航空機や建設機械など大型機械、さらにはそれらを加工する大型工作機械の需要が増加してきている。また、新興国の経済成長に伴う医療・福祉の向上などから、医療機器、中でもがんの早期発見につながるCTスキャン装置の市場が、グローバルで拡大基調にある。
ガントリの大口径化とともに大型化するCTスキャン用ベアリング
世界市場でのこうした大型構造物の増加に伴い、それら機械装置の回転機構を支えるボールベアリングもまた、大型化してきている。
こうした大型軸受の需要拡大に対して、ベアリングの追加加工を手掛ける日本軸受加工では、大型ベアリング専用の工場設置や設備投資を進めている。
ベアリングが高速回転することで温度上昇が起こり、軸受材料が熱膨張して適正なラジアルすき間が維持できないことがある。こうした事態に備えた軸受ユーザーからの委託により日本軸受加工では、軌道面をミクロン単位で研磨し、すき間の手直しを行っている。
また、高速回転に伴う発熱対策として、工作機械主軸の組み合わせアンギュラ玉軸受の間座の給油孔の加工なども、工作機械の仕様に合わせて行う。
同社の大型ベアリングへの加工は、大型工作機械のテーブル用ベアリングなどで実績がある。たとえば、独シェフラー社で外径4,000㎜強まで対応するアキシアル・ラジアル複合ころ軸受などがラインナップされている、あれである。
同社の伊藤正憲社長は、「CTスキャン装置のベアリングは現在、内径900㎜程度のものが多いが、内径1m超まで大型化した設計がなされてきている」という。
CTスキャン装置では、患者が横たわったベッドがガントリ部に進入、その際にガントリ部が患者の周りを回転してX線撮影する。このガントリ部が大口径化することで、欧米人のように体格の大きな患者でも検査できるようになる。また、人体の患部がガントリ部の中央に位置するときに鮮明な画像が得られることなどから、大口径化により心臓を診る時などにはベッドをオフセットさせ患部が中央にくるよう位置決めできるようになる。確かに、ガントリの大口径化とともにベアリングは大型化する傾向にあり、精密画像を得るために振動を抑制したNTNの「CTスキャナ用低振動軸受」では、軸受外径が1,200㎜に及ぶ。
風力発電機では外径1,580㎜のベアリングも
また、風力発電機では、出力1.5MW級で外径1,000㎜程度だったベアリングが、国内最大級の出力2.4MW風車向けのベアリングでは外径1,580㎜に及ぶ(NTN)。
こうした大型ベアリングの加工の需要に対して、日本軸受加工では大型研削盤を導入、伊藤社長の設計により、外径、内径を同時に研削できる機械や、軸受の姿勢を90°変えられ、複合加工ができる機械なども稼働しているという。
風力発電機を開発する某社によれば、「風力発電機の高出力化に伴いそのベアリングもかつてない大型化が進展、経験のない大型化から予期せぬ故障もあった」としているが、この風力発電機ひとつをとっても、実際の使用にあたっては仕様に合わせた各種の加工や、使用条件に合わせた潤滑技術、潤滑剤を異物から守り機能させるオイルシールの技術、長期耐久性を実現する軸受の高清浄度鋼技術など、複合的な取り組みが必要とされる。もちろん1社のみで対応できることではない。先の日本軸受加工でも、熱処理など表面改質や、内・外輪への歯切り加工などは協力企業に外注するという。新しいアプリケーションには、既存の技術ネットワークだけでなく、新たな技術リソースも模索し、活用していかなくてはならない。
かつてないベアリングの大型化に伴う経験のない使用に対しては、中小企業の光る技が活躍する場面が、まだまだ多そうである。