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TTRFと大豊工業、自動車のトライボロジーで第9回 国際シンポジウムを開催

 大豊工業トライボロジー研究財団(TTRF)と大豊工業は4月14日、名古屋市中村区のウインクあいちで「9th TTRF-TAIHO International Symposium on Automotive Tribology 2026」を開催した。

第9回TTRFシンポジウム 開催のようす bmt ベアリング&モーション・テック
第9回TTRFシンポジウム 開催のようす

 

 「トライボロジーの自動車社会への貢献」を全体テーマに掲げる同シンポジウムは、トライボロジー研究の進展と自動車技術への応用等に関しトップレベルの情報を交換するとともに、この分野での産学連携の現状と将来の可能性を示しその強化を図ることを目的に、2016年から開催されている。9回目となる今回は 、「"Tribological Design Technique Improves Powertrains Performance(パワートレーンの性能を改善するトライボロジーの設計技術)」のテーマのもと、基調講演のほか、「さらなる高性能化のための部品の設計」セッション1・セッション2の技術セッションが行われた。

 開会の挨拶に立った新美俊生 実行委員長(大豊工業 代表取締役社長)は、「自動車のパワートレーンにおいては、脱炭素化に加え、高効率化、高出力密度、電動化など要求が高度化し、これまで以上にトライボロジーの重要性が増してきている。今回は、トライボロジーを構成する潤滑剤・設計・材料(LuDeMa)のうち、「パワートレーンの性能を改善するにトライボロジーの設計技術」をシンポジウムテーマとしつつ、潤滑剤・設計・材料の統合技術によって性能を最大化し、脱炭素化を可能にするトライボロジー技術について、2件の基調講演に加えて、トラクションドライブ、減速機、ベアリング、レーザーテクスチャリング、シール、コーティングに関する6件のレクチャーをいただく。是非ともトライボロジー研究開発の促進につながるような活発なディスカッションを行っていただきたい」と述べた。

開会の挨拶を行う新美実行委員長 bmt ベアリング&モーション・テック
開会の挨拶を行う新美実行委員長

 

基調講演

「Toyota’s Multi-Faceted Approach to Decarbonization and the Future of Next-Generation」宮崎正隆氏(トヨタ自動車)…本講演では、内燃機関(ICE)、バッテリー電気自動車(BEV)、燃料電池自動車(FCEV)といった次世代パワートレーンの動向と、各地域特有のエネルギー事情について紹介。希少資源の有効活用とリサイクルによるCO2排出量と一次エネルギー消費量の削減に向けた取り組みについても説明したほか、パワートレーンの効率と耐久性をさらに向上させるには、摩擦や摩耗を低減するトライボロジー技術の重要性がますます認識されていると強調。①脱炭素化には多角的なアプローチが必要で、BEV・HEV・PHEV・FCEV・ICEとカーボンニュートラル燃料の並行導入は、地域条件とユースケースに合わせて調整されるべき、②排出量はLCA(ライフサイクルアセスメント)に基づいて評価されるべきで、製造、特にバッテリー製造はWell-to-Tank(燃料採掘からタンクまで)およびTank-to-Wheel(タンクから車輪まで)の影響とともに、技術中立的な政策の下で評価されるべき、CO₂削減のための短期的な対策が不可欠で、HEV/PHEVとバイオ燃料/e-fuelは既存の車両群において即座に排出量削減を実現できる一方、限られたバッテリー資源を効果的に配分すべき、④エネルギー安全保障は脱炭素化とバランスを取る必要があり、再生可能エネルギー、バイオ燃料、e-fuel、水素、および蓄電オプションを多様化することで地政学的リスクと供給リスクを軽減すべき、⑤影響力の大きい研究開発分野を優先すべきで、内燃機関の熱効率、摩擦低減、潤滑最適化、電動部品の信頼性はCO₂排出量と総コストの両方に直接影響を与える、と総括した。

講演する宮崎氏 bmt ベアリング&モーション・テック
講演する宮崎氏

 

「Tribology for Automotive Decarbonization and Circular Economy: Surface Engineering and Emerging Challenges in the Electrified Mobility Era」佐々木信也氏(東京理科大学)…自動車分野におけるカーボンニュートラルの達成は、気候変動対策における世界的な重要課題である。車両の電動化にとどまらず、さらなる脱炭素化には、自動車部品のライフサイクル全体を通して、エネルギー損失、資源消費、環境負荷を包括的に削減することが不可欠で、この点においてトライボロジーは摩擦低減、摩耗制御、寿命延長を可能にすることで中心的な役割を果たす。これらは、エネルギー効率の向上と循環型経済の実現の両方に不可欠である。本講演では、自動車の脱炭素化に貢献するトライボロジー技術の最新動向について、特にDLCコーティングなど表面改質や潤滑剤添加剤によるトライボフィルム形成といった高度な表面工学的手法に焦点を当てて紹介した。これらの技術は、摩擦損失を低減するだけでなく、部品の耐久性、再生、再利用を促進し、循環型物質フローを支援する。さらに、電気自動車(EV)への急速な移行は、高速走行、特有の負荷条件、電気的影響、電動パワートレーンにおける潤滑環境の変化などから生じる新たな摩擦学的課題をもたらす。これらの課題に取り組む最新の研究動向を概説し、最後に、統合された摩擦学的ソリューションが脱炭素化、循環型経済の原則、持続可能なモビリティを同時にどのように支援できるかに焦点を当て、今後の展望について議論した。

