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TTRFと大豊工業、自動車のトライボロジーで第7回 国際シンポジウムを開催

 トライボロジー研究財団(TTRF)と大豊工業は4月17日、名古屋市の名古屋国際会議場で「TTRF-TAIHO International Symposium on Automotive Tribology 2024」を開催した。

TTRF-TAIHO International Symposium on Automotive Tribology 2024 開催のようす bmt ベアリング&モーション・テック
開催のようす


 

 「トライボロジーの自動車社会への貢献」を全体テーマに掲げる同シンポジウムは、トライボロジー研究の進展と自動車技術への応用等に関しトップレベルの情報を交換するとともに、この分野での産学連携の現状と将来の可能性を示しその強化を図ることを目的に、2016年から開催されている。7回目となる今回は 、「Prospects for Powertrain "Lubricants" Facing Carbon Neutrality(カーボンニュートラルに向けてパワートレーンの「潤滑剤」を考える)」のテーマのもとで、基調講演のほか、潤滑剤の最新の研究開発に関する二つの技術セッションが行われた。

 開会の挨拶に立った新美俊生 実行委員長(大豊工業社長)は、大豊工業が曾田範宗氏や木村好次氏をはじめとするトライボロジー研究の第一人者の指導を受けながらトライボロジーをコア技術としてマイクログルーブ軸受や樹脂コーティング軸受といった先進エンジンベアリングを世に送り出してきたことや、同社が多くの恩恵を受けてきたトライボロジーの研究開発支援と啓蒙に寄与する目的でTTRFを2000年に設立し、以降、多数のトライボロジーの研究テーマに対し累計230万USドルの助成を行っていることを報告した。また、学界と産業界のコラボレーションの強化によって一層のトライボロジー研究の活性化を支援していく目的で2016年から本シンポジウムを開催していることを紹介。自動車業界の大変革期にあって電動化、サステナビリティ、SDGsなどトライボロジーの諸課題が厳しさを増す中で、産学連携の強化によるトライボロジー技術の一層の高度化が課題解決に寄与できるとの観点から、「本日のシンポジウムにおいても、学界と産業界の両者の活発なディスカッションを通じて、トライボロジー研究開発の促進につながることを期待している」と述べた。

TTRF-TAIHO International Symposium on Automotive Tribology 2023 挨拶する新美実行委員長 bmt ベアリング&モーション・テック
挨拶する新美実行委員長


 

 続いて、Kenneth G. Holmberg氏(TTRF Director)をチェアマンに、以下のとおり基調講演が行われた。

・「Materials and Lubrication Challenges for a Sustainable Electric Vehicle Mobility: Recent Progress and Future Prospects」Ali Erdemir氏(Texas A&M University)…電気自動車(EV)の販売台数が2022年に1000万台に到達し、2040年までに6000万台が見込まれるなど市場が拡大している背景として、内燃機関(ICE)車に比べエネルギーロスが少なく環境への負荷が少ない点などを説明。ICE車からEVへの切り替えが急速に進む一方で、EVが今後自動車のメインストリームを走り続けるには、バッテリー、モータ、ドライブトレーン部品などの性能、効率、信頼性をより高める必要がある。EVのトランスミッションおよびギヤボックスに使われる潤滑や材料への要求性能はICE車における要求性能とは極めて異なるため、EVにおいては潤滑に用いられるフルードや材料の強化、熱マネージメントの強化がより求められる。EVの安全・円滑な長距離走行を実現するには、優れた潤滑性、高い耐摩耗性・耐食性・耐接触疲労特性に加えて、熱・電気特性を満足させる潤滑剤の開発が急がれる。高トルク・高速・高温といったより過酷なEVの運転状況から、既存の潤滑油ではEVの信頼性要求・熱マネージメント要求を満たせない。EVの潤滑剤ではまた、極低温~高温の急激に変化する運転条件・環境条件において電気特性やドライブトレーンの材料との適合性にミートしなくてはならない。EVの電流/電圧が変動し頻繁に放電が発生する状況での、しゅう動二面の高いトルク、高い荷重、高速、高温に対して、フルード粘度の最適化や既存のパッケージ添加剤のカスタム化も要求される。EVにおいてはトライボロジー課題と熱・電気的課題を同時に解決する材料・潤滑油ソリューションを確立する必要がある。本講演では、EVのしゅう動部品の摩擦、摩耗、潤滑に関わる課題について紹介したほか、 効率や熱・酸化安定性、材料適合性、摩耗特性などを改善可能な水系の低粘度多目的潤滑油基油などのフルードを紹介した。また、熱的・電気的に負荷がかかる条件下において、摩耗や疲労、酸化などへの耐性を高めるための機能性添加剤やトライボ材料、DLC(水素含有および水素フリー)などのコーティング/表面改質技術などについての実験データを示した。最後に次世代EVの効率や耐久性、環境適合性などに合致するナノマテリアルなどを紹介した。


 続いて村上靖宏氏(技術オフィス・村上)をチェアマンに、「潤滑剤の研究・開発1」のセッションが以下のとおり行われた。

・「Development of Novel Film Forming Additive Contributing to Improving Efficiency of Electric Vehicles」中村俊貴氏(ENEOS)…潤滑油はEVのe-Axleとドライブトレーンにおいて重要な要素で、潤滑油の低粘度化は弾性流体潤滑(EHL)下のマイルドな運転条件においては効果的な一方で、混合潤滑下のシビアな運転条件においてはネガティブな効果をもたらす。つまり、効率改善には、シビアな運転条件でのフリクションロスを低減させることが重要である。本講演では、開発したEVフルードに最適な新規摩擦低減剤(FM)が、特にシビアな運転条件での減速ギヤの摩擦を効果的に減らせたことを報告。MTM (Mini Traction Machine)とe-Axleギヤボックスを用いた実験によって、開発した新規FMが混合潤滑条件で摩擦を低減し、ギヤボックスの効率を改善したことを確認した。同FMの作用メカニズムを究明するために、油膜厚さを調べた結果、同FMが油膜厚さを劇的に増やす効果を有することが分かった。

