ミネベアミツミでは2015年8月28日に、外径1.5㎜ボールベアリングが「世界最小の量産可能なボールベアリング」としてギネス世界記録に認定されている。これに続いて昨年11月14日には、その外径1.5㎜ベアリングを使用したハンドスピナーが「世界最小のハンドスピナー」(認定数値:5.09mm)に認定。さらに昨年12月11日には、同社と三菱プレシジョンが共同開発したハンドスピナー「Real Spin Ms'」を利用して、ミネベアミツミ広報室長の石川尊之氏が「一本の指の上でハンドスピナーを回す最長時間」で24分46.34秒を達成、三度目となるギネス世界記録に認定された。
ここでは、「Real Spin Ms'」の商品開発に携わった営業本部 マーケティング部 商品企画室 主査の小口忠徳氏と、ギネス世界記録を達成した広報室長の石川氏に、最長回転ハンドスピナーの開発を中心に話を聞いた。
超精密機械加工技術で世界一を目指す
日本でもハンドスピナーが大流行した昨年夏ごろ、ミネベアミツミでは「世界一の技術を生かしたハンドスピナーを作って、世界記録を狙おう」との話が持ち上がった。一つがギネス認定の世界最小ベアリングを使った世界最小のハンドスピナーの製作であり、もう一つが、外径22㎜以下のミニチュア・小径ベアリングで世界トップシェアを誇る「NMB(ミネベアミツミのボールベアリングの登録商標)ベアリング」など超精密機械加工技術を活かした、世界最長回転時間のハンドスピナーの開発である。
滑らかに長く回り続けるための設計や組立を必要とする後者のプロジェクトにあたり、ミネベアミツミは、同社のベアリングを使って人工衛星用ジャイロなどを製造しベアリング・回転に関する知見が豊富な三菱プレシジョンに共同開発を打診した。すると、「ぜひ、やりましょう」との回答。昨年9月ごろから、ミネベアミツミがハンドスピナーの構成部品(図2)となる「ベアリング」と、ベアリング外輪とともに回転する「ホイール・リング」、ベアリング内輪と嵌合される「ホルダー・ナット」の超精密機械加工を担当し、三菱プレシジョンが宇宙機器で培ったノウハウを投入して設計や組立、試験にあたる、というプロジェクトが始まった。
世の中にない専用ベアリング、さらには最長回転スピナーの開発へ
プロジェクトチームではまず、当面の回転時間の目標を15分と定めディスカッションを重ね、各構成要素を専用設計した。
まずはベアリングだが、スピナーの回転時間の長時間化を考慮した専用ベアリングを作らなくてはならない。低摩擦のセラミックボールを転動体に採用したほか、強度的に厚みが必要とされる樹脂製保持器ではなく、ステンレス製とし薄肉にして加工を施すことで、保持器の接触抵抗も少なくした。一方で、この専用ベアリングでは一般的な軸受ラジアルすき間が負の(予圧のかかった)状態ではなく、ラジアルすき間の最大値をとって最適化した。
回転体は外側を重くし内側を極限まで軽くすることで、角運動量の最大化を狙った。つまり、リングを真ちゅう製として外側を重くしつつ、ホイールにはアルミ合金中で最も高強度なA7000系を使い、さらに2mm厚と極限まで薄肉に削って内側を軽くした。ここでは航空機に使われるロッドエンドベアリングの技術が応用され、回転のさらなる長時間化につながった。
それでも組立精度が悪いと回転時間に影響することから、三菱プレシジョンでは宇宙機器生産を行うクリーンルームで、真ちゅう製リングを熱しつつアルミ製ホイールを液体窒素で冷却するという精密嵌め合い技術を用いて組み立てた。
さらにホルダー・ナットには医療機器や精密機器で培った技術を応用し最上級レベルの表面仕上げを実現した。
試作は7回に及んだが、ミネベアミツミ機械加工品製造本部の技術・製造力の結集と、三菱プレシジョンの設計・組立・試験などを経て、力の弱い女性が回しても回転時間20分を軽くクリアできる仕上がりのハンドスピナーが完成した。
100個限定で販売し完売した「Real Spin Ms'」の商品名は、ミネベアミツミの高性能なベアリングを使えば真の回転になるという意味合いをこめて、また、究極の回転持続時間の実現を成し遂げた両社の頭文字「M」を冠して、ネーミングされた。
一本の指の上で回す世界最長時間を達成、ベアリングが表舞台で主役になった瞬間
開発したハンドスピナーを用いて、ミネベアミツミ各部署を代表する6人が、回転時間を測定する東京陸上競技協会から派遣されたタイムキーパーの立ち合いで「一本の指の上でハンドスピナーを回す最長時間」記録に挑んだ。結果、石川広報室長が24分46.34秒を達成、ギネス世界記録に認定され、ベアリングをはじめとする超精密機械加工技術を世界中に広報することとなった。
「ベアリングは当社の祖業であり柱の事業だが、常に縁の下の力持ちで一般的に陽の目を見ることは少なかった。今回ベアリングがキーテクのハンドスピナーで、あらためて世界一に認められたことで、ベアリング事業は表舞台で真の主役になった。ハンドスピナーに夢中になっている子供たちにも、ベアリングのすごさを知ってもらうことができた」と石川氏。
同社は昨年、ミネベアとミツミ電機が統合して発足したが、旧ミツミ側の社員はベアリングになじみがあまりない。しかし今回のギネス認定でベアリングを身近に感じ、世界最小および世界最長回転ハンドスピナーを目当てにショールームを訪れる社員が増えている。
小口氏は、「開発期間は約2ヵ月と短かったが各員が真剣に取り組んだ。その技術の結集と情熱によって、世界一の商品を生み出すことができた。何よりも、技術で世界に挑戦し続ける姿勢を社内外に示せた。やってみて本当によかった」と感慨深く語った。