講演する佐々木氏 bmt ベアリング&モーション・テック
講演する佐々木氏

 

さらなる高性能化のための部品の設計 セッション1

「Modeling of Traction Drive and Traction Coefficient Enhancement Using Surface Texture Under High-Speed Conditions」山本 健氏(東海大学)…高出力伝達効率を有する小型減速機を備えた高速電動機は、回転速度の向上に伴い小型化が可能となるため、高出力密度パワートレーンシステムの実現に利用できる。トラクションドライブは噛み合い振動がないため振動騒音が少なく、高速減速機の伝動要素として適している。しかし、伝動性能に大きく影響するトラクション係数は、回転速度の上昇とともに低下する。本研究では、表面テクスチャを用いてトラクション係数を向上させるため、高速条件下における過渡的な温度変化と微細表面形状の影響を考慮したモデルを開発した。トラクション係数は、最大回転速度50000rpmで動作可能な高速試験機を用いて測定した。モデルは、実験値を最大6%の誤差で予測することができた。油の高圧レオロジー特性を調べ、表面テクスチャの設計ガイドラインを作成し、モデルを用いてテクスチャパラメータを最適化した。設計したテクスチャを製造し、評価を実施。トラクション係数を最大19%向上できた結果が示された。

「CFD Simulation of Transmission Fluid Flow」Thomas Lohner氏(Technical University of Munich)…効率、熱管理、耐久性は、持続可能で高性能な電動駆動装置の開発と設計において重要な要素である。摩擦と摩耗を低減し、摩擦熱を除去するには、トランスミッションの流体潤滑が不可欠で、ギヤ式変速機(ギヤボックス)における流体の流れは、機械要素の運動学と、それらが流体とどのように相互作用するかによって決まる。計算流体力学(CFD)は現在、ギヤボックスの流体流れを理解し、主要な流路と機械要素への潤滑油供給量を評価し、負荷に依存しない動力損失と対流熱伝達を定量化するための設計技術として活用されている。これに基づいて、動力損失を最小限に抑え、十分な熱負荷容量を確保するために、ギヤボックスとハウジングの設計、および潤滑油供給量を最適化できる。本講演では、ギヤと流体の相互作用の主な種類、メッシュベースおよびメッシュレスの数値シミュレーション手法、そしてシミュレーションモデルを検証するための実験手法について紹介した。単段式ギヤボックスにおける粘度、ギヤパラメータ、運転パラメータなどのさまざまなパラメータの影響を示す事例研究に加え、電動駆動系および車軸駆動ギヤボックスに関する事例研究も紹介。シミュレーションによる負荷に依存しない動力損失係数と熱伝達係数を効率および熱バランスのモデリングに組み込む方法を示すフレームワークを提示した。

「Friction Prediction Method for Engine Bearings using EHD Analysis Considering Modified Friction Coefficient and Running-in depending on Lubrication Conditions」倉部陽平氏(大豊工業)…摩擦低減は内燃機関の熱効率向上に有効な手法であり、モデルベース開発においてはベアリング摩擦の正確な予測が不可欠である。しかし、混合潤滑条件下では、固体接触挙動や慣らし運転過程の影響により、摩擦予測には依然として不確実性が伴う。本講演では、修正摩擦係数モデルと慣らし運転シミュレーションを多体動力学と弾性流体動力学(EHD)解析に組み込むことで、ジャーナルベアリングの摩擦予測手法を開発したことを報告。潤滑条件に依存する修正摩擦係数は、潤滑数の関数として定式化され、混合潤滑試験装置を用いた試験により、アルミニウム合金ベアリングと固体潤滑剤オーバーレイベアリングについて同定された。慣らし運転の進行は、マクロスケールおよびミクロスケールの摩耗計算による表面粗さパラメータの更新によってモデル化された。提案モデルをエンジンの燃焼条件に適用し、予測された軸受摩擦トルクを、指示平均有効圧力測定から得られた実験結果と比較した。さらに、軸受材料を交換し、計算値と測定値の差を比較することで、固体潤滑剤オーバーレイ軸受の摩擦低減効果を評価した。その結果、提案モデルが、幅広いエンジン回転数において測定された摩擦低減の傾向と相関性が高いことを提示。潤滑に依存する固体接触摩擦と慣らし運転挙動を考慮することで、エンジンジャーナル軸受の摩擦予測の信頼性が大幅に向上することを示した。

セッション1の総合討論のようす bmt ベアリング&モーション・テック
セッション1の総合討論のようす

 

