日本粉末冶金工業会はこのほど、2021年度工業会賞を発表した。工業会賞は、1979年度に粉末冶金工業普及事業の一環として創設され、2021年度で43回目になる。
工業会賞は、工業会事業に貢献した人を表彰する「業界功労賞」と優れた粉末冶金製品を表彰する「新製品賞」、優れた原料粉末を表彰する「原料賞」、優れた製造設備を表彰する「設備開発賞」に分かれている。「新製品賞」は、さらに「デザイン部門」、「材質部門」、「製法開発部門」に分けて審査され、2003年度から、選考委員会で特に優れた受賞案件とされたものに「工業会大賞」を授与している。また、賞の対象にならなかった応募の中から、特徴のあるものを「奨励賞」として表彰している。
今回の表彰内容は以下のとおり。
■新製品賞・デザイン部門
・住友電気工業「PHEV用トランスミッションのパーキング部品の開発」…成形方向の見直しを含む大胆なデザイン変更による大幅な加工コスト削減はデザイン部門に相応しく、技術的に高く評価された。このような設計発想は今後の設計者に大いに参考になるところであり、業界として啓蒙すべき好例であるとともに、自動車電動化による類似のパーキング部品の需要拡大も期待される点が評価された。
・住友電気工業「アキシャルギャップモータ用圧粉磁心の開発」…アキシャルギャップモータ用の圧粉磁心の量産化を実現し、技術の新規性、業界への貢献度がともに高く評価された。成形、ボルト穴加工、絶縁塗装のそれぞれの要素技術に工夫が見られ、それらの総合的な技術力の高さによりエポックメイキングな量産化を可能にした開発。今後、車載を含めたモータへの展開が期待される。
・住友電気工業「HEVクラッチ係合(高圧)用途の高効率電動オイルポンプ部品」…成形金型のクリアランス半減や均一給粉技術の適用により、ロータの大幅な高精度化を達成した点が評価された。熱膨張差に着目してアルミダイカスト製が主流だった本ポンプ部品の焼結化は、粉末冶金の用途拡大に寄与する点が評価された。
・ファインシンター「1モータハイブリッド用スプロケットドライブの焼結化」…CAE解析を駆使した成形工程および1コイル1ショット高周波焼入れ条件の最適化、フレージング加工の導入等、要素技術を結集させた総合力の高さが評価された。鍛造に対して大幅なコスト削減を達成しており、HV用途での横展開も期待される。
・ポーライト「シェールガス掘削ツール用button部品の開発」…シェールガス開発という焼結部品には馴染みのない分野を開拓した点や、焼結体の弱点である低靭性を被破壊性の良さと捉えた発想が高く評価された。これまでに例のない用途への適用であり、顧客と連携し商品化した好例として評価された。
・ポーライト「ロボット掃除機吸引モータ用軸受の焼結化」…形状、材質、含浸油それぞれにおける要素技術を上手に組み合わせることで、静音性と25000rpmという高速回転への対応を実現し、ボールベアリングからの置き換えを実現した点や、今後ますますの普及が見込まれるロボット掃除機や、静音性を求められるその他の家電への展開も期待される点が評価された。
■新製品賞・材質部門
・ファインシンター「低トロリ線摩耗を実現した銅系焼結合金すり板の開発」…硬質粒子、固体潤滑剤、母材それぞれに工夫を凝らし、すり板自体の耐摩耗性とトロリ線攻撃性というトレードオフ関係にある要求特性のバランスを実現させた材料開発が高く評価された。顧客での現車試験での効果は大きく、今後も拡販が期待される。
■奨励賞
・ファインシンター「大型車EPBユニットへの焼結部品の採用」…組み合わせ技術により製品化に至った点が評価されるとともに、強度を求められる大型車用EPB用途が、焼結品の優位性が示される好例である点が評価された。