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SEMICON Japan 2024

 

日本粉末冶金工業会、2020年度工業会賞を発表

 日本粉末冶金工業会(JPMA)はこのほど、「2020年度日本粉末冶金工業会賞」を発表した。同賞は、1979年度に粉末冶金工業普及事業の一環として創設、2020年度で42回目となる。

 同賞は、工業会事業に貢献した個人を表彰する「業界功労賞」と優れた粉末冶金製品を表彰する「新製品賞」、優れた原料粉末を表彰する「原料賞」、優れた製造設備を表彰する「設備開発賞」からなる。「新製品賞」は、さらに「デザイン部門」、「材質部門」、「製法開発部門」に分けて審査、2003年度から、選考委員会で特に優れた受賞案件とされたものに「工業会大賞」を授与している。また、賞の対象にならなかった応募の中から、特徴のあるものを「奨励賞」として表彰している。

 今回は新製品賞・デザイン部門、新製品賞・製法開発部門、奨励賞で、以下のとおり受賞企業が選出された。

 

■製品賞・デザイン部門

・ポーライト「車載LEDヘッドライト冷却ファン用軸受の焼結化」…本製品は、LED ヘッドライトバルブ冷却用ファンモータ用の軸受。近年、LEDヘッドライトは、大光量化・小型化に伴い、より高い放熱性が求められており、冷却ファンが搭載されるようになってきている。この軸受には、静音性、長寿命、低温(-40℃)起動性、広い実用温度(-40℃~120℃)域、アウトガスによる輝度低下防止など要求特性があるため、高価であっても流体軸受やボールベアリングが採用されている。本開発は、中逃軸受の特徴を生かし、しゅう動部を最適化して軸ロスを低減することで、しゅう動性・起動性を確保した。アスペクト比5を超える軸受において難しいとされる内径公差幅4μmと同軸度を確保し、軸とのクリアランスを縮小することにより、静音性が向上した。内径受面取り形状は、端面及び外周の溝形状に運転時熱膨張で漏れ出す含侵油を保持する機能を持たせることで、軸受の長寿命化を可能にした。材質は、銅被覆鉄粉を使い、高含油率低通気性を両立させることで、軸受面の油膜強度を確保し、静音性および耐摩耗性を向上した。含浸油は、低温から高温まで粘度指数の変化が少なく、アウトガスによる悪影響(輝度低下・ケミカルアタック)に配慮した成分を選定し、高温環境下で蒸発量の少ない含浸油を開発。その結果、ボールベアリングを上回る特性を満足し、LEDヘッドライトバルブ冷却用ファンモータ用軸受に採用され、焼結含油軸受の市場拡大に貢献した。

ポーライト「車載LEDヘッドライト冷却ファン用軸受の焼結化」
ポーライト「車載LEDヘッドライト冷却ファン用軸受の焼結化」

 

・ファインシンター「パーキングロック部品の曲率溝形状型出し化によるコスト低減」…本製品は、AT用、パーキングロック機構に使われるポールのサポート部品。本開発は、試作評価の過程で、相手部品(ポール)接触部の変形防止のため、曲率が変化する溝形状が必要となった。この溝と製品を組み付け固定するボルト穴は直交する関係にあり、通常は一方をネットシェイプ、他方を機械加工とするが、アンダーカット成形により溝形状をネットシェイプし、機械加工なしに製品化した。アンダーカット成形は、アンダーカット部の圧縮比制御が必要となるため、金型制御に CNC制御を使うなど機構が複雑となるが、上1段下2段の金型構成、一般的なウイズドロアル機構を用い、上パンチの動作で、アンダーカット部を成形するパンチ位置をダイと同期させ、安価で安定したネットシェイプに成功している。このアンダーカット成形に一役買っているのが、油による局所的な型潤滑。アンダーカット部を成形するパンチは成形中に外周方向に強い力を受けるが、この力をダイ内径で受ける構造となっている。パンチを安定的にしゅう動させる対策として、型潤滑を採用することにより、型カジリを抑制した。

ファインシンター「パーキングロック部品の曲率溝形状型出し化によるコスト低減」
ファインシンター「パーキングロック部品の曲率溝形状型出し化によるコスト低減」

 

・ダイヤメット「二輪車トランスミッション用焼結部品」…本製品は、2 輪車用トランスミッションのシフト機構に使われるカム。シフトチェンジの時にシフトレバーからの力をシフトフォークへ伝える機構であり、ピン部に大きな曲げ荷重および衝撃荷重がかかる。このため、一般的には、高価であっても焼結鍛造工法が採用されてきた。また、近年ロストワックス工法や、ピン部を溶製鋼とした工法に置き換わりが進みつつある。本開発は、一般焼結工法の強度向上に関して取り組み、製品化に成功したもの。形状を見直し、応力集中の緩和を行っている。強度向上の手法としては、細いピン形状部の高密度化に取り組んでいる。原料粉の選定、潤滑材開発および給粉方式の開発を行い、高圧成形、高温焼結で密度7.4g/cm3を達成している。また、ピン高さ寸法0.1mm以下にバラツキを抑制し、後加工を廃止することができた。一方で、金型のたわみによる成形割れが懸念されるが、ピン部への全数検査負荷試験により全数強度保証を行っている。この結果、焼結鍛造工法に近い強度を確保し、コストは焼結鍛造部品に対して40%低減することができた。

