日本トライボロジー学会は5月15日~17日、東京渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで、「トライボロジー会議 2017 春 東京」を開催した。固体潤滑や表面処理、機械要素などの関わる研究210件が、一般セッションとシンポジウムセッションで発表された。研究発表者に実学としてのトライボロジーの応用を考えさせる狙いで、一般セッションを「産業機械」、「輸送機器」といった応用分野を中心に分類した。また、シンポジウムセッションは、「自動車の走りと燃費を革新する変速機,そして支えるトライボロジー」、「トライボシミュレーションの最前線~分子からマクロへ」、「新規ポリマー添加剤による潤滑剤の性能向上」、「転がり疲れに関する最近の研究成果と今後の課題」、「安全と研究倫理」の5テーマで開催された。
16日には「2016年度日本トライボロジー学会賞」表彰式が行われ、ベアリング関連で以下が表彰された。
・論文賞「玉軸受におけるグリース挙動のX線観察および多相流解析の妥当性確認」野田隆史氏、柴崎健一氏、宮田慎司氏、谷口雅人氏(日本精工)…X線CTによって軸受内部のグリース形状を鮮明な濃淡像として造影することに初めて成功。さらに、チャンネリング状態ではグリース内部に流動がないことを視覚的に明らかにした。そのほかにも基油リザーバの形成過程、再潤滑プロセスやグリース同士のせん断箇所の特定など、グリース潤滑に関する様々な知見を得ており、以上の研究成果が、軸受性能向上のための設計思想に大きな貢献をもたらすものと評価された。
・技術賞「モータ玉軸受用低トルク静音性向上グリースの開発」三宅一徳氏、津田武志氏、藤原英樹氏(ジェイテクト)、菖蒲祐輔氏、徳毛泰葉氏(JXTGエネルギー)…トルク発生要因として影響の大きいグリース攪拌抵抗はグリースの粘性移行応力による影響を強く受けるが、増ちょう剤と基油間の親和性と界面の面積、さらには増ちょう剤分子同士の凝集力が粘性移行応力の支配因子であることを明らかにした結果、粘性移行応力が大きくチャンネリング性に優れる短鎖長の脂肪族ウレアグリースとすることで、低トルク性能を満足することを見出した。また、増ちょう剤の機械的物性を測定する手法を考案し、増ちょう剤の分子構造とヤング率の影響を明らかにすることで軸受の静粛性向上を達成。同技術を適用したモータ用グリース潤滑玉軸受は従来品と比べ回転トルクを50%低減、音響値を33%低減できる。今後、産業分野や自動車分野へのさらなる波及効果が期待できることが評価された。
・技術賞「複合化アルミナ・ジルコニア転動体の開発」植田光司氏、遠藤雄一氏、清水康之氏(日本精工)…近年ファンモータ用軸受でモータのインバータ化に伴う電食による軸受の音響特性低下が問題となる場合があり、転動体に絶縁性を有するセラミックスを使うことが最も有効な方法。開発した複合化アルミナ・ジルコニア転動体が従来の窒化ケイ素球よりも大幅にコストダウンでき、耐電食技術として貢献しているほか、自動車の電動化の進展によって軸受の電食が問題となるケースが増えることが予想され、今後一層の需要拡大が期待されることが評価された。
・奨励賞「低速条件下におけるグリースのEHL効果の検討 第1報」河内 健氏(協同油脂)…グリース潤滑による転がり接触で、低速域で基油よりも厚い潤滑膜が形成される現象の原因として光干渉法により典型的な馬蹄形の干渉縞が観察されたことから、弾性流体潤滑作用として解析。ガラスディスクと鋼球との転がり接触部での流れを観察するとともに、接触前後の増ちょう剤の濃度変化を測定し、厚膜化のメカニズムに関する実験的な検討を実施。接触部でのグリースの成分の変化を実験的に調べ、接触部の上流で増ちょう剤の濃度が上昇して等価粘度の上昇が起こることで厚膜化が生じるメカニズムを示したことが評価された。
学会賞表彰式の様子
左から三宅一徳氏(ジェイテクト)、中野史郎JAST会長、津田武志氏、藤原英樹氏(ジェイテクト)、菖蒲祐輔氏、徳毛泰葉氏(JXTGエネルギー)
左から中野JAST会長と河内 健氏(協同油脂)