自動車技術会(JSAE、会長:大津啓司氏(本田技研工業))は横浜市のパシフィコ横浜で、「2024年春季大会」会期中の5月23日に「第74 回自動車技術会賞」授賞式を開催した。
自動車技術会賞は、1951年に自動車工学および自動車技術の向上発展を奨励することを目的として設けられ、自動車技術における多大な貢献・功績に対し贈呈されている。トライボロジー関連では今回、以下のとおり表彰がなされた。
技術開発賞
「高EGR内燃機関用高耐食低摩耗ピストンシールシステムの開発」
平山勇人氏・金子格三氏・高木裕介氏・田井中直也氏(日産自動車)、篠原章郎氏(リケン(現リケンNPR))
カーボンニュートラル実現に向けたCO2削減のためエンジン燃費改善は最重要課題。EGR率向上による排気凝縮水の増加や硫黄含有燃料により、ボア腐食環境が厳しくなっている。これらの背景から、耐食性を向上したステンレス溶射ボアを開発したが、溶射膜の表面気孔増加によるオイル消費の助長、しゅう動相手材のダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を成膜したピストンリングのアブレシブ摩耗が課題だった。
本開発では、溶射膜組織の硬質相を低減し、表面気孔が少ないオイル消費抑制表面を形成できることを見いだした。また、DLC膜の硬度を下げることで脱落したドロップレット形状に倣って変形することにより、高耐摩耗性を実現した。ステンレス溶射ボアと低硬度DLCピストンリングの組み合わせでEGR率20%を成立し、燃費を4%向上させた。本開発での知見は、EGR率30%以上の実現、腐食環境が厳しいバイオ燃料等のカーボンニュートラル燃料の拡大に適用可能な成果であることが高く評価された。
技術開発賞
「世界最高水準の伝達効率をもつ高効率固定式等速ジョイント」
藤尾輝明氏・船橋雅司氏・﨑原立己氏(NTN)
カーボンニュートラルの実現に向けてCO2排出量削減が急務となる中、自動車の駆動部品である等速ジョイント(CVJ)はエンジンやモーターの動力をタイヤに伝達するための回転軸であり、高効率化の必要性が高い部品の一つである。
そこで受賞者らは、タイヤ側に搭載される固定式CVJの従来の構造概念を大きく変え、ボールが転がる転動溝が内輪・外輪で互いに交差するとともに、隣り合う転動溝が互い違いに傾斜した独自の「スフェリカルクロスグルーブ構造」を開発した。その構造によってCVJの内部部品間に発生する力を相殺でき、世界最高水準の高効率化(従来品に対しトルク損失率を50%以上低減)と軽量・コンパクトを達成した。本技術が適用されることで、自動車の燃費・電費向上やCO2排出量削減に貢献できることが高く評価された。