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第11回固体潤滑シンポジウムが開催

 日本トライボロジー学会の産学協同研究会である固体潤滑研究会(主査:東京科学大学 平田 敦氏)は昨年11月27日と28日の両日、東京都江東区の産業技術総合研究所 臨海副都心センターで、「第11回固体潤滑シンポジウム」を開催した。11年ぶりの開催となる本シンポジウムでは、固体潤滑剤のメーカーや、自動車や宇宙機器といったユーザー、アカデミアなどから、各日とも約80名の参加があった。
 

固体潤滑シンポジウム 開催のようす bmt ベアリング&モーション・テック
開催のようす

 

 初日となる27日には、平田主査が開会挨拶に立ち、固体潤滑研究会が固体潤滑の応用を発展させるため、固体潤滑機構の解明、新しい固体潤滑剤の研究開発、新しい分野での固体潤滑の応用など幅広い視点で調査研究を進めている会であり、年数回の研究会の開催や『固体潤滑ハンドブック』の編集・発行といった活動内容を紹介した。
 

固体潤滑シンポジウム 挨拶する平田氏 bmt ベアリング&モーション・テック
挨拶する平田氏

 

 続いて、基調講演をはじめ、以下のとおり講演がなされた。

基調講演

「固体潤滑入門」梅原徳次氏(名古屋大学)…『固体潤滑ハンドブック』を紹介・引用しつつ、硬質のCNX膜の上に軟質で低せん断のトライボフィルムが形成されるような理想的な固体潤滑システムについて、さらには軟質金属薄膜の潤滑機構について解説した後、CNX膜の構造変化層による超低摩擦、摩擦界面その場評価による固体潤滑機構の解明についての事例紹介を行った。
 

固体潤滑シンポジウム 基調講演を行う梅原氏 bmt ベアリング&モーション・テック
基調講演を行う梅原氏

 

セッション「平面層状物質」

1)「平面層状物質の潤滑作用発現機構と流体との複合効果」柏谷 智氏(住友金属鉱山)…固体潤滑粉末は従来、添加剤と見なされてきたが、平面層状物質と油分の複合によって相乗効果を見出したことから、平面層状物質の潤滑作用発現機構とともに、流体との複合効果について紹介した。

2)「インターカレーション法によって合成した有機変性マイカの潤滑メカニズムと冷間鍛造用固体潤滑剤への応用」大下賢一郎氏(日本パーカライジング)…長鎖アルキルアンモニウムイオンでへき開面を修飾した有機変性マイカのトライボロジー特性と、分光光度学的に解析した潤滑メカニズム、さらには冷間鍛造用固体潤滑剤として適用した場合の諸性能について解説した。

3)「ナノサイズ二硫化モリブデン「DIC-MoS2」を添加剤として用いた潤滑アプリケーション」小寺史晃氏・シティ マストゥラ氏(DIC)…独自手法により合成した数百nmサイズの高アスペクト形状の二硫化モリブデン(DIC-MoS2)をエンジンオイル、グリース、固体潤滑剤などに添加した際の効果について紹介。DIC-MoS2が潤滑添加剤として耐摩耗性向上や摩擦低減に寄与する可能性を示した。

 

セッション「カーボン」

1)「固体潤滑剤としてのナノカーボン」平田 敦氏(東京科学大学)…フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェンというsp2混成軌道由来の代表的なナノカーボン材料について、それぞれのトライボロジー特性と潤滑のメカニズムについて概説したほか、ナノカーボンを潤滑剤として適用する際の付着性など、応用に向けての課題について示した。

2)「ta-C の摩擦により形成される固体潤滑性表面」加納 眞氏(Kano Consulting Office)…水素フリーDLC(ta-C)コーティングの歯車適用を目的とした基礎試験として、ta-Cと生分解性エステル油との組み合わせを用いて、三つの異なる条件で単体摩擦摩耗試験を実施した後のしゅう動面の状況や表面分析、トポグラフィーの変化を調べた結果として、ta-Cの機能性材料特性が超低摩擦および優れた耐摩耗性の主要因であることを示した。

