空スペースは、保持器なしで転動体(ボール)同士を非接触にする技術、ADB®(Autonomous Decentralized Bearing/自律分散式転がり軸受)のアメリカと中国の特許権について譲渡先を募集する。
同社にはこれまで、国内だけでなく海外の企業からもADB特許権の譲渡についての打診があり、国内では主に市販軸受の改造によって2000個余りのADBを販売しているものの、海外企業との取引は少量のサンプル販売に留まっていた。そこで、有効活用がなされていなかったADBのアメリカと中国の特許権について具体的な譲渡額を公示して取引を進めることで、海外ビジネスを推進していく。
一方で空スペースでは、自動車用高速ターボチャージャー軸受などについて国内で進めているADBの特許権侵害訴訟に関して、米国の譲渡先企業が訴訟相手に証拠開示を請求できる「ディスカバリー制度」などを利用して国内訴訟で有利になるADBの特許権侵害の証拠収集にもつなげたい考えだ。
ボールが軌道以外と非接触で保持器が不要なADBでは、大別して①省エネルギーと②損傷防止の効果がある。潤滑油の種類や供給方法、軸受の使用状況によって各効果の度合いは違ってくるが、たとえば潤滑油量を1/100に減らせれば省エネにつながり、潤滑油量の削減を1/10程度にとどめれば損傷防止の効果が増す。
こうしたことからADBは、自動車用高速ターボチャージャー軸受や風力発電用主軸・ピッチ軸受、従来軸受では困難な極低温での使用が可能な液化水素作製の圧縮機・ポンプ用軸受、グリースとシールが不要な海水潤滑軸受(海洋研究開発機構でトルク1/100を確認)、軸受の破損保持器片(金属)混入の恐れがないリチウムイオン電池(LiB電池)製造ライン向け軸受、高温限界を超えるタービンや加熱炉向けの軸受などで適用できることが確認されている。
例えば自動車用ターボチャージャー用軸受としては、現状すべり軸受が主流のため流体潤滑下で用いられるが、高レスポンス化を目的に転がり軸受に切り替えようとする際には、高速・高温に対応する潤滑や保持器の工夫は避けて通れないが、保持器を持たず潤滑に頼らないADBでは潤滑問題に関するユーザーの負担が減らせる。自動車用ターボチャージャー軸受けではすでに、ADBの特許が使用されていると見られている。
また、風力発電用主軸・ピッチ軸受については、風力発電装置大手のデンマークVESTAS社の風車の大幅な出力向上と故障減少にADBが寄与した可能性がうかがえる。
アメリカ・中国でのADB特許権譲受者は、自動車用高速ターボチャージャー軸受など上述の幅広いアプリケーションでの適用が可能な、ADBの当該国での製造・販売・輸出入が可能となる。
空スペースの河島壯介社長は、「ADBの特許権が無断で使用されていると考えられる自動車用高速ターボチャージャー軸受や風力発電用主軸・ピッチ軸受、LiB電池製造ライン向け軸受について、ADB特許権譲受者がADBの適用を進める中で、譲受者は当該国においてそうしたアプリケーションに関して特許侵害訴訟を起こすことも想定しており、その際に当社は、主に技術内容について可能なサポートをしていく。日本の特許権侵害訴訟では、侵害を訴える場合、その立証責任は特許権者である当社にあって、訴訟相手には特許侵害の証拠集めが要求されるが、訴訟相手に米国のように、訴訟相手が特許権を侵害していないという証拠開示を求めることができず、特許権の侵害を認定するための証拠集めが容易ではなく、特許権侵害行為を放置せざるを得ない『侵害した者勝ち』となるケースが少なくない。今回、有効活用がなされていなかったADBのアメリカと中国の特許について具体的な譲渡額を公示しつつ特許権の譲渡を進めることを通じて、海外ビジネスを推進していく。その一方で、自動車用高速ターボチャージャー軸受など、国内で進めているADBの特許権侵害訴訟に関して、米国の譲渡先企業が訴訟相手に証拠開示を請求できるディスカバリー制度などを利用して、国内訴訟で有利になるADBの特許権侵害の証拠収集にもつなげていきたい」と語っている。