空スペース( http://coo-space.com/ )は、保持器なしで転動体(ボール)同士を非接触にする自律分散式転がり軸受「ADB(Autonomous Decentralized Bearing)」について、潤滑に頼らずに損傷を防止でき低トルク化が可能、といったメリットを強調し、自動車分野での採用を促している。
『機械工学便覧』によれば、転がり摩擦の実測値はμ=0.00002なのに対して、転がり軸受製品の摩擦は通常μ=0.001程度と、転がり摩擦の50倍以上を示す。空スペースでは、この原因が「保持器すべり」にあるとして、保持器をなくしつつボールを分散させ非接触とすることで潤滑に頼らずに摩擦を低減できるADBを開発している。
ADBのしくみ
同社社長の河島壯介氏は、ボールが軌道以外と非接触で保持器が不要なADBでは、大別して①省エネルギーと②損傷防止の効果がある、と語る。潤滑油の種類や供給方法、軸受の使用状況によって各効果の度合いは違ってくるが、たとえば潤滑油量を1/100に減らせれば省エネにつながるし、潤滑油量の削減を1/10程度にとどめておけば損傷防止の効果が増すというわけだ。
自動車での適用を考えたとき、これら二つのメリットのうち、省エネ化については、油量を抑える、低トルク化を図る、軽量化する、周辺部品を含めたユニット化を図る、など自動車メーカーの考えるアプローチは様々であり、軸受単体での実現は難しい。これに対して損傷防止に関しては、軸受単体で効果を上げることが可能だという。
たとえば第三世代ハブベアリングでは、複列アンギュラ玉軸受が用いられ軸受剛性向上や振動・騒音抑制のため予圧がかけられるが、保持器を持たないADBではボールのサイズを若干大きく(オーバーサイズに)することで、軸受単体で予圧がかけられる。「オーバーボール予圧」は、ボールねじではすでに行われている手法だ。適切な潤滑剤を封入し最適な予圧調整がなされた軸受の形で納入できれば、ユーザーは組み込むだけでよく、予圧調整にかかる手間を減らすことができる。
こうしたようにユーザー側での調整を軽減しつつ損傷防止や低トルク化が実現できる可能性を持つADBへの引き合いが徐々に増えてきているという。たとえばユニバンスでは、4WDパワートランスファーユニットのはすば歯車の支持にADBを適用することで起動トルクが半減できるとして、検討を進めている。
電気自動車(EV)のモーター用軸受やターボチャージャー用軸受など高速化のアプリケーションでも、ADBへの関心は高い。たとえばターボチャージャー用軸受としては、現状はすべり軸受が主流のため流体潤滑下で用いられるが、高レスポンス化を目的に転がり軸受に切り替えようとする際には、高速・高温に対応する潤滑や保持器の工夫は避けて通れないが、保持器を持たず潤滑に頼らないADBでは潤滑問題に関するユーザーの負担が減らせるのでは、との期待感からだ。EVでも高出力化のための高速回転化が求められ、ADBによる同様の効果が期待される。
空スペースの河島社長は、「最近開発した“内輪穴充填構造”による深溝玉軸受と複列アンギュラ玉軸受も、従来の同軸受と完全互換で表裏と取付け方向の制約がなく、取付けに起因する不具合をなくすなど、ユーザーの使い勝手を高めている。軸受使用量の多い自動車分野では“細かな調整が必要なく使い方だけを考えればよい軸受”へのニーズは高いと思う」と語っている。
4WDパワートランスファーユニット(ユニバンス提供)