日本トライボロジー学会(JAST)は5月27日~29日、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで、「トライボロジー会議 2024 春 東京」(実行委員長:日立製作所・小山田具永氏)を開催、900人強が参加した。
今回は、「機械要素」、「潤滑剤」、「摩擦材料・固体潤滑」、「表面・接触」、「摩擦」、「流体潤滑」、「表面処理・コーティング」、「バイオトライボロジー」、「疲労」、「分析・評価・試験方法」、「境界潤滑」、「摩耗」、「バイオトライボロジー」、「シミュレーション」のテーマによる一般講演と、「トライボロジー技術へのAIの活用」、「トライボロジー界面における最新の計測・解析技術の進展」のテーマによるシンポジウムセッション、技術賞受賞講演と論文賞受賞講演で、全177件の発表が行われた。
28日には特別フォーラムが開かれ、寺田 努氏(神戸大学)が「ウェアラブルデバイスが切り拓く人間とコンピュータの新たな関係」と題して講演を行った。
28日にはまた、「2023年度日本トライボロジー学会賞」表彰式が行われ、ベアリング、潤滑関連では、以下などが表彰された。
「しゅう動特性に及ぼすHFO冷媒の影響(第1報)―冷媒雰囲気下のしゅう動特性および金属新生面への吸着特性―」設楽裕治氏(ENEOS)、森 誠之氏(岩手大学)…本論文はトライボロジー特性における冷媒分子構造の影響を新生面への吸着特性と分子シミュレーションによって表面化学・トライボ化学の面から検証したもので、工学的に意義深く、冷凍システムや冷凍機油の技術確立への貢献が期待できるとして評価された。
「低フリクションハブベアリングⅢ用グリースの開発」川村隆之氏・関 誠氏・近藤涼太氏(NTN)…本技術はタイヤの回転を支えるハブベアリングの回転トルクを大幅に低減させるために必要なグリース技術で、ハブベアリング以外の一般の転がり軸受にも量産適用可能でありカーボンニュートラル社会への貢献が大いに期待されるとして評価された。
「金属系添加剤非含有のディーゼルエンジン油の開発」清水保典氏・甲嶋宏明氏・葛西杜継氏(出光興産)…金属系添加剤非含有の開発油は、DPF搭載車の燃費悪化の抑制や廃棄物の削減など、省燃費・省資源への貢献が期待できることに加え、運輸業界における運転手不足や高齢化、2024年問題など、急務となっている業務効率化に対し、DPFトラブルに起因する労働環境の悪化の改善による貢献も期待できるとして評価された。
「超高速にトライボロジー現象を解明できるAI分子シミュレータおよび潤滑剤のバーチャルスクリーニング技術」小野寺拓氏・設楽裕治氏・柴田潤一氏・緒方 塁氏(ENEOS)…本技術は従来の不可能を可能にするAI分子シミュレータを世界に先駆けてトライボロジー課題へと適用し、摩擦界面の現象解明に留まらずマテリアルズ・インフォマティクス(MI)による材料スクリーニングへと発展させたもので、実験コストを抑えるとともに迅速な要因解明や材料選定に資することができ、トライボロジー分野だけでなく触媒や電池などMIの適用が盛んな他分野での材料設計にも汎用的に活用できるとして評価された。
「マイクロEHL解析と内部応力解析による表面損傷への影響因子の解明」柳澤穂波氏(日本精工)…本研究は転がり軸受表面に生じる損傷に関わる影響因子の解明を試みたもので、これまで測定が困難であった表面損傷の影響因子が、数値シミュレーション技術により明らかにされた。この成果は軸受長寿命化、エネルギー効率化への取り組みの飛躍的な加速につながる重要な知見と考えられるとして評価された。
「転がりすべり接触下における潤滑剤からの水素発生に及ぼす油種の影響」江波 翔氏(日本精工)…本研究は転がりすべり接触下における潤滑剤からの水素発生の影響因子を調べ、水素発生メカニズムを考察したもので、潤滑剤からの水素発生に関する有益な知見が得られている。本成果は白色組織はく離の対策技術や寿命予測技術の開発に貢献し、軸受の信頼性向上が期待されるとして評価された。
「着色剤による転がり軸受内のグリース挙動の可視化」小畑智彦氏(NTN)…本研究は狭小すきま通過時に分裂する特殊な着色剤微粒子の凝集体をグリースに添加し、軸受運転時の凝集体の微細化に伴うグリース色の変化を利用してグリース挙動を可視化したもので、転がり軸受でのグリース流動およびその時の流動履歴を高精度に推定できる技術である。得られた成果は低トルク化が要求される軸受の内部設計およびグリース開発に貢献すると期待されるとして評価された。
「X線回折環分析装置による転動接触疲労の評価」嘉村直哉氏(NTN)…本研究では、転動接触面から得られるX線回折環の回折強度分布の変化が転動疲労進行と相関することを確認し、これを定量化して疲労度のパラメータとして利用した。従来の手法では疲労が進行した領域で推定精度が低下するが、本手法では疲労度の評価精度を高めることが可能である。本研究成果は、転がり軸受の疲労度推定精度の向上に寄与し、機械のライフサイクル延長の観点で重要な転がり軸受再使用の可否判断といった用途での活用も期待されるとして評価された。