THKでは、設備総合効率の最大化に貢献するAIソリューションを提案している。ここでは、THK 産業機器統括本部 FAソリューション営業本部 FA営業統括部 副統括部長の髙野修一氏とFA営業統括部 本社営業部 FAマーケティングセクション 主任の今村恵輔氏に話を聞いた。

設備総合効率の向上に貢献するソリューションの拡充
髙野 当社はそれまで困難と言われていた機械の直線運動部の「ころがり化」を実現し、1972年に「LMガイド」を世界で初めて製品化した。現在では世界トップのシェアを持つLMガイドは、剛性が高く高品質で破損しにくい。しかしながら過酷な環境や大きな負荷がかかる設備では、早期寿命による破損の可能性もないとは言えない。当社の扱うLMガイドやボールねじなどの機械要素部品は設備のベースに置かれることから、突発破損の際には修理や交換に時間がかかり、生産効率を低下させることとなる。
従来のメンテナンスのタイミングは、熟練オペレーター・保全担当者の経験や勘に頼っていたが、当社はメンテナンス・交換作業の軽減や生産効率の向上、またユーザーに寄り添った予兆検知ソリューションの提供を行うことで継続的にユーザーとのつながりを維持することを企図して、2018年ごろから予兆検知技術の開発を本格化させた。
そうして2020年1月から、LMガイドを対象とした予兆検知ソリューション「OMNIedge」の提供を開始した。しかし、現場にあるロスを減らし工場の無駄な保全時間を減らすのにLMガイド単体の予兆検知ソリューションでは足りず、同年11月にボールねじ、2021年3月にはアクチュエータと当社の主力直動製品を予兆検知の対象に加え、さらに、2022年2月には回転部品のラインナップを加え、自社部品以外の部品にも対象を拡大した。同年11月にはまた、「工具監視AIソリューション」をラインアップに加えている。
直動部品および回転部品を対象とする「部品予兆検知AIソリューション」が部品の状態を見える化して部品が壊れる前に予兆を把握し、突発故障ロス・機械のチョコ停ロスを防ぐのに対し、「工具監視AIソリューション」は工具の欠損・チッピングを検知し、欠損した工具で加工を続けた際に発生する加工不良ロス(廃棄ロス)/手直しロス(再加工ロス)を、工具の欠損を検知しアラームを発信することで防止できる。
OMNIedgeは、製造現場で発生する各種のロスを削減し設備総合効率(OEE)の向上に貢献するソリューションを提供していくTHKのIoTサービスである。
直動部品予兆検知AIソリューション
髙野 OMNIedge(図1)とは、機械要素部品にセンサを取り付け、専用センサ「THK SENSING SYSTEM」を活用し、独自のアルゴリズムによって収集したデータを、安全な通信網を介して数値化、解析することで状態診断、予兆検知を実現するシステム。センサ、アンプ、通信機器一式を通信費込で提供するパッケージ型サービスで、「簡単」「安全」「初期コストゼロ」を実現している。
IoTを始めるにはセンサ選定、エッジコントローラ選定、データ解析、ネットワーク構築などさまざまな壁があるが、OMNIedgeの場合は購入後に専用のセンサとアンプが手元に届くため、選定時間を省略できるという利点があるほか、センサの設置についても、各部品専用のアタッチメントがラインナップされているため、測定したい部品に応じてアタッチメントを適切な設置箇所に固定する。すでに現場で稼働して3年、8年、15年と年数が経過している装置の部品に関しても後付けができ、わざわざ新規設備や後から導入されるライン(新台)に組み込むなどの手間も不要である。当社ではこれを「レトロフィット」と呼んでいる。さらに、エッジAIがデータ処理するため解析時間が不要で、通信環境もワンパッケージで届くためすぐに始められるなど、IoTに関する困りごとを一挙に解決できる。

AI診断サービス「ADV」
髙野 2023年からはまた、直動部品を対象にAIによる診断サービス「ADV」を追加した。ユーザーがこれまで苦労してきた閾値の設定が不要となり、各種データから異常度を算出して直動部品の状態を判断する。
しかし現状、AIは100%の予兆検知を行えるわけではない。当社の掲げる‟単にものづくりだけではなく、ビフォーからアフターまでの一連のサービスをビジネスとして真に顧客に貢献していく「ものづくりサービス業」への転換”という観点からも、当社のデータサイエンティストが各種データを読み取って、ユーザーの生産効率を高められるよう設備状態の最適な解析を行って報告するというアナログのアプローチも併用している。
人財スキルマネジメント
今村 部品予兆検知AIソリューション、工具監視AIソリューションという設備に紐づいたソリューションに加えて、2023年11月から、人財の資格や教育記録を一元管理し、スキルマネジメントを劇的に効率化する「スキル管理AIソリューション」を加えている。
OMNIedgeによる予兆検知への対応や設備不良などの際に、従業員が保有するスキルや資格、業務経歴などのスキルデータをもとに、配置や製品保守に対応できる人財を検索し、突発的な設備の故障や欠員が発生しても、タイムリーに作業応援者を配置できる。
保全活動の総合的な管理・運用のサポートツール
今村 2023年11月にはまた、保全活動の総合的な管理・運用をサポートする「保全一元管理ツール」(図2)の提供を開始した。本ツールでは、従来紙やエクセルベースで記帳されていた設備や保全に関するデータをクラウド上で一元管理して、保全活動のPDCAサイクル効率化を実現する。
第一の利点は、設備や保全の情報を紐づけてクラウド上で一元管理することで、過去のメンテナンス履歴から最新の状況まですぐにアクセスできるため、データの管理工数を大幅に削減できる。
第二に、日常点検・定期点検のスケジュールをカレンダー上で一元管理できるため、関係者への自動リマインド通知機能を使えば、点検漏れを防ぐこともできるなど、計画的な保全活動のスケジューリングをサポートできる。
第三は、突発的な設備の故障の際にも、故障中の設備や修理対応の進捗状況などを関係者にタイムリーに共有でき、修理対応の報告から管理者の承認まで「保全一元管理ツール」内で行えるので、運用効率の向上を図ることができる。

