ジェイテクトは5月29日、名古屋市の名古屋東急ホテルで記者説明会を開催、安形哲夫社長(写真)が、中期経営計画における軸受、ステアリング、駆動、工作機械・メカトロ、さらには新規事業の各事業の戦略について報告したほか、企業価値向上に向けた取組みについて説明した。
中期経営計画の各事業戦略について軸受事業では、特に商品戦略では低トルク技術の深化や電動化・新領域への対応を進めることを、グローバル戦略では生産体制の再構築と開発体制の強化を図ることを強調した。生産・開発体制強化では、トランスミッションの多段化などに伴う小型・軽量化から需要の拡大するニードルローラーベアリングの商品開発・生産拠点を集約する狙いで、子会社の宇都宮機器の清原新工場を本年6月から稼働する計画を発表。貧潤滑・長寿命化など環境変化に対応した新世代商品開発の効率化も担う。また電動化・自動運転対応では、モータの高速回転対応SBBや、自動運転時に応答性を高めるセンシング機能付きハブベアリングなどの技術開発を加速する。生産力強化では、人を主役として人と設備が協調して改善・成長していくスマートファクトリーづくり「IoE(Internet of Everything)」を活用し、外観検査や搬送、梱包などの自動化を進め、高度作業へのシフトや少数精鋭化など作業者の付加価値を高める。産業用軸受の強化では、産業用ロボットの市場拡大で需要の増す減速機向けの超薄肉高剛性軸受など、使用環境の多様化に対応した商品開発を進める。
ステアリング事業ではまた、特に製品戦略として先進運転支援システム(ADAS)用ステアリングの強化と大型用ステアリングの強化を、地域別戦略としてグローバル供給体制の拡充と下流EPS領域の強化を進める。グローバル供給体制拡充では、今後需要が拡大するモロッコにおいて2020年からの量産開始で北アフリカでの事業基盤を確立するとともに、一番の成長市場と目されるインドにおいてSKSSを連結子会社化しインド事業を強化している状況を報告した。下流EPS領域の強化では、ボールねじ構造によって高出力化でき大型車に対応できるラックパラレル式EPS(RP-EPS)や高出力デュアルピニオン式電動パワーステアリング「DP-EPS」の量産化を進めている状況を報告。大型車へのEPS搭載ではまた、12Vの車両電源での出力不足を補う補助電源としてリチウムイオンキャパシタを独自開発した。一方、富士機工を完全子会社化してステアリング事業のPMI(統合プロセスシステム)活動に着手、ステアリングシェア世界トップ25%を維持しつつ、コラムとしてのグローバルシェア25%を狙う。また、昨年秋田に開所した「IT開発センター」を自動運転対応など次世代ステアリングのソフトウェア上流開発拠点として2022年に自立させたい考えを示した。
駆動事業では、ドライブライン(ドライブシャフト、プロペラシャフト)とAWDシステム(ITCC、トルセン)、油圧システムのそれぞれで車両電動化への対応を強化する。たとえば電動化で需要が確実に増すモータの油冷やクラッチバイワイヤ向けなど幅広いアプリケーションで、電動ポンプ(EOP)の用途を拡大していく。
工作機械・メカトロ事業では、EV化に対する生産設備の開発に注力する。具体的には、今後市場が拡大するHEV/PHVとともにダウンサイジングターボエンジンの搭載が進むことに対応して、小型カム研削盤や小型クランク研削盤などをラインナップ、共通プラットフォーム化で迅速にニーズに対応するほか、ギアスカイビングセンタによって製品のコンパクト化・軽量化や製品の一体化などが可能なことをアピールしていく。また、すでに納入実績の多いリチウム電池用設備やFCV用設備の納入を進める。
さらに将来の成長を見据えた新規事業の取組みでは、同社がEPSで培ったアシスト技術や軸受で培ったトライボロジー技術、ロボティクス技術といった強み(シーズ)を活かして、少子高齢化や労働人口不足といった社会課題(ニーズ)に対応し製造現場の軽労化・省力化を目指して開発した、業界最大クラスの電動アシストトルク(40Nm)を実現するパワーアシストスーツ「J-PAS」を本年8月に発売すると発表した。また、開発した上記のリチウムイオンキャパシタが、-40~85℃に対応しつつ冷却システム不要でエネルギーロスなく使用できることから、すでに自動車分野以外でも鉄道や航空機、建設機械、加工機、医療機器など幅広い分野で引き合いがあり、大きな展開が見込めるとした。
最後に、安形社長自らが重点推進してきた、企業価値向上に向けたファンダメンタルズの強化について説明。「健全な危機感のもとで成長のボトルネックを自立・自律して解決できる事業基盤の構築を推進する」という基本姿勢を示した。長期的な会社の事業基盤強化を目的に、人材開発や安全・防災投資、業革/IT化投資を加速していることを報告。働き方改革を通じた生産性向上の取組みや、成長戦略実現に向け個人レベルの重点テーマまで方針管理を落とし込む取組み、間接部門の業務改革、IT高度化の取組み、ESGに配慮した取組みなどを強化していく計画を示した。