ドイツ工作機械工業会(VDW)は7月10日、ドイツ・フランクフルトにあるVDW本部で「EMO Hannover 2025 Preview」を開催した。本年9月22日~26日にドイツ・ハノーバー国際展示会場で開催される「EMO Hannover 2025(EMOハノーバー2023)」の見どころを紹介するもので、ドイツ本国のほか日本など世界28カ国から、約150名超のジャーナリストが参加した。
ここでは同プレビューイベントの概要を通じて、EMOハノーバー2023の見どころを紹介したい。

EMOハノーバー2025のハイライト
プレビューでは、モデレーターのスヴェン・クラウゼ氏のインタビューに答えて、VDWエグゼクティブダイレクターであるマルクス・ヘーリング氏がEMO 2025の概要と見どころについて、以下のとおり話した。
EMOは1975年の初開催以来、金属加工のバリューチェーン全体の技術が披露される重要なプラットフォームとして位置付けられており、今回で50周年の節目を迎える。イノベーション、国際的な視点、インスピレーション、そして金属加工業界の未来を象徴するEMOは、メーカーとユーザーの両方を含む、業界に関わるあらゆる国際的なプレーヤー間の対話プラットフォームとして、世界でも類を見ないイベントとして位置づけられている。EMO出展企業が提供する製品とサービスは業界全体の近代化の基盤となると言われ、現時点ですでに40カ国以上から1500社以上の出展が登録されている
EMOハノーバー2025では、「Innovate Manufacturing(製造業の革新)」をモットーに、「自動化」、「サステナビリティ」、「デジタル化・人工知能(AI)」の三つが主要テーマとして掲げられている。これら三つのテーマは相互に関連し、先進的な製造業の「トライアングル」を形成している。
・金属加工業界における効率向上のための自動化
高い品質要求と熟練労働者の不足を背景に、自動化は業界にとって極めて重要である。自動化ソリューションは、生産プロセスの効率と品質を向上させる。これらは投資を促進する主要な要因の一つであり、EMOでは多くの出展者がさまざまな形で自動化を提案している。
自動化は手作業を置き換え、生産プロセス全体の透明性を高める。自動化には、操作が容易でユーザーの個々のニーズに柔軟に対応でき、量産から経済的な単品生産まで、製造プロセスに統合できることが求められる。自動化はまた、パレットチェンジャーやハンドリングシステムといったシンプルなソリューションから、ロボットや自動運転システムを備えた自律型工場の活用まで多岐にわたり、例えばアシスタンスシステムなどを通じて、機械オペレーターを支援することも意味する。洗浄、ラベリング、測定といった補助的なプロセスの統合も、増える傾向にある。
・気候変動対策強化のためのサステナビリティ(持続可能性)
多くの国々が、気候変動対策の強化と、産業のグリーン化への投資に注力しており、企業においては、数多くの報告義務を含む法規制やカーボンフットプリントの算出を希望する顧客の存在が、この動きを後押ししている。
生産における持続可能性の焦点は、エネルギーと材料の消費量の削減、そして循環型経済の導入であり、新しい機械への投資は約25%のエネルギー節約につながり、CO2排出量の削減につながる。例えば、最新の電動モーターと革新的な駆動技術は、前世代と比較して大幅な電力消費量を削減するほか、制御技術の改善、圧縮空気および油圧アプリケーションの最適化設計、摩擦を最小限に抑えたベアリング。直動案内システムなどが挙げられる。部品洗浄時や機械の冷却時における洗浄槽の温度制御などの周辺プロセスも重要な役割を果たす。
EMOハノーバー2025のホール15にあるサステナビリティエリアは、未来の持続可能な生産のための最先端のソリューションを体験できる理想的なミーティングポイントとなる。出展者はここで、エネルギー効率、再生可能エネルギーの統合、循環型経済、ライフサイクルコンセプトのトレンドに関する情報を提供する。これらは気候保護を促進するだけでなく、エネルギーや原材料が不足する時期における生産コストの削減にも役立つ。
・生産性向上のためのAI(人工知能)とデジタル化
デジタル化とネットワーク化は、生産において長年重要なテーマであり続けてきた。そして今、AI(人工知能)がそれに加わったが、データを活用して生産性を向上させ、新しいビジネスモデルを開発するためには課題が少なくない。半導体はIoTやAIといった技術を活用することで、ユーザーが生産プロセスをよりインテリジェントに設計することを可能とするほか、これらの技術は生産プロセスの効率性に関する透明性を高め、機械やプロセスのリアルタイム監視・制御を容易にし、予知保全も可能にする。
ここでの基本的な前提条件は、オープンで標準化されたデータインターフェースの使用である。多くの国の機械メーカーは、グローバルなumatiイニシアチブ(ユニバーサル・マシン・テクノロジー・インターフェース)をすでに理解しているか、すでに参加している。umatiはEMOハノーバー2025のホール6で、標準化されたマシンネットワークの利点を再び実演する。
デジタル化とネットワーキングは、製品のカスタマイズや、急速に変化する市場ニーズへの適応も促進する。マスカスタマイゼーションなどの手法を用いることで、企業は量産の効率性を損なうことなく、カスタマイズされた製品を少量生産することが可能になる。
生産プロセスにおいてデータ分析とビッグデータを統合することは重要で、大量のデータを評価することは、生産プロセスの最適化、早期段階でのエラー検出、そしてリソースの効率的な活用に役立つ。これにより、グローバル市場における競争力が大幅に向上する。
EMOハノーバー2025では、ホール6のAI Hub@EMO 2025において、産業界および行政機関の投資家向けに、生産における人工知能の可能性に関する実践的なデモンストレーションを実施する。研究分野の専門家が情報提供や詳細な質問への回答を行う。
AIハブに加え、ホール12のEMO中央講演フォーラムにおいて毎日午後2時から、「P.O.P.トーク」も開催される。生産におけるAIのさまざまな側面が、講演、インタビュー、パネルディスカッションなど、多様な形式で、時には議論を呼ぶ形で取り上げられる。これらのテーマには、AIの応用可能性、データセキュリティ、自動化、デジタル化に向けた政治的枠組みなど、多岐にわたる。

