「ハノーバーメッセ2025 プレスプレビュー」開催、展示会の概要・見どころを紹介
本年3月31日~4月4日にドイツ・ハノーバー国際見本市会場で開催される世界最大の産業技術見本市「HANNOVER MESSE(ハノーバーメッセ)2025」(主催:ドイツメッセ)に関して、2月19日に同国際見本市会場で「Hannover Messe 2025 Press Preview」が開催され、世界中からジャーナリストが参加する中、概要と見どころが紹介された。当日は出展予定企業のうちイグスやシェフラー、シュンク、フエストなど約30社がミニブースを併設し、ハノーバーメッセ2025で出展予定の製品・技術を披露した。
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■プレスプレビュー
ハノーバーメッセの概要と、地政学的現状での産業競争力向上における役割
当日はまずプレスカンファレンスが行われ、主催者であるドイツメッセCEOのJochen Köckler氏が挨拶に立ち、「ハノーバーメッセ2025の概要とトレンド」と題して、開催の見どころや地政学的問題を抱える中での産業競争力向上に対して本展示会が果たす役割などについて紹介した。
・大手企業から中堅、スタートアップまで4000社の技術が集結
ハノーバーメッセ2025では、一般エンジニアリング、電気、デジタル業界、エネルギー部門の約4000社が、実際のアプリケーション例や人工知能(AI)を中心に、未来の生産とエネルギー供給のためのソリューションを展示する。アマゾンウェブサービス、ボッシュ、グーグル、マイクロソフト、シーメンスなどの世界的なテクノロジー大手が、ベッコフ、フエスト、ハーティング、シェフラー、ハーティング、イグス、シュンクなどの中堅テクノロジーリーダーとともに展示するほか、フラウンホーファー研究機構やカールスルーエ工科大学(KIT)などの著名な研究機関が次世代の産業ソリューションの概要を示す一方、さまざまな技術分野の300社を超えるスタートアップ企業が革新的なイノベーションを発表する。
・産業競争力を高める AI
産業界における競争圧力が高まる中、企業は生産性向上と効率改善を両立するソリューションを必要としており、ここでは AI が重要な役割を果たす。Köckler氏は「インダストリー 4.0 はハノーバーメッセで始まった。そして我々は今、AIで次の章の執筆に取りかかっている。重要なことは、企業が自社のプロセスへの迅速で的確なAIの導入を実施するために必要な知識を持っていること。ハノーバーメッセは、実用的なソリューション、専門家の洞察、すぐに展開できる事例など、まさに適切な答えを導き出す。AI は既存の機械や生産プロセスを最適化し、効率を高めてよりスマート化する。これは、産業の競争力を確保するための重要な要素」と語った。
・実際のアプリケーション例にフォーカス
ハノーバー メッセは、商品やサービスの購入の意思を決定する「意思決定者」を対象としている。生産プロセスを自動化するための個別のロボット ソリューションを探している生産管理者や、工場全体のデジタル化を検討しているマネージングディレクターは、ハノーバーメッセで適切な担当者とつながることができる。焦点は、ターゲット ソリューションと企業全体の全面的な変革の両方にあり、それは常に競争力向上に関わる。
この観点からハノーバーメッセ2025では「アプリケーションパーク」を設けている。これは出展者が、最新のロボットソリューションが生産効率を高める方法、例えばロボットがレーザー溶接を最適化する方法や、バッテリーセルの生産をより効率的かつ持続可能にする方法など)を実演する展示エリア。Köckler氏は「企業はここで、生産プロセスの最適化に向けた貴重な洞察を得る。より速く、より正確に、より資源を節約しながら製造するソリューションが示唆される」と力強く語った。
・地政学的問題でも決定的役割を果たすハノーバーメッセ
産業の競争力は経済戦略にも左右されることから、Köckler氏は、経済と地政学の両方の情勢に影響を与える決定が下される重要な場所でもあるハノーバーメッセのもう一つの強みと見る。