さらなる高性能化のための部品の設計 セッション2

「Laser Surface Texturing and Laser Induced Periodic Surface Structures for Tribology Applications in Industry」Tuğrul Özel氏(Rutgers University)…レーザー表面テクスチャリング(LST)とレーザー誘起周期表面構造(LIPSS)は、トライボロジー的に重要な部品の表面機能を調整するための強力な非接触技術として注目されている。本講演では、マイクロスケールおよびナノスケールの表面構造化を支配するレーザーと物質の基本的な相互作用メカニズムの概要を説明し、制御された表面形状と形態が摩擦、摩耗、潤滑状態にどのように影響するかを重点的に解説。レーザーによって生成されたテクスチャと周期的なナノ構造が、実際の接触面積、デブリの捕捉、潤滑剤の保持、界面エネルギーをどのように変化させ、摩擦低減、耐摩耗性、トライボロジー対の寿命の測定可能な改善につながるかを議論。自動車、工具、バイオメディカル、エネルギー分野における産業関連事例を紹介し、乾燥潤滑、境界潤滑、混合潤滑条件下での性能向上を実証したほか、LSTおよびLIPSSの製造ワークフローへの拡張性、プロセス再現性、統合について、スループット、表面完全性、品質管理に関する課題を含めて解説。産業用途における次世代トライボロジー表面のためのデータ駆動型最適化とハイブリッドレーザーテクスチャリング戦略の展望を示した。

「Recent Developments in Surface‑Textured Technologies for High‑Speed Mechanical Seals in e‑Motor Shaft Applications」徳永雄一郎氏(イーグル工業)…高出力密度電動モーターは、効率向上のために軸冷却システムと高速回転がますます求められている。このような厳しい条件下では、メカニカルシールには低摩擦性と高耐久性の両方が不可欠となっている。表面テクスチャ加工を施したシール技術は、シール面における微細な流れ制御を可能にすることで、漏れを極めて少なく抑え、従来の非テクスチャ加工シールと比較して最大90%の摩擦低減を実現する実用的なソリューションを提供する。本講演では、高速電動モーター軸向けに特別に設計された、超低摩擦・低漏れのメカニカルシールの開発について紹介した。メカニカルシールしゅう動表面にテクスチャ(溝の深さが小さい溝)を設けることで圧力分布、摩擦、および漏れを制御。潤滑機構とシール機構を単一の摺動界面に統合することで、超低摩擦と漏れゼロの両方を実現した結果を示した。電動モーター軸冷却システムや減速機などの応用例を通して、この技術が次世代電動駆動装置の性能向上と信頼性向上に貢献することをデータで示した。

「Coatings for Metallic Bipolar Plates for Proton Exchange Membrane (PEM) Fuel Cell - The Design Pyramid of Coating Development and Industrialization」Thomas Stoecker氏(Schaeffler Technologies)…コーティングは、摩擦低減、摩耗防止による耐用年数延長、耐食性向上など、様々な方法でモバイルパワートレーンの性能向上に大きく貢献してきた。コーティングは将来のパワートレーンにおいても重要な役割を担う。プロトン交換膜(PEM)燃料電池の工業化において、コーティングは重要な要素である。規定された特性を満たすことが、量産化と工業化の実現を左右する。これらの特性の検証と特性評価の実施方法は、研究開発段階と工業化段階で大きく異なる。研究開発段階では、規定された特性が達成されたことを証明することに重点が置かれるが、
工業化とその後の量産段階では、品質特性を維持しながら、堅牢なコーティングプロセスで規定された特性が確実に実現されるようにする必要がある。本講演では、コーティング設計とコーティング特性評価が、研究開発と工業化の両面において果たす役割に焦点を当て、PEM燃料電池向け高度PVDコーティングの産業化の例として、バイポーラプレート向けDLCコーティングの開発(材料とプロセス)と継続的な最適化により、過酷な条件下でも高い安定性を実現できたデータを示した。特性評価手法の具体例を示すだけでなく、生産部品承認プロセス(PPAP)やプロセス能力の決定といった方法論的なアプローチについても解説した。 

セッション2の総合討論のようす bmt ベアリング&モーション・テック
セッション2の総合討論のようす

 

 講演終了後は、加納知広氏(大豊工業 代表取締役技術本部長)が挨拶に立ち、講師陣や運営委員メンバーなどのシンポジウム開催への協力に対して謝辞を述べた後、「この後のレセプションにおいても情報交換や人的交流の場にしていただくとともに、次回のシンポジウムにフィードバックし、より有意義なシンポジウムに発展していけるよう、本日のご講演に関するご意見、ご感想をうかがいたい。来年4月には「10th TTRF-TAIHO International Symposium on Automotive Tribology 2027」を開催するので、その際もぜひ参加していただきたい」と述べて、シンポジウムは閉会、レセプションへと移行した。

閉会の挨拶を行う加納氏 bmt ベアリング&モーション・テック
閉会の挨拶を行う加納氏