日本トライボロジー学会の会員提案研究会である「変速機のトライボロジー研究会」(主査:日産自動車・村木一雄氏)が1月23日、静岡県富士市のジヤトコで「第33回研究会」を開催した。
当日は、ジヤトコが世界シェア55%のトップシェアを占める無段変速機(CVT)の工場見学を実施、鍛造加工や切削加工、熱処理、洗浄、組み立て、試験評価などのラインを視察した後、以下の話題提供がなされた。
幹事でジヤトコ イノベーション技術開発部(KF0) 猪上 佳子氏は「KF0 F-Lab.の紹介」と題して講演。世界初の商品・技術の先行開発から企画、設計、実験まで一気通貫で担う開発拠点である「未来技術センター(F-Lab.)」の概要や機能について説明した。未来技術センターは変速機の製造などで培ったコア技術を応用した世界初の商品・技術の開発を担う。サプライヤーや他業種と連携する「コネクトルーム」、部署の垣根を越え社内連携を促しアイデアを生み出す「クリエイトエリア」、アイデアを実行する「シサクエリア」の3エリアで構成。開発のスピードを重視して、施設にはイノベーションを生み出す「ひらめき」を得るための発散(ラテラルシンキング)と集中(ロジカルシンキング)がそれぞれ可能な場所や、五感を集中して新たなひらめきが得られる場所を設けている。F-Labでe-Axleを試作した事例では、MR(複合現実)で構造設計し3Dプリンターで生産性・組付性などを確認した後、実部品ユニットを試作するといった流れで、EV向け製品開発期間の短縮が図れることを検証している。
また、ジヤトコ イノベーション技術開発部 松尾道憲氏が、「バイオミメティクス(生物模倣)を活用した湿式クラッチ『カエギリクラッチ』」と題して話題提供を行った。カエギリクラッチは、カエルとキリギリス、2種類の生物の足裏に配列された六角形模様の微細構造をヒントに、クラッチのスチールプレートの表面に排油性能を高める特殊加工を施したもので、これにより摩擦特性の安定性や耐久性を大幅に向上できる。キリギリスの足には接触面とのスティックスリップ現象を抑制し滑らかな摩擦を作り出す機能、カエルには濡れた接触面をグリップする機能があると考えられているが、この両者に共通する六角形の形状をクラッチのスチールプレート側に加工することで、低温時の伝達安定性やクラッチの耐久性を高めた。なお、開発初期から量産工法の採用を前提としており、量産向けマイクロプレス加工技術の開発を進めている。これまでクラッチの性能向上は主にフェーシングプレート側の摩擦材の性能向上に主眼が置かれてきたが、表面加工をスチールプレート側に施すことで、クラッチの性能を高めることが可能となる。社内試験で耐久性、摩擦特性ともに大幅に改善することが確認されている。始動後に捨てる熱が少ないことからは、EVへの貢献も期待できる、とした。
次回活動は、5月29日~31日に東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催される「トライボロジー会議 2023 春 東京」におけるシンポジウムセッション「自動車用動力伝達系のトライボロジー」として実施、自動車の電動化を支える動力伝達系の潤滑/冷却機構、機械要素に焦点をあて、電動化によってもたらされたトライボロジー技術への新たな要求、課題、解決への取組みについて論議する予定。