大塚化学とグーテンベルクは近年、材料×機械共創による樹脂3D造形のロボティクス分野への展開を進めている。ここでは、大塚化学 化学品事業本部/グーテンベルク 取締役の稲田幸輔氏とグーテンベルク 開発部 ハードウェア開発部門 エンジニアリングマネージャーの山口勇二氏に、話を聞いた。

1.FFF方式3D造形用の機能性複合樹脂フィラメント
大塚化学のチタン酸カリウム繊維(TISMO)は繊維長10~20μm、繊維径0.3~0.5μmと極めて微細・高アスペクト比で、高強度・高剛性、優れた摩擦摩耗特性、断熱性、耐熱性、耐薬品性などの特長を有する。そのTISMOの特性と、各種の熱可塑性樹脂の特性を巧みに組み合わせた樹脂複合材料「POTICON:Potassium Titanate Compound、POTICON」は、①極小・超薄肉製品の超精密成形が可能(ミクロ補強性)、②相手材への低い攻撃性と無潤滑での高いしゅう動性、③成形での優れた寸法精度と寸法安定性、④成形品の高い金型転写性と鏡面状態の平滑面、⑤優れたリサイクル性、などの特長を持つ。
それらの特長から、しゅう動部品や精密部品などで適用を広げてきたPOTICON材料について、2016年頃からは3D造形用材料としての展開を開始。熱溶解積層(FFF)方式の3D造形を選択し開発した「POTICONフィラメント」(図1)は、①造形品のミクロ補強性、②ノズルの摩耗低減、③造形品の優れた寸法精度と寸法安定性、④造形品の優れた表面平滑性、などの利点を提供している。
以降、材料(POTICONフィラメント)と、ハード(後述の高速3DプリンターG-ZERO)、さらにソフト(スライサーなど)の「三位一体による開発」を重ねる中で、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、そして遂にはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の造形を可能にし、3D造形の生産性(速度・コスト)、品質、強度を向上させ、適用可能な範囲を拡大してきている。

FFF方式の高速・高精度3Dプリンター
山口氏が開発に携わったFFF方式の高速3Dプリンター「G-ZERO」(図2)は、造形の速さを左右する要素の一つであるツールヘッドのノズル最大移動速度が500mm/s、プリントヘッド最大加速度20000mm/s2と、発売から4年経過した現在でも同価格帯の市場にある3Dプリンターの中でもトップクラスの速度と加速度を誇る。
G-ZEROが高精度部品を短時間で出力できる技術としては、歪みのない高剛性フレーム、ブレの少ない精緻な描画を可能にする軽量ツールヘッド(現在はG-ZEROとPOTICONフィラメントで造形)、そして自動ベッドレベリング(水平出し)の組み合わせ技術などがある。
G-ZEROシリーズはまた、平坦なエリアでの造形(厚さ0.1mmのA3サイズのシート、目開き100μmのメッシュ、厚さ0.05mmのフィルムの造形など)を可能としている。

材料×機械の共創による樹脂3D造形技術の向上
共創の始まりと進展
POTICONフィラメントの性能を最大限に引き出す造形が可能な3Dプリンターを模索していた稲田氏は2022年、日本複合材料学会主催の3D造形関連ワークショップでグーテンベルクのG-ZEROに出会い、これを機にPOTICONフィラメントとG-ZEROで試作造形し、大塚化学の研究所で造形品の物性を評価する、という共創が始まった。
2023年にグーテンベルクへの出資が決まり両社での材料・装置開発に着手、2024年には大型部品を分割せずに一発造形できる大型産業用3Dプリンター「G-ZERO L1」を市場に投入した。
材料ロスのないPEEKフィラメントと、実用PEEK造形が可能な高速プリンターの開発
PEEKは高い機械的特性やしゅう動特性、耐熱性など優れた特長を有するが、材料コストが高価な上、部品化には高い切削加工費用と除去加工に伴う材料の廃棄処理が必要だった。
これに対し、FFF方式3D造形は廃材が少なく(環境対応)、造形・処理コストの削減が図れる。両社は2025年、実用部品の高速・高精度・高強度造形が可能なPEEK POTICONフィラメント「KT14(ナチュラル色グレード)」「KT14B(黒色グレード)」(図3)と、産業向けで不可欠な造形の繰り返し品質を担保できるPEEK対応プリンター「G-ZERO MP1」(図4)が完成した。

