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大塚化学とグーテンベルク、ロボット分野で材料×機械共創による樹脂3D造形の社会実装を推進

 大塚化学とグーテンベルクが近年、ロボット分野における材料×機械共創による樹脂3D造形の社会実装への取り組みを強化している。ここでは、大塚化学 化学品事業本部 マテリアルソリューション事業部 ビジネスユニットマネージャーでグーテンベルク 社外取締役の稲田幸輔氏と、グーテンベルク 開発部 統括部長 プロダクトマネージャーの梶 貴裕氏に話を聞いた。

大塚化学とグーテンベルク PEEK対応プリンター G-ZERO MP1を挟んで、左から、稲田氏、梶氏 bmt ベアリング&モーション・テック
PEEK対応プリンター G-ZERO MP1を挟んで、左から、稲田氏、梶氏

FFF方式3D造形用の機能性複合樹脂フィラメント

 大塚化学のチタン酸カリウム繊維(TISMO)は繊維長10~20μm、繊維径0.3~0.5μmと極めて微細・高アスペクト比で、高強度・高剛性、優れた摩擦摩耗特性、断熱性、耐熱性、耐薬品性などの特長を有する。

 1980年ごろに開発したTISMO配合の樹脂複合材料「ポチコン(Potassium Titanate Compound)」は、TISMOの特性と、各種の熱可塑性樹脂の特性を巧みに組み合わせた機能性樹脂複合材料で、①極小・超薄肉製品の超精密成形が可能(ミクロ補強性)、②相手材への低い攻撃性と無潤滑での高いしゅう動性、③成形での優れた寸法精度と寸法安定性、④成形品の高い金型転写性と鏡面状態の平滑面、⑤優れたリサイクル性、などの特長を持つ。

 それら特長から、しゅう動部品や精密部品などで適用を広げてきたポチコン材料について、2016年頃からは3D造形用材料としての展開を開始。熱溶解積層(FFF)方式3D造形を選択し開発したTISMO配合の均一な径・真円度の「ポチコンフィラメント(図1)は、①造形品のミクロ補強性、②ノズルの摩耗低減、③造形品の優れた寸法精度と寸法安定性、④造形品の優れた表面平滑性、などの利点を提供している。

 以降、材料(ポチコンフィラメント)と、ハード(後述の高速3DプリンターG-ZERO)、さらにソフト(スライサーなど)の「三位一体による開発」を重ねていく中で、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、そして遂にはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)という結晶性樹脂の造形を可能にし、3D造形の生産性(速度・コスト)、品質、強度を向上させ、適用可能な範囲を拡大してきている。
 

大塚化学とグーテンベルク 図1  TISMO配合で均一な径・真円度を実現したポチコンフィラメント bmt ベアリング&モーション・テック
図1 TISMO配合で均一な径・真円度を実現したポチコンフィラメント

FFF方式の高速・高精度3Dプリンター

 グーテンベルクが2022年に開発したFFF方式の高速3Dプリンター「G-ZERO」(図2)は、造形の速さを左右する要素の一つであるツールヘッドのノズル最大移動速度が500mm/s、プリントヘッド最大加速度20000mm/s2と、同価格帯の市場にある3Dプリンターに比べて10倍の速度と20倍程度の加速度を実現している。

 G-ZEROが高精度部品を短時間で出力できる技術としては、歪みのない高剛性フレーム、ブレの少ない精緻な描画を可能にする軽量ツールヘッド(G-ZEROとポチコンフィラメントで造形)、そして自動ベッドレベリング(水平出し)の組み合わせ技術などがある。

 G-ZEROシリーズはまた、平坦なエリアでの造形(厚さ0.1mmのA3サイズのシート、目開き100μmのメッシュ、厚さ0.05mmのフィルムの造形など)を可能としている。
 

大塚化学とグーテンベルク 図2 高速3Dプリンター G-ZERO bmt ベアリング&モーション・テック
図2 高速3Dプリンター G-ZERO

材料×機械の共創による樹脂3D造形技術の向上

共創の始まりと進展

 ポチコンフィラメントの性能を最大限に引き出す造形が可能な3Dプリンターを模索していた大塚化学は2022年、日本複合材料学会主催の3D造形関連ワークショップでグーテンベルクのG-ZEROに出会い、これを機にポチコンフィラメントとG-ZEROで試作造形し、大塚化学の研究所で造形品の物性を評価する、という共創が始まった。

 2023年にグーテンベルクへの出資が決まり両社での材料・装置開発に着手、2024年には大型部品を分割せずに一発造形できる大型産業用3Dプリンター「G-ZERO L1」を市場に投入した。

