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TTRFと大豊工業、自動車のトライボロジーで第3回国際シンポジウムを開催

 大豊工業トライボロジー研究財団(TTRF)と大豊工業は4月18日、名古屋市の名古屋国際会議場で「TTRF-TAIHO International Symposium on Automotive Tribology 2018」を開催、160名が参加した。

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 「トライボロジーの自動車社会への貢献」を全体テーマに掲げる同シンポジウムは、トライボロジー研究の進展と自動車技術への応用等に関しトップレベルの情報を交換するとともに、この分野での産学連携の現状と将来の可能性を示しその強化を図ることを目的に、2016年から開催されている。3回目となる今回は 、「Tribology Technologies for the Evolution of Powertrain」のテーマのもとで開催された。

 当日は開会の挨拶に立った杉原功一実行委員長(大豊工業社長)が、「大豊工業は曾田範宗先生、木村好次先生をはじめアカデミアの多くのトライボロジー研究者の指導を受けながら、トライボロジーをコア技術として、マイクログルーブ軸受や樹脂コーティング軸受といった先進エンジンベアリングを世に送り出してきた。TTRFは、当社が多くの恩恵を受けてきたトライボロジーの研究開発支援と啓蒙に寄与する目的で2000年に設立。以来、2017年度までに76のトライボロジーの研究テーマに対し170万USドルの助成を行っている。今後も、アカデミアとインダストリーのコラボレーションの強化によって、さらなるトライボロジー研究の活性化を支援していきたい。自動車業界は現在、電動化、燃料電池、自動運転などに向けた100年に一度といわれる大変革の只中にあるが、劇的な構造変化が求められ、様々な技術課題が突き付けられる中でトライボロジー技術の一層の高度化が問題解決のソリューションとなると考えている。本日も、アカデミアとインダストリーの両者のアグレッシブなディスカッションを通じて、トライボロジー研究開発の促進に寄与できればと期待している」と述べた。

杉原功一 氏杉原功一 氏

 続いて、Kenneth G. Holmberg氏(VTT Tech. Research)をチェアマンとして、以下のとおり基調講演が行われた。

・「Advanced Automotive Power System Technologies beyond 2030 and towards 2050」大聖泰弘氏(早稲田大学)…内燃機関の熱効率50%を目指して、同氏の率いる損失低減チームと、ガソリン燃焼チーム、ディーゼル燃焼チーム、制御チームからなる「SIP革新的燃焼技術」と、自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)の取組みを紹介した。さらに電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HEV)、燃料電池車(FCV)など電動化車両の日本における現状の技術と今後のロードマップなどが示された。さらに、(ターボチャージャー採用などによる)パワーシステムのダウンサイジングと自動車の軽量化(超ハイテン材の採用や金属部品の樹脂化など)との相乗効果によって、エネルギー消費の低減といった高効率化や、CO2排出量削減などの環境への負荷低減、安全性向上につながるとした。バイオ燃料や水素など低炭素の再生可能エネルギーを用いた先進モビリティ技術を開発するには、インダストリーとアカデミア、政府による継続的なコラボレーションが必要と強調した。

大聖泰弘 氏大聖泰弘 氏

・「Tribological Aspects of Conrod Bearing Development for the W12 TSI Engine of Volkswagen」Jürgen Strobel氏(Volkswagen社)…シリンダーライナーにオイルポケットを形成する大気圧プラズマスプレー(APS)コーティングの採用や、独自のピストン設計、摩擦・エミッションに最適なピストンリング、最適なコネクティングロッドの設計、鍛造・高周波焼入れのクランクシャフト、新しいコンロッド軸受シェルの設計などの特徴を持つW12 TSIエンジンにおける、コンロッド軸受の選定経緯について説明した。数種の軸受を通常運転、自社テストコースでの高負荷運転、ベンチ試験で評価。オンラインで摩耗計測できるVW社の独自RNT技術を用いたベアリング損傷(摩耗量)評価の結果、最終的に大豊工業の樹脂系オーバレイを施したアルミ合金系軸受が基準をクリアして選定されたことなどが報告された。

Jürgen Strobel 氏Jürgen Strobel 氏

・「Direction of Powertrain Development faced with an era of the Electrified Vehicle」安部静生氏(トヨタ自動車)…ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCHV)、バッテリー式電気自動車(BEV)など電動化車両の開発を促進することで、CO2排出量を2010年度に比べ90%削減するアプローチを紹介。HEVでのエンジンの低フリクション化など燃費向上の取組みやPHEVにおける「デュアルモータードライブ」採用によるEV走行距離の伸張などの取組みを紹介したほか、PHEVとBEVとの環境性能やコスト面などを比較。また、高出力でEV走行距離の長いバッテリーとして、開発を進める全固体電池などを紹介した。

