日本トライボロジー学会の会員提案研究会「高分子材料のトライボロジー研究会」(主査:西谷要介 工学院大学 教授)の通算76回(平成30年度第3回)研究会が3月27日、東京都新宿区の工学院大学新宿校舎で開催された。
開催のようす
当日はまず、開会の挨拶に立った西谷氏が、本年5月20日~22日に開催される「トライボロジー会議 2019 春 東京」の初日20日の午前に同研究会主催のシンポジウム「高分子材料のトライボロジー」の開催が決定していることを報告し、会員各位の参加を呼び掛けた。また、会員提案研究会を継続するためのミッションとして、他研究会との合同開催などが義務付けられていることを報告し、各位の協力を求めた。
挨拶する西谷氏
続いて、以下4件の話題提供がなされた。
「高分子材料のトライボロジー」七澤 淳氏(旭化成)…高分子材料の摩擦摩耗の原理は、金属材料と共通している一方で、その機械的特性が温度に依存することや、その熱伝導率の低さゆえに摩擦熱の蓄積による温度上昇を考慮した材料の選定を考慮する必要があること、高分子材料の摩擦摩耗特性は高分子鎖の配向性や表面の状態によって変わるが高分子鎖の配向性や表面状態は成形条件に依存すること、などを解説した。また、代表的な摺動材料の四フッ化エチレン(PTFE)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)66の原子構造による摩擦摩耗特性を説明。低摩擦の標準的なPOMに潤滑剤を加えた同社グレードでは極低摩擦を発現できること、耐摩耗性が高い一方で摩擦係数が高いPA66をPTFEとアロイ化した同社グレードでは耐摩耗性と低摩擦特性を両立できること、などを紹介した。
七澤氏
「各種スーパーエンプラの摺動特性の比較」山田 聡氏(極東商会)…同社が注力する耐熱温度150℃以上のスーパーエンプラ(ポリイミド(PI)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI))について、潤滑および無潤滑環境下、低速および中速および高速下での摩擦摩耗特性について比較。高い耐熱性を有し摩擦摩耗特性に優れる一方で高コストの熱硬化性PIに対して、PAIがコストを抑えつつそれに匹敵する摺動特性を実現できる可能性を示した。代表的なグレードでの性能比較を紹介したが、近年はボールベアリングのリテーナなど高速・低荷重といった、用途に合わせ細分化した材料・グレードが増えてきていることから、用途に最適な材料を提案できるとした。
山田氏
「ポリケトンと炭素鋼の摩擦摩耗特性に及ぼすオレイン酸潤滑の影響」冨田 博嗣氏(オイレス工業)…摺動材料としてポリアセタールよりも高温での使用が可能でポリアミドよりも低コストが実現可能なポリケトン樹脂について、トライボロジー特性を把握して軸受材料としての開発を目指すべく、ポリケトンと炭素鋼(S45C)との摩擦試験を実施。無潤滑下で高い摩擦係数を示すポリケトンが、特に極性基のあるオレイン酸や脂肪酸エステルという潤滑剤塗布下で摩擦・摩耗ともに大幅に低減されること、鋼表面への吸着力が強いポリケトンの摩擦に伴う摩耗粒子が鋼表面に移着、被膜が形成されることで摩耗が抑制されるのではないかと考察した。
冨田氏