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NTN、iPS心筋細胞を効率的に精度よく配置するバイオプリンティング技術を開発

 NTNは、創薬分野における新たなバイオプリンティング方式として独自開発した「微細塗布装置」を用いて、iPS細胞由来心筋細胞(iPS心筋細胞)を実験用プレート上に効率的に精度よく配置(播種)する技術を開発した。従来の人手作業による配置を自動化することで、創薬実験の効率化や信頼性の向上、細胞の使用量削減に貢献する。

 微細塗布装置は、針の先端に付着させた数pL(ピコリットル:1兆分の1L)の液剤を1回あたり0.1秒と高速かつ±15μm(マイクロメートル:1000分の1mm)以下の精度で定位置に適量塗布する装置。自動車部品や半導体などの分野で多数の採用実績がある。同社では、その高速かつ定位置・適量の塗布技術を生かし、本商品のライフサイエンス分野への応用を進めている。特長は以下のとおり。

・定位置塗布:数pLの極少量の液剤を±15μm以下の繰り返し位置決め精度で目標位置に塗布

・高粘性対応:100Pa・sまでの高粘度な液剤の塗布が可能

・高速:1回あたり0.1秒の高速塗布

NTN 微細塗布装置の基本構成 bmt ベアリング&モーション・テック
微細塗布装置の基本構成

 

 同社では今回、創薬実験において、iPS心筋細胞の働き(拍動)を検出するため、微細塗布装置を用いて細胞を実験用プレートに精度よく配置することに成功した。これは、大阪大学大学院 工学研究科 NTN次世代協働研究所による成果を含む。

 細胞を用いた機能評価試験や薬効評価は、作業者の違いなどにより、同じ実験を同じ条件で行っても再現性を確保することが難しいとされている。本技術においては、細胞濃度や塗布針の位置・形状・表面粗さなど実験結果に影響するパラメーターやアルゴリズムを独自に特定・制御することで、定位置・適量配置を実現した。これにより、実験結果の信頼性・再現性の向上に貢献する。

 微細塗布装置を適用した創薬実験例としては、以下などが挙げられる。

・多電極アレイ上へのiPS 心筋細胞の精密配置による細胞外電位の検出実験
 直径3~6mm×深さ10~13mmの多数の凹み(マルチウェル)の底に電極を設けたプレート(多電極アレイ)上の電極上に適量のiPS心筋細胞を配置し、心臓の拍動など細胞の電気的な活動を測定する創薬実験において、電極上にiPS心筋細胞の必要量のみを定位置に配置し、より正確な細胞の拍動の測定が可能となった。

・マルチウェルプレート上へのiPS心筋細胞の配置による薬剤評価実験
 直径3~6mm×深さ10~13mmの多数の凹みを設けたプレート(マルチウェルプレート)を用いて、一度に大量の薬剤評価を行う手法(ハイスループット評価系)において、一定量のiPS心筋細胞を各凹みに高密度かつ高速に配置することで小さな心筋組織の構築が可能となった。正確で再現性の高い薬剤反応の測定ができるだけでなく、細胞への負荷を抑える配置方法により高い細胞生存率を確保する。

 微細塗布装置を創薬実験に用いるメリットは以下のとおり。

・定位置・適量配置:細胞をセンサー上など狙った場所に適量を正確に配置し、細胞の働きを正確に検出し、正確な実験結果の取得が可能

・効率化と再現性:細胞配置の自動化により、人手作業によるバラつきがなく効率的かつ再現性の高い実験が可能

・細胞の節約:必要な量だけを正確に配置することで、高価な細胞を無駄にすることなく使用量を削減

 NTNは創薬市場に向けて微細塗布装置の提案を進めるとともに、病気などで機能を失った組織や臓器を再生させる再生医療における本商品の適用を進め、ライフサイエンス分野の事業化を加速させていく。

 NTNは、持続的成長に向けてライフサイエンスを含む六つの研究分野を新たなターゲットとし、外部研究機関と連携しながら、事業化に向けた取り組みを推進している。2024年4月には「未来創造開発本部」を設立し、新領域におけるマーケティングから開発・研究、生産を同一部門で運営することにより、市場・顧客ニーズに合致した新商品・サービスの創出に取り組んでいる。

 今後も各研究分野の開発活動を加速し、さまざまな社会課題の解決を進めることで、持続可能な「なめらかな社会」の実現を目指していく。