安部静生 氏安部静生 氏

続いて萩原秀美氏(不二WPC)をチェアマンに、エンジンをテーマとするセッションが以下のとおり行われた。

・「Measurement Techniques for Engine Tribology」伊東明美氏(東京都市大学)…エンジントライボロジーで要求される計測技術の一つとして、エンジンの摩擦損失低減やオイル消費低減などを目的に、しゅう動面への供給油量の計測を取り上げた。光ファイバー式圧力センサによる圧力測定装置を用いたオイルリング下の油圧計測やオイルリング溝周辺に設ける最適な油穴位置のオイル消費量に及ぼす影響、ピストンリングのなじみ性、オイルリングしゅう動面における油膜形成、さらにはピストン挙動のオイル膜厚への影響などを評価している事例を紹介した。今後の課題としては、トライボロジカルな分析のさらなる向上のためには引き続きしゅう動面への供給油量の計測と摺動面の形状の計測が必要、と結論付けた。

伊東明美 氏伊東明美 氏

・「Improvement of the Measurement Technique for Engine Friction Loss in Firing Conditions」石川泰裕氏(いすゞ中央研究所)…エンジン摩擦損失の計測手法「圧力角速度法」の計測精度を高め、直列4気筒ディーゼルエンジンに適用することで、エンジンのファイアリング実働時でのクランク角度に対する摩擦トルクを計測できたことを報告。樹脂コーティングを施したクランク軸受を用いて燃費改善効果を検討した事例では、標準軸受に比べ中負荷~高負荷の低回転速度領域において摩擦損失が低減する結果となったが、これは軸受表面に塗布した低摩擦の固体潤滑剤によって局所的な固体接触領域で発生する摩擦力が低減したと考察した。産業界からアカデミアへの期待として、実際のエンジンの状態を考慮に入れた、エンジン部品のテクスチャ表面の摩擦を試験評価できる手法の開発を挙げた。

石川泰裕 氏石川泰裕 氏

・「Challenges of Engine Bearing Robustness under Perspective of the use of Low Friction Oils for Fuel Efficiency」Martin Offenbecher氏(Miba Gleitlager Austria社)…ベアリングメーカーの立場から、エンジンのフリクションの多くを占めるクランクトレインの摩擦ロスを低減しつつベアリングのロバスト性を保持するためのアプローチについて考察した。エンジン油の低粘度化は流体潤滑領域でのフリクション低減には有効だが、耐荷重性能が低下し境界潤滑領域での摩耗増大につながる。これに対して、樹脂コーティングSynthecを施したエンジンベアリングでは、耐荷重能の低下が見られなかった。また、耐荷重・耐摩耗添加剤ZDDPの配合量の少ないフォーミュレーションでは金属軸受では耐荷重能が低下するが、Synthecコーティングを被覆したベアリングでは耐荷重能の低下が見られなかったことなどを報告した。

Martin Offenbecher 氏Martin Offenbecher 氏

さらに小宮健一氏(JXTGエネルギー)をチェアマンとして、トランスミッションをテーマに、以下のとおりセッションが行われた。

・「Belt Behavior of Modeled CVT (Continuously Variable Transmission) with Semitransparent Pulleys and Acrylic Resin Elements-Influence of Stiffness of V-belt in Clamping Direction-」大窪和也氏(同志社大学)…オイルポンプによる油圧を用いて可動プーリ-固定プーリ間にVベルトをクランプしてトラクション力を発生させるVベルト式CVTでは、オイルポンプがエネルギーロス全体の1/4を占めていることから、CVTの効率改善ではクランプ力を減らす必要がある。研究では、ベルトピッチ半径を増やした際に、プーリ溝にあるベルトエレメントの挙動として、ベルトエレメントとプーリ間の径方向の目立ったすべりは見られなかった。また、プーリ溝にあるベルトのピッチ半径は、プーリ溝においてクランプされる行程でのベルトの変形に左右された。さらに、ベルトのタイプに関わらずクランプ方向にベルトの剛性が低下した際に、CVTのシフト速度が改善された。

大窪和也 氏大窪和也 氏

・「Formulating Fluids for eMobility Transmissions」Christopher S. Cleveland氏(Afton Chemical社)…ドライブトレインの電動化から潤滑油および添加剤に技術革新が求められているとして、電動変速機油(ETF)に関して、添加剤パッケージの極圧性能や銅板腐食、はんだとの適合性、高温特性、銅板化学腐食への温度依存性、エージングおよび銅板適合性、導電性の温度依存性、導電性の粘度依存性、熱伝導性の温度依存性などについての検証結果を報告。新しいETFは自動変速機油(ATF)と手動変速機油(MTF)の両方の要求特性を併せ持つ必要があるとした。新開発のETF添加剤技術では、低粘度油でも良好な導電性を付与できること、優れたギヤ保護性能や銅板適合性を発現できること、耐摩耗性と極圧性能を強化しつつ酸化安定性を大きく改善できることなどを示した。

Christopher S. Cleveland 氏Christopher S. Cleveland 氏

 講演終了後は、楠 隆博氏(大豊工業専務取締役)が挨拶に立ち、「本シンポジウムを継続することを通じて、アカデミアとインダストリーとのつながりの強化に寄与していく役割は非常に重要と考える。こうした取組みによってトライボロジー技術の一層の高度化に貢献し、自動車産業の発展に寄与していきたい」と述べて、本シンポジウムは閉会した。

楠 隆博 氏楠 隆博 氏