・「Mechanism of Low Friction of Fullerene Added Oil Under Boundary/ Mixed Lubrication」本田知己氏(福井大学)…ZnDTPは潤滑油において酸化を防ぐ酸化防止剤として使われているが、高い環境負荷からZnDTPの使用を避ける傾向にあり、新たな多機能添加剤が求められている。この新しい多機能添加剤として、フラーレンが注目を集めている。フラーレン添加オイルが実際の装置で使われる際には、フラーレンが潤滑油の酸化反応を阻害するメカニズムを解明することが重要になる。本講演では、フラーレンの酸化防止メカニズムを解明するために、フラーレンの酸化防止機能が作用した後のフラーレン反応物の摩擦摩耗特性を評価。フラーレンの反応物が摩擦と摩耗を低減することが明らかになった。オイル中など溶媒中でのフラーレンの存在状態を確認するため、FE-SEM を用いて観察した結果、フラーレンが層状の集合体を形成していることが認められた。本研究によって、酸化防止機能に加えて酸化防止機能作用後のフラーレンの反応物が低摩擦・低摩耗の発現に寄与することから、フラーレンが多目的添加剤として高い可能性を有していることが示された。

・「Lubrication of Electric Powertrain: A Method to Predict Friction in the Mixed and Boundary Regimes」Ian Sherrington氏(University of Central Lancashire)…本講演では、EVパワートレーンの潤滑と冷却に用いられるフルードの主な要求特性について概要を示したほか、EVフルードの主な特性を評価するための最近の利用可能な試験手法について紹介した上で、メインとなる、混合・境界潤滑領域での潤滑のモデリングに関する課題について論じた。TTRF助成のもとJost Institute for Tribotechnologyで開発されたシンプルな手法を、基油、潤滑油、さらには摩擦低減剤や耐摩耗剤などの添加剤のための摩擦のモデル化に適用。本解析手法は、計測された摩擦係数を正規化し、それら数値を確立されたラムダ比(最小油膜厚さ/合成表面粗さ)へとプロットできる。事例では、種々の潤滑剤の摩擦係数データから、境界潤滑領域および混合潤滑領域における信頼性の高い摩擦の予測を行うために使用できる「マスターカーブ」が描けることを紹介した。

 さらに、平山朋子氏(京都大学)をチェアマンに、「潤滑剤の研究・開発2」のセッションが以下のとおり行われた。


・「Development of Transaxle Lubricating Oil for Electrified Vehicles」床桜大輔氏(トヨタ自動車)…自動車業界は、CO2排出量削減と地球温暖化防止を目的に電動車の開発を加速しており、電動車の電費向上は重要な技術的取り組みとなる。トランスアクスルでの損失の削減は、すべての電動車の効率を向上させる効果的な方法で、この目標を達成する効果的な方法の一つが、トランスアクスルフルードの粘度を下げることである。しかし通常、粘度を下げると金属しゅう動面の潤滑油膜厚さが不足し、摩耗や焼付きなど、耐久性の問題が生じる。本講演では、粘度低下による悪影響に対処するため、将来の電動車両の普及を見据え、電動車専用の潤滑油の新しい添加剤配合を設計した結果、従来のフルードに比べて粘度を50%低減しながらユニットの耐久性を確保した新しいトランスアクスルフルードが完成した事例を紹介した。この新しいトランスアクスルフルードにより、HEVのテストサイクル走行条件下での燃費を1.0%以上向上させるとともに、電動車トランスアクスルの重要な要素であるモーターの冷却性能を向上させることができると総括した。


・「Improvement of Performances of Lubricants Applied to Transaxles in Electric Vehicles」巽 浩之氏(出光興産)…CO2排出量削減のため、電気自動車用トランスアクスル(E-Axle)を搭載した電気自動車の普及が期待されている。E-Axle用潤滑剤にはさまざまな性能、特にユニットの保護と効率向上の観点から最も重要な、モーターの冷却とギヤやベアリングの保護性能が求められる。本研究では、これらの特徴を詳細に調査。モーターの冷却性能については、独自の試験機を設計・評価した結果、モーターの冷却性を向上させるためには、動粘度を下げ、熱伝達率を高めることが重要であることが分かった。さらに、ギヤ&ベアリング試験機による評価の結果、適切なリン系添加剤を使用することで接触面を制御でき、ギヤやベアリングの保護性能が向上することが分かった。本研究の結果、基油と耐摩耗剤を適切に選択することで、モーターの冷却性能とギヤやベアリングの保護性能に優れたE-Axle用潤滑剤を設計できることが分かった。

・「Development of Ionic Liquids (ILs) as Lubricant Additives and Control of Lubricating Properties of ILs」川田将平氏(関西大学)…イオン液体はその優れた物性から、新たな潤滑剤として期待されている。イオン液体の潤滑性能は、実験室レベルの実験において、特定の条件下で低摩擦・低摩耗を示すことが知られている。しかし、多くの潤滑システムが限界性能を追求しようという高いレベルに達しているため、イオン液体はフィージビリティスタディ(実現可能性調査)の段階から脱却できない状況にあり、イオン液体の新たな用途が必要とされている。本講演では、潤滑油添加剤としてのイオン液体の応用と摩擦制御システムへの応用について紹介。摩擦制御システムにおいて、イオン液体の電気二重層構造に着目し、境界潤滑領域における摩擦係数の安定化を目指した研究を行っていることを報告した。