材料ロスのないPEEKフィラメントと、実用PEEK造形が可能な高速プリンターの開発

 高い機械的特性やしゅう動特性、耐熱性など優れた特長を有するスーパーエンプラPEEKの3D造形は、以前よりユーザーからの要望が高かった。PEEKは材料コストが高価な上、製品化には切削加工などの除去加工が使われ無駄が多い。また、高耐熱樹脂のため廃材の処理も難しい。これに対し、FFF方式3D造形は廃材を出さず(環境対応)、造形および処理コストの削減が図れる。

 今回、両社の共創により、また三位一体の開発によって、実用部品の高速・高精度・高強度造形が可能なPEEKポチコンフィラメント「KT14(ナチュラル色グレード)」「KT14B(黒色グレード)」(図3)と、それらPEEKポチコンフィラメントの優れた材料特性を保持しつつ産業向けで不可欠な造形の繰り返し品質を担保できるPEEK対応プリンター「G-ZERO MP1」(図4)が完成した。

 PEEK造形のためのさまざまな工夫を盛り込むことで、PEEKの高速・高精度・高強度造形(図5、XY方向では射出成形品レベルの強度)を実現している。
 
 

大塚化学とグーテンベルク 図3 PEEKポチコンフィラメント KT14/KT14B bmt ベアリング&モーション・テック
図3 PEEKポチコンフィラメント KT14/KT14B

 

大塚化学とグーテンベルク 図4 PEEK対応プリンター G-ZERO MP1 bmt ベアリング&モーション・テック
図4 PEEK対応プリンター G-ZERO MP1

 

大塚化学とグーテンベルク 図5 PEEK造形品の強度比較 棒グラフ左からPEEK射出成形品、KT14射出成形品、KT14 3D造形品(XY方向強度)、KT14 3D造形品(Z方向強度) bmt ベアリング&モーション・テック
図5 PEEK造形品の強度比較
棒グラフ左から、PEEK射出成形品、KT14射出成形品、
KT14 3D造形品(XY方向強度)、KT14 3D造形品(Z方向強度)
ロボット分野での樹脂3D造形の展開

 樹脂3D造形の社会実装先として重要なロボット分野において、東京科学大学・遠藤 玄教授はポチコンフィラメントとG-ZEROを用いて早くから歩行ロボットの研究開発を進めてきた。その事例を提示できることでロボット分野でのアプリケーションを広げやすい環境となっている上、後述する新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトに採択されるなど、アカデミアを起点にロボット適用の裾野が広がってきている。

 大塚化学はまた、2025年、NHK高専ロボコンに挑む四国3高専との間で、ロボット製作における3D造形技術の応用に関する共同研究契約を締結した。

 さらに直近では、2025年12月3日~6日に開催された「国際ロボット展2025(iREX2025)」で実態展示を行い、ロボット開発者をはじめ多くの来場者の注目を集めた。

樹脂製超軽量ロボット創出に向けたNEDOプロジェクト

 NEDOの「新産業・革新技術創出に向けた先導研究プログラム」において、研究課題「生活空間を含む人との共存環境下でのロボティクス活用に資する革新的アクチュエータ等の構築」が採択された。研究テーマは「FFF方式の造形による樹脂製超軽量ロボットの研究開発」で、FFF方式の3D造形技術と複合樹脂材料技術を基盤に、軽量で高強度なロボット部材の製造技術を確立し、人との共存環境下で本質的に安全な次世代ロボティクスへの応用を目指す。

 グーテンベルクがG-ZEROをベースにプリンターの製造・造形条件の最適化を、大塚化学が主に高強度フィラメントの開発を行うことで、高強度部品造形技術の開発を進め、東京科学大学をはじめとするアカデミアが機械特性評価とロボット開発を進める。

 3D造形による高強度部品をロボット構造材・減速機として適用可能か、初めに基礎的・汎用的な機械特性を評価し、次にロボットの機構要素技術を開発、さらに、これらの機構要素を用いて減速機・協働ロボットを開発する。

次世代ロボット研究者の支援

 大塚化学は2025年、阿南工業高等専門学校、新居浜工業高等専門学校、高知工業高等専門学校と、ロボット製作における3D造形技術の応用に関する共同研究契約を締結した。四国3高専に対し大塚化学がPA系ポチコンフィラメントを提供しグーテンベルクがG-ZEROを貸与して、ロボット要素部品の製作を行い、各部品の強度と繰り返し荷重に対する層間破断の発生メカニズムなど、力学的な側面からのデータ収集と分析し、材料と3D造形した部品の特性を明らかにする。また、本共同研究の成果が、教育・研究分野をはじめ、幅広いロボット開発、そして製造の現場における3Dプリントの利用可能性の拡大に貢献することも期待される。

