市村清新技術財団は8月30日、東京都港区の明治記念館で、「市村賞受賞記念フォーラム」を開催した。
当日はまず、市村清新技術財団 会長の中村 高氏が挨拶に立ち、「財団の設立者でリコー三愛グループの創始者である市村清は、戦後の焼け野原の中で、“日本が将来にわたって繫栄するには平和で豊かな社会の創造を目指さなくてはならない”との強い思いを抱き、そのためには創意工夫を育成し、研究開発を促進し、これを実社会に役立たせなくてはならない、との使命感を持って、1968年に新技術開発財団(2018年に50周年を機に、現財団名に変更)を設立した。本財団の活動はおかげさまで半世紀以上にわたって継続、皆様の研究開発活動の背中を押す役割を果たしてきた」と述べ、同財団の活動内容について説明した。
同財団の活動としては主に、科学技術の研究開発助成(新技術開発助成、地球環境研究助成)、新技術顕彰(市村賞の贈呈、国際技術交流助成、市村賞受賞記念フォーラム)、少年少女創造性育成(市村アイデア賞贈呈、キッズ・フロンティア・ワークショップ)、植物研究助成などがある。
このうち新技術顕彰事業である市村賞の贈呈は、市村 清氏の1963年4月29日紺綬褒章受章を記念して創設、わが国の科学技術の進歩、産業の発展に顕著な成果を上げ、産業分野あるいは学術分野の進展に多大な貢献をされた個人またはグループを表彰するもの。第8回より、従来のカテゴリーを産業の部とし、新しく学術の部を設け、第22回からそれぞれ「市村産業賞」、「市村学術賞」と名称を定めた。第51回からは地球温暖化防止・対策に関する技術分野の顕著な業績に関しては、「市村地球環境産業賞」、「市村地球環境学術賞」として表彰している。
市村賞受賞記念フォーラムは、財団設立50周年の2018年に第1回が開催。6回目となる今回は、これまでと異なる新たな試みとして、サイエンスライターの竹内薫氏をモデレーターに、市村賞受賞者をパネリストにするパネルディスカッション形式での開催とした。
中村会長の開会挨拶に続く基調講演では、2000年度の第33回市村産業賞 功績賞を受賞し、2019年にノーベル化学賞を受賞した旭化成 名誉フェローの吉野 彰氏が、「リチウムイオン電池が拓く未来社会」と題して講演した。同氏が世界で初めてリチウムイオン電池の研究を完成させるに至るまでの道筋や、リチウムイオン電池のモバイルIT社会への貢献、サステナブル社会実現への大きな期待などについて語った。
基調講演後は、2部構成による、竹内氏をモデレーターとした、市村賞受賞者によるパネルディスカッションが行われた。
「第1部パネルディスカッション 第56回 市村賞 市村産業賞 市村地球環境賞」では、受賞者ダイジェスト映像が流された後、第56回市村賞 市村産業賞 功績賞を受章した日産自動車の「EVの普及に資する軽自動車用電動パワートレインシステム」、IDECの「ロボット作業者の安全確保を可能としたイネーブルスイッチ」、パナソニック プロダクションエンジニアリングの「低コスト・高精細ディスプレイに資する産業用インクジェット装置」の受賞者を代表して、新井健嗣氏(日産自動車)、藤田俊弘氏(IDEC)、吉田英博氏が、第56回市村賞 市村地球環境産業賞 功績賞を受章したIHI・日本製鉄の「カーボンニュートラルに資する高効率木質バイオマス専焼発電技術」を代表して河西英一氏(IHI)がそれぞれ登壇し、製品開発に至る苦労話やブレークスルーに至る転機などをまじえて、パネルディスカッションが行われた。
「第2部パネルディスカッション 第56回 市村賞 市村学術賞」では、受賞者ダイジェスト映像が流された後、第56回市村賞 市村学術賞 本賞を受賞した東京工業大学の「量子アニーリングの創出と展開」、第56回市村賞 市村学術賞 功績賞を受章した東北大学の「実用的有機触媒の開発と環境調和型合成プロセスの開発」と大阪大学の「アバターの研究開発とその応用」と九州大学の「高効率熱活性化遅延蛍光分子の創製とOLEDへの展開」について、各業績の受賞者である西森秀稔氏(東京工業大学)、林 雄二郎氏(東北大学)、石黒 浩氏(大阪大学)、安達千波矢氏(九州大学)が登壇し、若手研究者の柔軟な発想などにも支えられながら研究を突き進めてきたエピソードなども交えて、パネルディスカッションが行われた。
2部のパネルディスカッション終了後には、モデレーターを務めたサイエンスライターの竹内氏が総括コメントを述べて、閉会した。