PEEK造形のためのさまざまな工夫を盛り込むことで、PEEKの高速・高精度・高強度造形(XY方向では射出成形品レベルの強度)を実現している。
ロボット分野における樹脂3D造形の展開
樹脂3D造形の社会実装先として重要なロボット分野では、POTICONフィラメントとG-ZEROを用いてアカデミアとともに早くから各種ロボットの研究開発を進めてきたが、アカデミアを起点にロボット適用の裾野が広がってきている。
樹脂製超軽量ロボット創出に向けたNEDOプロジェクト
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「新産業・革新技術創出に向けた先導研究プログラム」において、研究課題「生活空間を含む人との共存環境下でのロボティクス活用に資する革新的アクチュエータ等の構築」が採択。研究テーマは「FFF方式の造形による樹脂製超軽量ロボットの研究開発」で、FFF方式の3D造形技術と複合樹脂材料技術を基盤に、軽量で高強度なロボット部材の製造技術を確立し、人との共存環境下で本質的に安全な次世代ロボティクスへの応用を目指す。
グーテンベルクがG-ZEROをベースにプリンターの製造・造形条件の最適化を、大塚化学が主に高強度フィラメントの開発を行うことで、高強度部品造形技術の開発を進め、東京科学大学をはじめとするアカデミアが機械特性評価とロボット開発を進める。
次世代ロボット開発支援
両社は2025年から、NHK高専ロボコンに挑む阿南工業高等専門学校、新居浜工業高等専門学校、高知工業高等専門学校に対し、また「NHK学生ロボコン」に挑む東京科学大学、東京工科大学、東京大学に対し、3D造形技術を活用したロボット製作の協力活動を行っている。大塚化学がPOTICONフィラメントを提供しグーテンベルクがG-ZEROを貸与して、ロボット要素部品の製作を支援、それを通じて各部品の強度評価と繰り返し荷重に対する層間破断の発生メカニズム解析や、力学的な側面からのデータ収集・分析による材料と3D造形部品の特性の解明を実施する。この協力活動を通じて、教育・研究分野や幅広いロボット開発・製造現場での3D造形の利用可能性拡大への貢献を目指す。
高専ロボコンの支援結果としては、G-ZEROによる高速造形でロボット部品を超短期に開発できる上、PA系POTICONフィラメントによるアルミ部材からの一部代替も可能なため大幅な軽量化が図れ、また構造部材とスライド部材の一体化が可能になったなどの評価があった(図5)。

機構の軽量化によってボックスの積み上げにおける可搬重量をアップ
また、学生ロボコンの支援結果としては、PPS系POTICONフィラメントの高速造形部品に置き換えたことで、剛性不足・表面硬度不足・長い加工時間・手間のかかるバリ取り作業といった問題が一気に解決されたなどの評価があった(図6)。

大塚化学はまた、本年8月8日・9日に開催される、災害現場を模したフィールドでの被災者救助のためのロボコン「レスキューロボットコンテスト2026」に冠スポンサー(大塚化学POTICON杯)として協賛している(図7)。参加24チームから競技会予選で選出された12チームが、1/4スケール(模型)の救助競技に挑む。大塚化学は予選24チームの20チームに対してPA系POTICONフィラメントを提供、他社製3Dプリンターを使ったチームもこれまでの材料よりも高強度・高精度な部品が製作できたとの評価を得ている。さらに、選抜された12チームのうち、スライダーやガイドなどのしゅう動性を上げたい、構造部材+スライド部材といった一体化によって小型・軽量化を図りたい、などの具体的で建設的なアイデアを提案した2チームに対し、G-ZEROを貸与して支援する。

このほか、日米の学生団体が共同で火星探査ローバーを開発する「KARURAプロジェクト」においても宇宙進出をサポートしている。火星の堆積物を採取するための掘削装置、インホイールモーターのハブのそれぞれを、PPS系POTICONフィラメントとG-ZEROで3D造形、高負荷下での部品の耐久性を確保している(図8)。

国産産業用3Dプリンターの次のステージへ
両社が共創を始めてから3年、高速プリンターG-ZEROは国産産業用プリンターとしての地位を確立し認知度も高まってきている。
稲田氏は、「G-ZEROはミドルレンジの価格帯で、高精度・高強度造形、PEEK造形が可能とハイエンド級の性能を提供できる。展示会のたびに毎回新機種・新材料を発表し開発の継続性を示せていることも、認知度向上につながっているものと思う」と語る。
山口氏は、「現在では0.2mmノズルで切削品と同等の高強度・高精度で造形できる。これは、大塚化学での分析・評価支援により材料課題を先行発見し、両社で改善サイクルを迅速に回した結果」と述べる。
稲田氏はまた、「日本発の工業品質のPEEK造形技術を世界市場にアピールし、グローバル展開を図りたい」と意気込む。
グローバル展開: RAPID + TCT 2026展への出展と成果
両社は本年4月14日~16日に米国ボストンで開催された3Dプリンティングの国際展「RAPID + TCT 2026」に出展した。PEEKに対するリテラシーの高い航空宇宙、半導体・エレクトロニクス、医療機器などに向けたさまざまなアプリケーションを展示したが、何よりもG-ZERO MP1とPEEK POTICONフィラメントを用いた造形デモにおいて、PEEKの高速造形を高い繰り返し精度で可能なことがPEEKリテラシーの高い来場者の注目を集めた。
同展示会を担当した山口氏は「米国市場では類のない卓上3DプリンターによってPEEKの高精度・高強度造形ができていることが、高く評価された。現地のインフルエンサーによる、PEEK高速造形デモと、後処理なしのPOTICON PEEKで造形されたM3ねじの造形サンプルのInstagramは、60万回以上も再生され、米国、欧州、東南アジアなどからの400件以上の問い合わせに追われている状況」と語る。
稲田氏は、「海外展開を本格的に進める上では、造形技術のブラッシュアップと並行して、EU安全基準適合CEや米国製品安全規格ULへの適合性評価なども不可欠だ」と述べる。
PEEK造形技術の展開
PEEKは高い剛性を持ちつつ高い柔軟性(粘り)を有するため、ロボット部品として良好な物性を示すと見られる。
一方で、すでに切削加工や射出成型でPEEKの使用実績がある半導体・エレクトロニクス向けに、帯電防止機能のある黒色PEEKによる半導体チップ搬送トレイ(図9)の造形などに成功している。帯電防止PEEK造形品は一部顧客で評価を開始、本年末までに正式リリースする予定だ。
山口氏は、「NEDOプロジェクトやロボコンなど各種の取り組みを通じて進化させた3D造形手法を国内外のユーザーに提供することで、部品製作の時短などユーザーの付加価値向上につなげていきたい」と述べている。

