東陽テクニカは昨年11月1日、自社開発したコンパクトサイズの油中粒子計測器「PI-1000」(https://www.toyo.co.jp/lp/las/)の販売を開始した。PI-1000は、レーザー遮光法を用い独自の脱泡手法を駆使することで、潤滑油中の粒子の大きさと量を高精度に測定。さまざまな産業で効率的な状態監視を可能にし、コスト削減や省人化、産業インフラの長寿命化に貢献する。
発売開始に伴い同年11月29日には、PI-1000の「メディア向けレクチャー会」を以下のとおり開催した。
当日はまず、同社 取締役 CTO/技術本部長の木内健雄氏が、軸受やギヤなどしゅう動部品を有する各種インフラ設備(ダム・水門の開閉ポンプ、農業・河川の水量コントロール設備、発電設備など)が、高度成長期からおよそ50年経過してその老朽化が喫緊の課題となっている背景から、無人による安定した潤滑油およびしゅう動部品、さらには設備の状態監視によって効率的な状態監視、予知保全を実現し、コスト削減や省人化、産業インフラの長寿命化に貢献できるPI-1000の概要について紹介した。航空エンジンのオーバーホールのような時間のかかる分解チェックを必要とせず、潤滑油の状態、軸受など可動部の状態を見ることで設備の状態監視が可能になるため、メンテナンス作業の労力軽減やメンテナンス機関の最適化などに貢献でき、サステナブル社会の実現に寄与できることを強調した。
続いて、ワン・テクノロジー・カンパニー LAS(Lubrication Analysis)ビジネスユニット 統括マネージャーの阿部泰尚氏が、PI-1000の原理や特長について以下のとおり説明した。
ベアリングやギヤなど可動部を持つ各種設備のしゅうどう部では、摩擦・摩耗の制御を目的にオイル潤滑がなされているが、しゅう動部では部品同士が擦れながら滑り合うため経時的に摩耗が発生し、それにより細かな粒子である摩耗紛が潤滑油中に放出される。
同社の持つシーズをベースとした新製品の開発とその事業化に取り組む社内カンパニーである「ワン・テクノロジー・カンパニー」は、この潤滑油中の摩耗紛に着目して、機械の状態監視や予知保全につながる油中粒子計測器PI-1000を独自に開発した。
PI-1000は、潤滑油中の摩耗紛の大きさと量を高精度に捉えることで、軸受やギヤなどのしゅう動部品やオイルの状態を把握し、その交換時期を最適化できる。細かな粒子および非磁性の粒子でも測定可能な「レーザー遮光法」を採用、演算処理機能の内蔵により、常時オイル粘度によって変化する流速を計算しつつ、摩耗粉の油中の落下時間によって摩耗粉の粒径をその場で演算する。振動や熱、濁りといった外的要因に左右されず、μmレベルで粒子の大きさ、量を測定できる(計測粒子範囲:5~150μm)。
さらに、独自の減圧による脱泡手法(特許申請中)を用いて、摩耗粉と誤認される可能性のある油中の泡(~40μm程度)の誤検知をなくし、数μm単位の高い精度で測定が可能。潤滑油中に放出される粒子のサイズや量によって、部品の状態を判断することができ、部品さらには機械の劣化状態を精確に捉えることができる。
計測器内に内蔵された演算処理機能によって取得データの劣化がなく、Webブラウザ経由で、手持ちのPCで取得データの表示や計測器の制御、計測条件の入力が可能となる。
また、本体には小型ポンプを内蔵し給油・排油を自動化しているほか、オプションの「オイル戻しユニット」を用いることで排油を計測対象機器に戻すこと(排油の再利用)も可能なため、無人による安定した長時間の計測を実現できる。
疲労で放出される摩耗粉の粒径は90μm以上、危険な損傷モードの摩耗粉の粒径は90~130μm以上とされるが、留意すべき摩耗粉の粒径は設備の種類によって、さらには設備の稼働状況によって変わってくる。PI-1000を用いて自社の設備の良好な油中摩耗粉の状態を確認して1μm単位で摩耗粉粒径の閾値を設置できることから、エンジンやギヤの状態を常時監視できる。異常が発生する前にその兆候を捉えることで、例えば洋上風力発電設備においては、これまで人手が必要だったギヤボックスや発電装置などの潤滑油の抜き取り検査を、無人による状態監視で対応できるようになり、潤滑油の適切な交換時期が判断できる。また、自動運転技術が進むさまざまなモビリティの状態監視にも活用できることも見込んでいる。
同社ではさらに、PI-1000の販売だけでなく、オイル分析・データ分析のコンサルティング業務も実施する。トライボロジー研究開発に長年従事してきた同社技術顧問で東京電機大学教授の松本謙司氏らの知見をもとに、測定データの分析サービスも提供。分析結果から導き出した適切な対応の提案(各装置の良好な潤滑状態=適切な粒径に関するアドバイスなど)も行っていく。
阿部氏は、「エンジンベンチ、ミッションベンチをターゲットとしていたが、すでに洋上風力発電装置の潤滑油の監視といったインフラ関連や、鉄道車両用ディーゼルエンジン油の監視など、幅広い産業での引き合いが増えてきている」と言う。
PI-1000の販売価格は390万円(税別)で、同社では2025年に100台の販売を見込むが、木内氏は「当社では、PI-1000を設備に込み込んで設備状態監視に利用してもらうよう提案を進めており、世の中にある産業設備・インフラ設備がほぼすべて対象となる。潜在的な需要は計り知れない」と語っている。