 従来の造形部品は壊れやすく交換部品を多数用意する必要があり、また競技中に部品交換を余儀なくされていたが、ポチコンフィラメントは過酷な使用環境にも耐える強度を実現、競技中の部品交換は一度もなかったという。

 梶氏は、「従来の金属部品は、曲げられない、端の穴あけが難しいなど、アイデアを形にできない例が多かったようだが、樹脂3D造形は複雑形状でもアイデアどおりに素早く形にでき評価できる。トライ&エラーを短期間に何度でも繰り返せて、ベストな状態で大会に臨める」と述べる。

 稲田氏はまた、「樹脂では強度的に無理とアルミで作っていた部品をポチコンで3D造形し、約3㎏軽量化できた事例もある」と、ロボットで要求の高い軽量化での可能性の高さを示した。

 2026年には、東京科学大学などNHK学生ロボコンに挑む大学とも同様の契約を締結する計画となっている。学生でも使いやすい造形プロセスへと改善するヒントを得る狙いもあり、ロボットのさまざまなパーツへの樹脂3D造形の適用を促していく。

iREX2025での展示と成果

 iREX2025の両社ブースで特に来場者の注目を集めたのが、東京科学大学・遠藤教授が製作した歩行/ローラーウォーク可変ロボット「Roller-Walker Ⅱ.r」(図6)だ。多くの機構部がポチコンフィラメントとグーテンベルクのG-ZEROで造形されていることに対し、会場では驚嘆の声が上がった。

 会期中はまた、G-ZERO MP1とKT14を用いた造形デモが一日に数回実施、PEEKの高速造形を高い繰り返し精度で可能なことが示された(図7)。図8が会場で造形されたタービン部品で、φ120の造形が4時間、φ80の部品の造形が2時間で完了した。

 その実演の効果や、PEEKに対するリテラシーの高い来場者が多かったこともあり、同年10月に発売開始されたばかりのG-ZERO MP1は、会期中に数台の受注を得ることとなった。
 
 

大塚化学とグーテンベルク 図6 歩行/ローラーウォーク可変ロボット Roller-Walker Ⅱ.r bmt ベアリング&モーション・テック
図6 歩行/ローラーウォーク可変ロボット Roller-Walker Ⅱ.r

 
 

大塚化学とグーテンベルク 図7 会期中の造形デモのようす bmt ベアリング&モーション・テック
図7 会期中の造形デモのようす

 

大塚化学とグーテンベルク 図8 造形したφ120とφ80のタービン部品 bmt ベアリング&モーション・テック
図8 造形したφ120とφ80のタービン部品

今後の展開 

PEEK造形技術の展開

 PPSが硬くて脆い性質を有するのに対し、PEEKは高い剛性を持ちつつ高い柔軟性(粘り)を有するため、ロボット部品として良好な物性を示すと見られる。
一方で、すでに切削加工や射出成型でPEEKの使用実績がある半導体・エレクトロニクス関連などからは帯電防止機能のある黒色PEEKなどの要求があり、今後ラインアップ拡充を図るとともに、PEEK造形の繰り返し再現性をより高めていく。
稲田氏は「安全データシートでユーザーに明示している材料組成に対して、3D造形しやすいように添加剤を加えるなどの変更は決してあってはならない。組成の変更なしに、ノズル温度450℃に伴う表面の焦げなどが発生しない造形条件の確立などを図りつつ、より徹底した品質管理を実施していく」と語る。

材料特性向上への展開

PEEKを含め両社の手掛ける樹脂3D造形品のXY方向強度は射出成形品の強度を凌ぐ。一方でZ方向強度に課題が残る(図3参照)。稲田氏は、「NEDOプロジェクトなどを通じ、XY方向とZ方向の強度を近づけるよう開発を進め、ロボット部品など社会実装を進めたい」と語る。

グローバル展開

 梶氏は、「共創の当初からPEEK造形を目標に掲げ、PA、PPS、そして遂に工業品質のPEEK造形を両社で確立しつつある」と述べ、稲田氏は「世界でも達成できていないPEEK造形技術を中心に、我々の製品技術を世界市場にアピールし、グローバル展開を図っていきたい」と語る。


 両社は、2026年4月13日~16日に米国ボストンで開催される3Dプリンティングの国際展「RAPID + TCT 2026」への出展を決めた。PEEKに対するリテラシーの高い航空宇宙、半導体・エレクトロニクス、医療機器(図9はイメージ)などに向けたアプリケーション展示、造形デモなどを実施、世界市場に訴求していく。
 

大塚化学とグーテンベルク 図8 医療分野におけるPEEK造形例 奥歯形状の造形見本 bmt ベアリング&モーション・テック
図8 医療分野におけるPEEK造形例:奥歯形状の造形見本