潤滑油協会(JALOS)は11月16日、東京・三田の笹川記念会館で、「2016 JALOS 環境フォーラム」を開催、170余名が参加した。同フォーラムは、資源エネルギー庁からの事業費補助を受け、我が国の潤滑油に関わる環境対応情報の提供や、意識の高揚等を目的として開催されるもの。
当日はまず、潤滑油協会 潤滑油環境対策委員会 委員長の益子正文氏(東京工業大学名誉教授)が挨拶に立ち、「昨年パリで開催されたCOP21では、196の国に適用される『パリ協定』が締結され、今世紀末までのゼロエミッション達成に向けて、各国ができる範囲内で前進し、5年ごとに目標値をレベルアップさせていくこととなった。日本はCOP3の『京都議定書』発効以来、製造業を中心に大幅なCO2削減を達成してきたが、今後も淡々とやるべきことをやるまでで、技術者は縁の下の力持ち的存在として、持てる技術を注いで少しずつでも目標に向けて前進を積み重ね、CO2削減に貢献してほしい」と述べた。
続いて、以下のとおり講演が行われた。
●「省燃費エンジン油の調査-潤滑油環境対策事業 車両用油分科会活動報告-」潤滑油協会 車両用油分科会 主査・内藤康司氏…省燃費エンジン油によるCO2削減の可能性について述べたほか、同分科会の省燃費エンジン油の普及促進の取組みとして平成25~27年度に実施したオーナードライバーや自動車メーカー、ディーラー、カー用品専門店、自動車整備関係団体などに対する調査の結果を分析した。これを踏まえて、省燃費エンジン油の一層の普及に向けた課題と方策として、①ディーラーの整備工場やカー用品専門店のスタッフの役割が重要なこと、②省燃費エンジン油が比較的高価格帯に属するため、エンジン油の低粘度化がユーザーのランニングコスト低減につながりうるといった費用対効果をアピールする必要があること、③オーナーズマニュアルへの継続的な省燃費エンジン油の利用推奨を記載する必要があること、一般自動車整備工場での省燃費エンジン油の利用者を増やす方策が必要なこと、などを挙げた。
●「生分解性作動油について」JXエネルギー 潤滑油カンパニー 潤滑油販売部 工業用潤滑油グループ 担当マネージャー・小川 仁氏…漏洩時の環境汚染低減を実現する生分解性潤滑油について解説したほか、従来の生分解性油圧作動油で劣るとされていた酸化安定性、耐摩耗性、非鉄金属との適合性を解決する次世代生分解性作動油を開発。汎用性の高い脂肪酸エステルに最適な酸化防止剤を配合し優れた酸化安定性と汎用性の両立を実現した。また、脂肪酸エステルに最適な無灰系耐摩耗剤を配合し、優れた耐摩耗性を実現した。さらに、Zn・Pbなど銅合金の構成元素の溶出を抑制する添加剤手法などを見出し、銅合金との適合性を向上した。
●「自動車用ガソリンエンジンオイルの省燃費化技術」日産自動車 材料技術部 油材・電動材料グループ 主管 佐川琢円氏…2020年にCO295~120g/kmのレベルに到達する各国の燃費規制の強化の状況や、欧州で導入が決定された国連自動車基準調和活動の一環として策定された「小型車の共通排ガス・燃費試験法(WLTP)」のJC08との比較、ガソリンエンジンの直噴化や加給システム、LSPIなどパワートレインの進化について解説。SAE J300エンジンオイル粘度分類の改正によってAPI SNで認められることになった0W-16エンジンオイルの開発では、0W-20と同等の基油粘度に調整することで高面圧下での油膜厚さを維持、GF-5 0W-20と同等の耐摩耗性(チェーン摩耗の増加なし)を実現したほか、実車走行によってエンジン油が劣化してもMoDTCが摩耗防止剤として有効なことを明らかにした。開発油はまた、低粘度化と摩擦調整剤でGF-5 0W-20比0.5%以上の燃費向上を達成したと報告した。さらに2018年第4四半期以降に市場投入される予定のILSAC GF-6規格における省燃費性の向上について解説したほか、日本の先行する0W-8レベルの超低粘度エンジン油規格の制定に向けて、国内燃費認証(WLTP)を考慮した燃費試験法の開発の必要性、新しいJASO規格制定の必要性などを示した。
講演終了後に挨拶に立った潤滑油協会 専務理事の島崎敏郎氏は、「ここで発表いただいた成果を各自の立場で活かしていただき、我が国の2030年度CO2排出量を2013年度比26%削減するという厳しい目標に対して、省エネ・省燃費潤滑油の技術で貢献していただきたい」と語って、閉会した。