ダイヤメット「二輪車トランスミッション用焼結部品」
ダイヤメット「二輪車トランスミッション用焼結部品」

 

■新製品賞・製法開発部門

・住友電気工業「磁束密度を確保し鉄損を低減したHEV向けリアクトル用圧粉コア」…本製法は、絶縁被覆鉄粉による圧粉コアの表面絶縁被膜破損を防止する成形方法。絶縁被膜被覆鉄粉は、金型に充填し加圧成形した後、金型から抜出す際、金型との摩擦で絶縁被膜が損傷し鉄粉同士が導通。圧粉コア表面に過電流が流れロスが増大する。対策として、レーザー加工などにより導通している部分に酸化鉄を生成させ導通を遮断し、渦電流ロスを防止しているが、コストが課題となっている。一般的に製品は 1個押し成形であり、外周面は全てダイによって形成され、金型から抜き出す際、全面がしゅう動し被膜の破損は避けられない。そこで、2個押し成形を採用し、二つの製品間の金型を浮動コアロッドとした。浮動コアロッドは、抜き出す際、成形体と同時に動き絶縁被膜の破損を防止する。その結果、レーザー加工を廃止し低コスト化を実現した。また、材料面においては、原料粉の粒度、成形条件を最適化により高密度化を実現。熱処理においては、条件の最適化により歪除去と鉄損を 25%低減している。今後、HEV、EVのシェア拡大により、生産量拡大が期待されている。

住友電気工業「磁束密度を確保し鉄損を低減したHEV向けリアクトル用圧粉コア」
住友電気工業「磁束密度を確保し鉄損を低減したHEV向けリアクトル用圧粉コア」

 

■奨励賞

・ポーライト「冷蔵庫用・庫内庫外統合ファンモータ用軸受の開発」…本製品は、冷蔵庫の異なる環境に置かれる庫内・庫外の冷却ファンそれぞれに使うことができる軸受。通常、庫内ファンは-30℃、庫外ファンは+60℃の環境下で使用される。従来は、この2種類の冷却ファンには、それぞれ最適化された軸受が使われていた。本開発においては、材質は最適なものを選定し、高含油率に設定することで長寿命化を実現した。加えて、シリコーン系の新しい潤滑油を開発することで、低温環境下における静音性・低摩擦特性・耐食性、高温環境下における耐摩耗性・低摩擦特性を両立することができた。庫内・庫外ファン用軸受を統一化により、スケールメリットによるコスト競争力、リードタイムの短縮などの効果が得られた。また、顧客側メリットとして、発注・在庫管理の簡素化、異品種混入防止効果が見込まれる。

ポーライト「冷蔵庫用・庫内庫外統合ファンモータ用軸受の開発」
ポーライト「冷蔵庫用・庫内庫外統合ファンモータ用軸受の開発」

 

・ファインシンター「低コスト C/C 複合材製カーボン系すり板の開発」…本材料は、鉄道車両上部にある、パンタグラフの最上部に取り付けられ車両へ電気を供給するためにトロリー線に接し集電するすり板用材料。すり板材料は、金属系と、カーボン系(銅とカーボンの複合材)に大別される。カーボン系はさらに銅含浸型、銅カーボン混合焼結型およびC/C複合材銅溶浸型に分類される。本材料はC/C複合材銅溶浸型に該当し、軽量・高強度・低摩耗で、トロリー線攻撃性が低いことが特徴。一方で、高価であることが課題となっている。本開発は高価な炭素繊維使用量の低減。炭素繊維量を低減し、すり板の強度を確保するには、バインダーを増量する必要がある。カーボン基材は、プリフォームド・ヤーン法を用い、炭素繊維とバインダーを束にした繊維を作りシート化する方式とし、工程を簡素化した。しかし炭素繊維を減じバインダーを増すと、銅の溶浸経路が狭くなり、充分な銅溶浸ができず、電気特性が得られなくなる。そこで、Cu-Ti溶浸材の配合を見直し、溶浸条件の最適化(2段階の温度設定)を行った。その結果、すり板は、充分な電気伝導性を確保し、強度は20%程度向上。摩耗率は20%低減、使用代は10%削減。従来品に対して、コストパフォーマンスは35%向上している。

ファインシンター「低コスト C/C 複合材製カーボン系すり板の開発」
ファインシンター「低コスト C/C 複合材製カーボン系すり板の開発」