3)「液相カーボンコート法の開発とトライボロジー分野における応用」郷田 隼氏(日本触媒)…微粒子に対しても極薄・均一なカーボンコートが可能な可溶性炭素材料と液相ナノカーボンコート技術を開発し、潤滑性や耐摩耗性、流動性の付与が可能となった。ここでは、シリカ球状粒子の転がり潤滑特性向上といったトライボロジー分野での応用例について紹介した。

セッション「高分子」

1)「高分子トライボマテリアルの研究動向と評価技術紹介」岩井善郎氏(福井大学)、神谷 周氏(大豊工業)…標記の研究動向を、トライボロジー会議予稿集を対象に調査し、ゴム、ポリマーブラシ、ハイドロゲルの研究が拡大し、樹脂材料はPTFEとPEEK、PA、UHMWPEとそれらの複合材料が多い結果を示した。また、固体潤滑剤とそれらを含有した樹脂材料の特性評価に関わる研究事例を樹脂材料の開発、固体潤滑の開発、新しい試験評価方法の観点から選択し紹介した。

2)「ポリイミド樹脂のトライボロジーとその応用」宮内卓也氏(デュポン・ジャパン)…スーパーエンプラの中でも最も優れた耐熱性、機械強度、電気的特性、耐環境特性、難燃性を有するポリイミド樹脂について、その歴史から始まり、その化学構造に起因する特徴とそれらを生かした、航空機部品や自動車部品、エレクトロニクス部品、一般産業部品などのトライボロジー応用事例について紹介した。

セッション「宇宙」

1)「高温・高真空下でのカーボン系硬質膜の低摩擦化」梅原徳次氏(名古屋大学)…耐熱性に優れるとされるa-C:B膜と耐真空性に優れるとされるa-C:H膜の摩擦特性の評価に加え、新たに提案したa-C:H:B膜の摩擦特性の評価、摩擦メカニズムの解明を行い、a-C:H:B膜が水素脱離を抑制し長寿命化することで宇宙環境におけるしゅう動面での使用に期待できると報告した。

2)「波動歯車装置における固体潤滑への取組みと粉体潤滑への挑戦」黒木潤一氏(ハーモニック・ドライブ・システムズ)…波動歯車装置の伝達効率を低下させる潤滑剤の撹拌抵抗という問題に対して、撹拌抵抗を抑制する固体潤滑としてMoS2粉体を用いて伝達効率を改善した事例を紹介。同粉体潤滑による宇宙用途(極低温環境)での可能性について示した。

3)「ロケットエンジンに欠かすことのできない固体潤滑剤」髙田仁志氏(宇宙航空研究開発機構)…極低温環境で高速回転が要求されるターボポンプ軸受などロケットエンジンにおける固体潤滑剤の役割や、宇宙開発で使用される固体潤滑剤の代表的な種類、シミュレーションによる性能予測が難しい固体潤滑剤を用いたトライボロジー要素に対する性能評価手法と運用などについて紹介した。

 2日目となる28日には、以下のとおり講演がなされた。

セッション「観察・分析技術」

1)「トライボ現象解明のための表面観察・分析技術」佐々木信也氏(東京理科大学)…トライボ表面は摩擦により機械的刺激を受けているため動的に変化していることから、本当の摩擦面の状態を知るにはIn-situあるいはオペランドと呼ばれるその場観察が必要とされる。ここでは、和周波発生分光分析(SFG)やラマン分光分析、周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を活用した、摩擦面のその場観察事例を示した。
 

固体潤滑シンポジウム 講演する佐々木氏 bmt ベアリング&モーション・テック
講演する佐々木氏

 

2)「各種分析法を用いたトライボロジー解析の実例」沼田俊充氏(日産アーク)…NOxガス吹き込みにより市販エンジンオイルを劣化させLC-MSによるオイル中の添加剤分析と摩擦試験後のトライボフィルムについてAFM、ラマン分光を用いて複合的に解析した事例を紹介した。LC-MSでは、各種添加剤の定性や含有量の変化を、AFMとラマン分光の複合解析では摩擦面突起部でのMoS2の面積率の算出による摩擦係数との関連性の評価が可能となると総括した。