グローバルで幅広い産業で採用が拡大するOMNIedge
髙野 OMNIedgeはすでに多様な産業において、日本だけでなく当社がビジネス展開している米国や欧州、アジアといったエリアを含め、多くの設備に採用されている。直動部品予兆検知AIソリューションは輸送機器、特にロボットを用いた生産が進む自動車・自動車部品の工場などでの採用が多く、回転部品予兆検知AIソリューションは、モータ、ポンプ、ファンが多用されるプロセスオートメーション(素材産業・プロセス産業の製造工程・生産ライン)での採用が多い。食品向けなどは万国共通で、いずれのソリューションも採用されている。
しかしながら交換しやすい部品にまで一つ一つセンサを付けて予兆検知するのは現実的ではなく、OMNIedgeの適用対象となるのはいずれも、交換が難しく、かつ部品が壊れた時の設備の保全のロスや設備休止に伴う損害が大きいアプリケーションと言える。
例えば自動車製造の一例として、LMガイドを複数本つなげて長い搬送軸を構成し、搬送軸の上にはロボットが搭載され作業が行われる事例がある(図3)。LMガイドは下部に配置されるため、交換に時間を要し突発故障では大変な損害をもたらす。これに対し、OMNIedgeによる予兆検知によって、計画保全につなげることができ、生産効率を向上でき保全コストを低減できる。
また、回転部品の使われるプロセスオートメーションでは、上流から下流のどのプロセスで設備が故障しても次工程への影響が甚大で、粉体や液体などでは原材料の廃棄につながることもあるが、OMNIedgeによる予兆検知によって、各プロセスに関わる設備の突発呼称を防止し、不良・廃棄ロスを減らすことができる。

今後の展開
髙野 上述のように現場の個々のロスを削減した後には、できる限り効率的に生産できるようにして設備の停止時間を極小化することが求められる。そうして設備が極めて効率的に稼働することで、エネルギー効率の向上にもつながる。カーボンニュートラル実現に向けた、時代にかなったソリューションとも言える。
今後も、現場の各種のロスを減らすためのAIも活用した予兆検知ソリューションなどを増やしていく。しかし、閾値の設定不要でAIが正常/異常を示唆してくれるとは言っても、AIの運用にあたってはまだ条件出しなどの改善が伴うため、THKのデータサイエンティストによる設備の状態を見守るというアナログなサポートも必要となる。というのは、当社はダイレクトに、我々の直動製品のユーザーでありOMNIedgeのユーザーに対しアクセスしているため、AIが提出した示唆に対して、最終的な結果を確認する機会がある。AIによる予兆検知は現状100%の確率というわけではないので、同時に、THKのデータサイエンティストがアナログに解析してマシンユーザーにつながってサポートしていくことが重要となる。上述の当社が掲げる「ものづくりサービス業」への転換と軌を一にするものと考える。
今村 大きなロスを減らすためのソリューションを増やしていくことに加えて、予兆検知ソリューションなどで得られた各種のデータを連携することで、新たな価値が生まれてくるものと考えている。直動部品や回転部品の予兆検知という単体だけでなく、それらデータを全体連携させてトータルでユーザーに提供し、設備総合効率の最大化に貢献することを目指している。
また現在、直動部品や回転部品の予兆検知で異常が検知された際に、スキル管理の人材の情報から、その設備の保全にかかる最適な人材をAIが自動でアサインする世界も実現できるよう取り組んでいる。
「保全一元管理ツール」に関しても、直動部品や回転部品の予兆検知とのシステム連携にも取り組んでいる。従来は直動部品の予兆検知ソリューションの画面でしか確認できなかったものを、アプリケーション連携させることによって、ある設備の直動部品に異常が認められることを保全一元管理ツール上でユーザーにアラートを出すことも目指している。
つまり、単体のソリューションの提供だけではなく、各種ソリューションを一つに統合・連携した世界観を作っていきたい。
髙野 データ収集作業は以前から各種産業で実施され、データの蓄積はかなり進んでいる一方で、当社もまた工場を持つメーカー/マシンユーザーとして、いろいろな場所に散らばったデータをどう紐づけるかという課題と、蓄積したデータをどう活用するかという課題があると考え、取り組んでいる。
当社では引き続き、そうした取り組みを続けながら生産現場のロスを極力低減して設備総合効率の最大化に貢献する、各種ソリューションの提供に努めていく。