Köckler氏は「米国は、自国の『米国第一主義』政策を厳格に追求することを非常に明確にした。同時に、中国政府が国内産業を大規模に強化し、経済の方向性を的確に定めていることは明らかだ。これは、欧州と国際社会におけるそのパートナーに対する明白なシグナルである。今こそ、さらに緊密に連携し、統一された地経学的戦略を策定し、断固として実行する時だ。ハノーバーメッセは、この文脈でも決定的な役割を果たす。今後数年間、このイベントは、欧州の技術革新プラットフォームとして、また、欧州の経済発展と貿易の発展の両方において、重要性を増すだろう。ヨーロッパの産業とそのパートナーの発展に貢献し、より強力な国際協力の原動力となる」と述べ、さらにドイツの現在の政治状況を念頭に置き、「2月23日のドイツ議会選挙の結果や、ハノーバーメッセ開幕時にすでに新政権や現職の役職者がいるかどうかに関わりなく、主要経済拠点としてのドイツの政治的責任を担う者は誰でも、ハノーバーメッセに参加し自国の技術力の発信と貿易促進に努める必要がある」と強調した。
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パートナーカントリー、カナダ
続いて、ハノーバーメッセ2025のパートナーカントリーであるカナダを代表して、カナダ政府 シニアディレクターのChristina Bilyk氏を司会に、ハノーバーメッセ2025に出展する重要性についてのセッションが行われた。
駐独カナダ大使館のEvelyne Coulombe氏は、カナダとドイツのパートナーシップの歩みについて、ドイツのショルツ前首相がカナダのトルドー首相に協力を要請したことからパートナーシップが始まった経緯から、このプロセスが実現するまでに2年以上の歳月を要したこと、ドイツとの本パートナーシップが両国の経済に役立つことを語った。このパートナーシップの戦略的重要性を強調してCoulombe氏は、「この大西洋横断のコラボレーションは、経済と技術の進歩を約束するもの。ハノーバーメッセ2025は、こうした協調関係の強化と新しいビジネスの拡大の絶好の機会」と述べた。
また、ネクストジェネレーションマニュファクチャリングカナダ(Ngen)CEOのJason Myers氏は、ハノーバーメッセでのカナダの存在感の高まりについて振り返り、「ハノーバーメッセ2024には約80社のカナダ企業が参加しイノベーションを披露し、すでにパートナーカントリーであるかのような印象を与えたが、パートナーカントリーとなった今回のハノーバーメッセ2025では現時点で225社のカナダ企業が参加して。AIやグリーンエネルギー、デジタルトランスフォーメーション(DX)など得意とする分野の技術を発信する。今回のカナダの公式な役割は、カナダ、ドイツ、そして世界の参加者間のコラボレーション、イノベーション、貿易の機会を拡大するだろう」と語った。
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セッショントーク「産業におけるAI活用」
さらに、「AI in industry(産業におけるAI活用)」と題するセッショントークが行われ、産業界を代表してAltair社 バイスプレジデントのFatma Kocer-Poyraz氏が、学界を代表してヨハネスケプラー・リンツ大学のSepp Hochreiter氏が登壇した。
Kocer-Poyraz氏は、製品開発におけるAIの適用について、スマートフォンから自動車、電子キー、建機・重機に至るほぼすべての製品で耐久寿命を含めた設計がなされているが、クラッシュ試験を伴うような自動車の設計では、多数のアイデアがあっても、一つの設計に数週間、数カ月と各々を形にするには時間と労力がかかりすぎて数例しか試行できない。これに対してAIを活用した設計では、解析が数時間、数日で、寿命予測が数秒~数分で完了できるため、多くのアイデアを形にすることが可能。設計・データ活用と開発技術、設計のためのソフトウェアを組み合わせることで複雑な形状の部品のシミュレーションを可能にした事例として、Altairの形状機械学習技術によって実際の挙動と予測結果の優れた層間が取れたエアバッグの開発事例やするAltairのReduced Order Model(縮約モデル)ソリューションを用いて、農業機械用プラウ(犂)の従来の解析時間13時間を3秒で完了した事例などを紹介した。多くの優れたアイデアを形にすることをあきらめる必要はない、と総括した。
Hochreiter氏は、「産業用AIの黎明期」と題して、数十億パラメーターの言語モデルにおいてGoogleのディープラーニングの学習モデルTransformerよりも拡張性が高い新しいLSTMアーキテクチャ「xLSTM」を紹介した。xLSTMは推論速度もTransformerよりはるかに迅速でエネルギー効率が高いため、ロボティクスや自動運転の自動車やドローン、自動生産システムなどに産業用途に幅広く適用できることをアピールした。
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カナダ企業が ROBOTICS AWARD 2025 を受賞
