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潤滑油協会、2024年度 潤滑油研究会を開催

 潤滑油協会(JALOS)は7月10日、「2024年度 潤滑油研究会」を開催、約140名が参加した。資源エネルギー庁の支援を受け、潤滑油の品質確保事業等への支援事業(補助事業)の一環として、潤滑油技術等に携わる人材を育成するために必要な潤滑油関連情報を提供することを目的として開催。2020~2023年度はコロナウイルス感染対策としてウェブミーティング形式で開催されていたが、本年度より通常の会場開催となったもの。

潤滑油研究会2024 開催のようす bmt ベアリング&モーション・テック
開催のようす

 

 当日は開会の挨拶として、JALOS潤滑油製造業近代化委員会 委員長で三和化成工業顧問の和川敬之氏が「本研究会はアンケートに基づき、その時々に応じた話題を提供している。エンジン油の規格から基油の話、最近では厳しさを増す化学物質の話題や、昨今ではEV化やカーボンニュートラル関連の話題も取り扱っている。本日は2件の講演があり、出光興産からは潤滑油産業が社会全体の脱炭素化に貢献し続けるために必要な取り組みと同社が提供するソリューションの各種事例について、本田技術研究所からはモビリティにおける電動パワーユニットの性能進化に必要な技術について、それぞれ講演をいただく。本日の研究会が皆様にとって有意義なものとなるよう祈念している」と述べた。

潤滑油研究会2024 開会の挨拶を行う和川氏 bmt ベアリング&モーション・テック
開会の挨拶を行う和川氏

 

 続いて以下のとおり講演がなされた。

講演1「持続可能(サステナブル)な社会の実現に向けた潤滑剤産業の課題と出光の挑戦」田村和志氏(出光興産)

 潤滑剤産業のサステナビリティに関する課題としては、サステナビリティに関する潤滑剤へのニーズや付加価値の具体化、潤滑剤業界固有の標準化されたサステナビリティ評価方法と製品間の比較可能性を有する製品別算定ルール(PCR)の策定があり、これらが①潤滑剤による社会全体のサステナビリティへの貢献(削減貢献とカーボンプライシング)に必要とされる。また、潤滑剤のリサイクル・資源循環を推進するための社会システムの整備、植物由来基油に関する技術開発・市場創造が、②サステナブルな原材料を使用した潤滑剤の市場導入(資源循環の実現と再生可能原材料の利用)につながる。

 潤滑剤による社会全体のサステナビリティへの貢献では、社会全体のサステナビリティに貢献するために、カーボンフットプリント(CFP)の低減とともに削減貢献量の維持・向上、削減貢献量を犠牲にしてCFP低減を図るような取り組みの防止、省エネ・省燃費性能の継続的な向上(CFP、削減貢献量に関するガイドライン整備、省エネ・省燃費製品の規格・標準化)、環境対応技術の社会実装を後押しするようなカーボンプライシング制度の戦略的活用が重要。

 サステナブルな原材料を使用した潤滑剤の市場導入では、潤滑剤製品のサステナブル化の方策としてマテリアルリサイクル(基油再生)の推進と再生可能原材料の利用、基油再生は欧米島ではすでに事業化されておりバージン基油同等の性能を発揮させることが技術的に可能、基油再生が真にサステナブルであるかは慎重な検討が必要(基油再生の実現には環境影響の正確な把握と社会システムの整備が必要)、再生可能原材料の利用は現時点ではコストが過大(再生可能原材料を使用した革新的な製品の開発と市場創造が必要)。

 さらに出光興産のソリューションとして、同社が製品CFPはもちろん削減貢献量も重視し「社会全体のサステナビリティに貢献する潤滑剤」の開発・製造・販売に取り組んでおり、サステナブル潤滑剤の市場創造のため「サステナブルな原材料を活用した革新的な潤滑剤」の開発に取り組んでいることを紹介。これらの活動を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していくと総括した。

