イグスは、ケーブル保護管「エナジーチェーン」や可動ケーブル「チェーンフレックス」を使用した独創的なエネルギー供給システムの事例を表彰する「ベクター賞」を2年に一度開催しているが、今年の「第9回ベクター賞」の受賞事例4件を公開した。
今回37カ国から集まった328の使用事例のうち、研究機関や製造業の専門家で構成された審査員による選考プロセスを経て、最も革新的なアプリケーションである「ベクター金賞」にリスボン大学 天体物理学・宇宙科学研究所(ポルトガル)の多天体近赤外線分光器MOONSが輝いた。また、銀賞はTDK RFソリューションズ社(アメリカ)のビークルインザループ(VIL)試験用装置に、銅賞はMECAoctet社(フランス)のACCORアリーナの鏡張り可動式天井に贈られた。さらに、サステナブルな事例に贈られるグリーンベクター賞には、Bear Machines 社(ドイツ)のトラックタイヤを再生させる機械「ベアカット」が輝いた。
ベクター金賞:多天体近赤外線分光器MOONS/リスボン大学 天体物理学・宇宙科学研究所(ポルトガル)
リスボン大学の天体物理学・宇宙科学研究所が参加しているMOONSコンソーシアムは、広範囲の観測視野を持つ多天体近赤外線分光器「MOONS」を開発している。この分光器を設計するうえで課題となったことの一つが、回転するフロントエンドから分光器に光を運ぶ、高感度光ファイバーの誘導だった。光ファイバーを安全に、観察の障害となる圧力を発生させずに移動させるため、イグスの多軸動作向けケーブル保護管・トライフレックスシリーズのエナジーチェーンが採用された。リスボン大学の天体物理学・宇宙科学研究所は、本事例で2024年のベクター金賞と賞金5,000ユーロを獲得した。
ベクター銀賞:ビークルインザループ(VIL)試験用装置/TDK RFソリューションズ社(アメリカ)
TDK RFソリューションズ社は、運転支援システムを搭載した車の電磁両立性(EMC)を測定するためのビークルインザループ(VIL)試験用の装置に、エナジーチェーンとe-spoolを使用した事例でベクター銀賞を受賞した。
試験車両を取り囲み強い電界を発生させる5本のテストアンテナに沿う制御ケーブルと圧縮空気ホースをガイドするために、イグスのエナジーチェーン1400シリーズが使用され、これを巻き取る機構として e-spoolシリーズのばね式ケーブルリールが採用された。スリップリングが不要になったことにより、メンテナンスにかかる時間が大幅に短縮できるようになった。
ベクター銅賞:ACCORアリーナの鏡張り可動式天井/MECAoctet社(フランス)
ベクター銅賞は、ナイトクラブの可動式天井にe-spoolシリーズのばね式ケーブルリールを使用した事例でフランスのMECAoctet社が受賞した。ACCORアリーナの天井は16×15mの鏡でできており、32個の三角形に分割され、うち16個は可動式となっている。天井にスポットライトを当て、息を呑むような光のショーを生む仕組みだが、設計上の課題は三角形の鏡を動かしながらLEDストリップに電力を供給することだった。この仕組みを実現するために、三角形の各角に電動ウインチを三つ設置。電源供給にはスリップリングを使わないばね式ケーブルリールであるe-spoolシリーズを使用し、ハイブリッドケーブルを取り付けて三角形の重心に接続している。同社のエンジニアからは、「イグスのソリューションがなければ、回転コレクターを備えた複雑なコイルを使用することになり、高価で信頼性の低い機構になっていた」との声が寄せられている。ケーブルループ付きのスライダーシステムと比較して、見た目も美しく収めることができた。
グリーンベクター賞:トラックタイヤを再生させる機械「ベアカット」/Bear Machines 社(ドイツ)
環境に優しく持続可能な未来に向けた取り組みを選出するグリーンベクター賞は、自動車やトラックのタイヤを再カットする、ベアカットという半自動機械を開発したBear Machines 社が受賞した。この機械でタイヤを再カットすることにより、100kmあたり最大0.5Lの燃料を節約でき、タイヤ1本あたり最大650kgのCO₂排出を回避できるという(調査:ミシュラン、コンチネンタル)。同社で使用していた従来のモーター用ケーブルでは柔軟性の要件を満たすことができず、E2シリーズのエナジーチェーンで動く頑丈で柔軟なケーブル、チェーンフレックスシリーズが採用されている。