プレスプレビューではまた、ハノーバーメッセの開催に際しドイツメッセがロボットベースの自動化および物流ソリューションを表彰する「ROBOTICS AWARD(ロボティクスアワード)」の受賞者を発表、カナダの Maple Advanced Robotics社、ドイツのLeverage Robotics、米国のMantis Roboticsが受賞した。
受賞したMaple Advanced Robotics社のMARI AARSプロジェクトは、高速でコード不要のプログラミングを実現する AI 駆動型ロボット工学プラットフォームで、高度な3Dスキャン、自動ロボットパス生成、コーディングやCADファイルを必要としない直感的なグラフィカルフローチャートインターフェースによって実現されている。さらに、MARI AARSプラットフォームには偏差を補正する機能が含まれており、一貫した品質レベルを保証しており、「自律的なパスプランニングにより、MARIは多品種生産の最大の課題の一つである継続的な再プログラミングとセットアップを解決したことにより、特に中小企業にとって、熟練労働者の不足にも対処できるようになる」と評価されての受賞となった。
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■ミニ展示会
プレスプレビューに合わせて、ハノーバーメッセ2025に出展予定の企業のうち、約30社がミニブースを構えた。ベアリング・モーション技術(bmt)関連の製品・技術では、ハノーバーメッセ2025で披露される予定の、以下のような展示がなされた。
イグス(ハノーバーメッセ2025での出展ブース(以下、同)ホール6、ブースE26)
イグスは、「潤滑剤ゼロ」のPFAS対策として、同社のすべての固体潤滑を含有した標準すべり軸受材料イグリデュールを変更し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フリーの材料を開発、披露する。すでに滑り軸受、リニアガイド、旋回ベアリング(ロータリーテーブルベアリング)、貼るだけで滑りを改善する「トライボテープライナー」など全製品の92%でPTFEフリーおよびPFASテスト済みの代替品を提供開始している。社内の試験室で摩擦・摩耗挙動について分析したところ、PTFEを含む基準材料と比較して、PTFE フリー材料の性能が大幅に優れていることが確認されている。
また、「プラスチック廃棄ゼロ」の提案として、2022年に開発が成功した、ユーザーから回収した製品を粉砕し再生したリサイクル素材「igumid CG LW」で作られたケーブル保護管「エナジーチェーン」を披露する。すでに、標準エナジーチェーンシリーズE2.1の全製品を同リサイクル素材に切り替えているという。このリサイクルチェーンシリーズにより、ユーザーもプラスチックの循環型経済に貢献できる。リサイクルE2.1シリーズは、標準素材で作られたエナジーチェーンと同じ価格で提供され、標準素材で作られたエナジーチェーンシリーズと比べ機械的特性は同等で、CO2フットプリントが80%低減できる。
さらに、「ドライクリーンルームのパーティクルゼロ」の提案として、電気自動車(EV)用リチウムイオン電池製造用のドライクリーンルームなどの特殊な用途向けのエナジーチェーン「E6.29」を展示する。フラウンホーファーIPAと共同での長期試験でクリーンルーム適合性が確認されており、1500万回のダブルストローク、つまり10カ月後でも、上部シェルと下部シェルからなるコルゲートチューブ状のクリーンルーム用エネルギー供給システム「eスキンソフトSKS28」が ISOクラス4の高清浄度を達成している。
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シェフラー(ホール5、ブースD18/ホール13、ブースE41/1)
シェフラーは、2024年10 月のヴィテスコテクノロジーズ合併によって生まれた 八つの製品ファミリーをベースに、業界のさまざまな市場分野にサービスを提供し、ヒューマノイド用コンポーネントなどの将来技術によって持続的に変革可能なことをアピールする。
その一つが、軽量ロボットとコボット向けの革新的な「XZUアンギュラコンタクトニードルローラーベアリング」で、コンパクトなデザイン、高効率、軽量を実現し、その優れた特性により、ハノーバーメッセ2025の「HERMES AWARD(エルメスアワード)」)にノミネートされている。
また、高解像度と直線性により、産業用ドライブトレインでのトルクの正確な非接触測定を可能にする「TorqueSense」トルクセンサーも紹介。例えば、建設機械や農業機械を正確に監視・制御でき、産業機械の過負荷保護を実現できる。