潤滑油研究会2024 講演する田村氏 bmt ベアリング&モーション・テック
講演する田村氏

 

講演2「電動パワーユニットの進化に伴うトライボロジー技術」加藤維識氏(本田技術研究所)

 自動車の電動化の状況について概説したほか、電気自動車の電動パワーユニット(PU)においても軸受やギヤ、ギヤの冷却油、電動ポンプ、各部位のフリクションなど、トライボロジー技術が要求されるテーマは多いと説明。

 モータ性能は温度に依存するため冷却が重要など、電動PUにおいて性能を向上させるには熱を効率的にマネジメントすることが大切となる。高電圧モータの冷却では、大型ラジエータで冷やした水を循環させ壁を介して冷やした水と接触させる「顕熱方式」が主流で、冷却能力を向上させるには接触部の表面積を増やしつつ冷却流体の量を増やす必要があり冷却システムが大型化するという問題がある。熱を効率的にマネジメントするには内燃機関でさまざまな採用実績を有する潤滑油を用いた小型でレイアウトに左右されない「コイル内油冷」が望ましいとしつつ、コイル冷却する技術を進化させる大容量の熱交換技術、油中泡の影響、表面性状の影響などについて検討を加えた。

 潤滑油による顕熱で冷却性能を向上させるには表面積と油量が大きいほうが良いため冷却システムの大型化につながってしまうため、絶縁流体を用いた潜熱方式が検討されているが、ウォータージャケット内にて沸騰させた絶縁流体の大きな気化潜熱を利用することで冷却系をコンパクトにできる「沸騰冷却システム」を紹介。自社の沸騰冷却テストの結果、表面の性状による違いでは、表面積を増やしつつ流体の流れを変えることのできるディンプルの付与によって熱交換がしやすくなり、流れが大きくなることによる冷却効果の向上によって、熱交換能力が合計で40%向上したと報告した。電動PUの冷却において、同じ流体の量でも表面テクスチャなどで表面積を増やすことや、フルードの動的接触角、ぬれ性を改善することで冷却性能を向上できることを示唆した。

 今後必要な研究として、①大容量の熱交換に必要な高性能の流体システム、②同流体システムにも使える動力損失の少ない表面積が大きい表面構造、③システムの各要素部品を電動化に対応させた改良、と総括した。

潤滑油研究会2024 講演する加藤氏 bmt ベアリング&モーション・テック
講演する加藤氏

 

 講演終了後の挨拶に立ったJALOS会長の石川裕二氏(中外油化学工業会長)は、「本研究会は毎回、7月10日の『潤滑油・オイル(OIL)の日』に開催しているが、この記念日は私が制定した。コンサドーレ札幌のコンサドーレは道産子(ドサンコ)を逆さに、また、私の地元である埼玉県の草加市にあるアコスホールのアコス(AKOS)は草加(SOKA)を逆さに読んだもので命名している。こうした連想から、2007年の全国石油工業協同組合の長い会議の最中に、眠気覚ましにノートに落書きしたOIL の文字を逆さにしたら710に見えたので、本日7月10日をOILの日に決めたものだ。さて、潤滑油協会では本日講演いただいたようなテーマに対しても前向きに取り組んでいるが、さまざまな取り組みの中でもBCP(事業継続計画)対策に力を入れている。集中豪雨や地震などの災害だけでなく、社員の多くがコロナウイルスや熱中症に罹患した際にも、我々の潤滑油を製造する工場がすぐに復旧・稼働できるような体制を構築する必要がある。本年から当協会は新社屋において本格的に実務をスタートしている。新人スタッフも新たに2名加わり新体制で職務に邁進しているので、当会に対し引き続き、皆様のご指導、ご協力を仰ぎたい」と述べて、閉会した。

潤滑油研究会2024 閉会の挨拶を行う石川JALOS会長 bmt ベアリング&モーション・テック
閉会の挨拶を行う石川JALOS会長