側を担うサポートユニットである。
新開発の「FKT形」(図5)は、従来の2列構成に対して、ボールねじとの剛性バランスを考慮した高剛性・低トルク仕様のアンギュラ玉軸受の3列正面組み合わせ構成を採用(図6)し、一方向に高いアキシアル剛性と高負荷性能を実現した。特に、Z軸のように自重を受ける縦使用や、巻数の多い高負荷ボールねじに適している。軸径10~30mmまで6型番を標準展開し、コンパクトな設計とすることで従来品からの置き換えもしやすい。
高負荷ボールねじを選択したにもかかわらず、それに見合うサポートユニットがないというユーザー側の課題に対し、ボールねじとサポートユニットを組み合わせて最適化できる選択肢を広げた。


THKでは2025年より、LMガイド・ボールねじなど製品単体の性能向上にとどまらず、設計・解析そのものを支援するサービスとして、動剛性測定サービス「DYNAS」と理論シミュレーションサービス「SiMNAS」の二つからなる「CPSサービス」(図7)を提案している。
工作機械の設計では、変形しにくさを示す静剛性だけでなく、時間的な変化を含めた「動剛性」が重要になる。静剛性と動剛性を高めることで、高剛性で振動が少なく、信頼性の高い工作機械を実現する。しかしながら動剛性に関しては、実機を作って動かしてみなければ分からないという経験依存の設計も少なくない。
動剛性測定サービス「DYNAS」は、実機・現品の振動を測定し、周波数ごとの揺れ方を3Dで可視化する。LMガイドが原因なのか、ボールねじの軸方向剛性が不足しているのか、軸受の剛性を高めるべきなのか、さらには構造体に問題があるのかを把握し、設計改善の根拠を提示できる。
一方、理論シミュレーションサービス「SiMNAS」は、製品がまだ形になっていない設計段階から活用できる理論シミュレーションサービス。直動システムのパラメータを実機に近い形でモデル化し解析を行う。標準ブロックをロングブロックへ変更する、予圧を高める、ブロック数を増やす、形番を差し替えるといった設計変更の効果をCADデータ上で事前に検証できるため、実機試作に先立って最適化案を評価できる。これにより設計の確実性を高め、試作回数や開発リードタイム、コストの削減につなげることが可能となる。
THKでは、機械の企画~設計段階ではCPSサービスを利用してもらい、また、製作段階ではLMガイドやボールねじなどのTHK主力製品群を使ってもらい、さらに機械を使った量産段階ではOEE(設備総合効率)最大化プラットフォーム「OMNIedge」を適用してもらうという事業ビジョンを描く。

THKが目指すのは、製品を供給するだけでなく、ユーザーが抱える課題を捉え、直動技術と蓄積したノウハウを組み合わせて解決策を提案する、「ものづくりサービス業への転換」である。
特に人員や機械系の技術者が不足する中堅・中小企業にとって、設計や解析を支援するCPSサービスは大きな価値を持つ。実際、工作機械分野に加えて、半導体製造装置分野でも反響があるという。THKはCPSサービスについて、今後は日本の中堅・中小企業を起点に、台湾、インド、欧州、中国など海外への展開も進める考えだ。
THKではまた、ユーザーのニーズを起点としながら、自社が持つ技術的なシーズやノウハウを融合させることで、新たな価値を生み出していく。ニーズとシーズを結び付け、製品性能だけでなく設計・解析・保全までを含めた総合的なソリューションを提供することで、工作機械業界を含めたものづくり産業の支援に努めていく。