セッション「シミュレーション技術」

1)「トライボ分子シミュレーションの概要と固体潤滑分野における適用例」鷲津仁志氏(兵庫県立大学)…分子シミュレーションによって解明されたグラファイトの低摩擦発現機構について、真実接触点でのグラフェンの熱回避運動や、グラフェンが移着片として存在しうる条件など低摩擦機構に関する研究成果について紹介した。そのほか、酸化グラフェンや高分子がグラフェンとは全く異なる摩擦機構を有し、全原子分子動力学では材料の違いによる摩擦発現の詳細を調べることができることなどを解説した。

セッション「鉄道」

1)「鉄道における固体潤滑剤の適用事例」久保田喜雄氏(鉄道総合技術研究所)…鉄道における固体潤滑剤の適用事例として路面制輪子・ブレーキライニングやパンタグラフすり板、車輪/レール間の潤滑剤、橋梁の支承、分岐器の床板の事例を紹介するとともに、路面調整子の開発や新幹線のブレーキ摩擦材に含まれる黒鉛の耐久性と摩擦係数の関係の調査、二硫化モリブデングリースによるトロリ線の摩耗低減といった、近年の研究開発動向を紹介した。

2)「車輪/レール接触境界の潤滑と摩擦制御」深貝晋也氏(鉄道総合技術研究所)…曲線区間では車輪フランジとレールゲージコーナーの摩擦で急速に摩耗することが、メンテナンス上の主要な課題となっているほか、急曲線区間では振動や騒音が発生する場合もあり、こうした状況に対処するため、車輪/レール接触部に潤滑剤や摩擦調整剤などを供給して摩擦の状態を制御する技術がある。ここでは、曲線区間の車輪とレールが接触する境界への潤滑や摩擦を制御する対策技術や鉄道総研での開発事例を紹介した。

セッション「テクスチャリング」

1)「新規固体潤滑材(ZnO、セリサイト)とテクスチャの相乗効果」宇佐美初彦氏(名城大学)…下地へのテクスチャ付与で固体潤滑剤の流出を抑制し摩耗を抑制しつつ低摩擦を維持できる可能性がある。特に無機系固体潤滑剤を金属素地に複合する際には化学的な結合が期待できないので、アンカー効果等による密着性向上に期待がかかる。ここでは、近年適用が検討されつつある酸化亜鉛(ZnO)やセリサイトといった無機系材料を軟質金属と複合させ、予めテクスチャを付与した金属素地上に成膜した表面の摩擦特性を評価した結果を報告した。

2)「往復しゅう動における凸テクスチャ上に成膜された軟質金属膜の耐食耐摩耗性改善」関 秀明氏(大同工業)…自動車タイミングチェーンの張力を維持しつつ振動を抑制する密着巻きしたゼンマイばね間の摩擦を利用し減衰力を得る機械式テンショナには、ばね表面には高い耐摩耗性と安定した摩擦力の維持が求められる。ここでは、ゼンマイばねのしゅう動面に凸テクスチャを形成し、その上に軟質金属の亜鉛を成膜した複合処理により、機械式テンショナの耐食性・耐摩耗性を向上できる可能性を示した。

3)「ボーナイトとテクスチャの相乗効果」佐藤知広氏(関西大学)…ボーナイトは銅鉄系の硫化物であり二硫化モリブデンのような固体潤滑特性を有し、かつ銅系合金の溶解時やアトマイズ時に合金化できる特徴を有する。ここでは、硫化物分散青銅合金に表面テクスチャを加えた際の相乗効果について紹介した。網目状に亜鉛をショットピーニングした後に錫をショットピーニングした試験片のしゅう動特性が、錫をショットピーニングしただけの試験片に比べ良好であったと報告した。