シェフラーは、ロボット工学の論理的な発展を示すヒューマノイドの技術に特に高い可能性を見出しており、この最先端技術の主要コンポーネント(ベアリング、ギヤボックスコンポーネント、センサー、アクチュエーター、電気モーターなど)を提供し、技術的に重要な進歩によってヒューマノイドロボットを最適化できる立場にあると考えている。
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シュンク(ホール6、ブースF21)
シュンクは、同社コントロールセンターにおいて、ユーザーがプロセスステップを常に完全に把握できること、最新の機械式グリッパーをデジタルで試運転、監視し、必要に応じて調整できることをアピールする。このファミリーには、EZUセントリックグリッパー、EGUパラレルグリッパー、小型コンポーネント用のEKG電動グリッパーが含まれる。これらグリッパーは、さまざまなロボットメーカー向けの幅広い通信インターフェイス、PLC機能ブロック、およびプラグインを提供するほか、コントロールセンターは拡張構成オプションと定期的な更新ソフトウェアを提供し、ユーザーはグリッパーの潜在能力を最大限に引き出すことができる。
また、同社がデジタル ビルディング ブロックを開発する際に、オープンでユーザー中心のアプローチを採用、この目的のためにGitHubやROSなどのオープンプラットフォームで新しいグリッパー用のオープンソースソフトウェアを提供し、さらなる開発に利用できるようにして、アプリケーションの範囲を拡大していることを訴求する。産業用ロボットだけでなく、さまざまな環境で使用できるコボットやヒューマノイドロボットにも適用可能で、独自のヒューマノイ SVH5指グリッピングハンドをオープンソースソフトウェアおよびデジタルツインとして提供している。
未来のデジタルファクトリーは、現実世界で形になる前に仮想的に計画および最適化され、特に複雑なシステムは産業用メタバースでより効率的に設計およびシミュレーションできるため、時間と労力を削減できる。同社ではこれをサポートするために13000個のすべてのコンポーネントのCADデータを提供し、それらを徐々に非常にリアルなデジタルツインに改良している。最新のメカトロニックグリッパーは、高度なデジタルツインとしてすでに利用可能で、通信インターフェイスだけでなく、移動中のグリッパーの物理的動作も再現できることをアピールする。
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電気自動車向け自動ハンドリングシステム(丸型バッテリーセルグリッパーRCG搭載)(下)
フエスト(ホール7、ブースA32)
フエストは、同社の創立100周年を記念して、研究所において、多くの材料と装置を導入し、さまざまな部門から集まった大規模なチームが協力して、印象的な「記念展示」、まったく新しいタイプのアプリケーションの開発に取り組んでいる。
その一つが、空気圧、電気、デジタル、またはそれらの組み合わせなどによるモーションテクノロジーを具現化した「eMotionButterfly」。展示ではeMotionButterflyが自ら羽ばたき、複数の機械をシームレスに動かす「Incredible Machine」を披露する。この羽ばたきは機械内で魅力的な動きの旅を開始するが、それは、立ち止まることが許されない、革新と進歩を特徴とする産業オートメーションの世界であり、このアプリケーションは、自動化技術分野における同社の多様なスキルと豊富な専門知識、そして不可能を可能にする革新的な精神を実証するもの。発明力と先駆者精神は、当初から同社のDNAの一部であり、蝶の羽ばたきが一連の機械の動きを引き起こすのと同じように、小さな動きが産業に大きな変化をもたらすことがあることを暗示するものとなる。
Incredible Machineは、100年の同社の技術革新を象徴しつつ、未来に目を向け、空気圧、電気、デジタル、またはそれらの組み合わせといった同社のモーションテクノロジーに目を向けさせる狙いだ。
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なお、ハノーバーメッセ 2025に関する問い合わせ先は、以下のとおり。
International Linkage ドイツメッセ日本代表部 竹生学史(たけお・まさひと)氏
TEL:080-1396-9902または03-6403-5817
E-mail : masahito.takeo@intl-linkage.co.jp