90秒ピッチ・ミニ展示会から見る、EMO2025で披露されるbmt関連製品
プレビューではまた、出展予定の約1500社を代表して26社が90秒のプレゼンテーション(90秒ピッチ)とミニブースでの出展を行った。以下にその一端を記すが、90秒ピッチとミニブースからは、EMOの三大テーマである自動化、デジタル化・人工知能(AI)、サステナビリティという現代のメガトレンドを反映したEMOハノーバー2025で披露される製品・技術の紹介がなされた。
DMG森精機
DMG森精機は、8点のワールドプレミアを公開する。
Machining Transformation(MX)の柱に完全に焦点を当てたもので、同時5軸加工の新モデルである「DMC 55 H Twin」、「DMC 65 monoBLOCK 2. Generation」、「DMU 20 linear 3. Generation」は、プロセス統合による完全な加工への完璧なエントリーポイントとなる。「ULTRASONIC 60 Precision」はさらに、5軸ミーリング加工と超音波支援による精密加工を組み合わせ、標準で4μmの位置決め精度を実現する。
ポートフォリオに新たに加わるパワフルで汎用性の高い旋盤「NLX 2500|1250 2. Generation」は、MXにおけるその重要性を証明。さらに、二つのターンミルスピンドルを搭載した「NZ DUE TC」は、高生産型旋盤の特性とターンミルによる完全加工を融合。さらに、新製品「DMV 200」と「SPRINT 420」も展示される。世界初公開となるこれらの機械は、生産能力を最適に活用するために、柔軟に自動化できる。新型AMR 1000は、工具、材料パレット、チップトロリーの自動ハンドリングを可能にする無人搬送システムとして、自動化をサポートする。


イグス
多くの工作機械やロボットにおいて、イグスの可動ケーブル「チェーンフレックス」を保護するケーブル保護管「エナジーチェーン」が採用されているが、EMOハノーバー2025のテーマであるデジタル化や持続可能性などに対応して、ユーザーが工作機械などに短時間で組み付けることのできるハーネス付きエナジーチェーン「レディーチェーン」用の新型ラックで、トラックの積載スペースを最適化し輸送コストを削減できる「レディーチェーン・エコラック」を披露する。
このエナジーチェーン用の輸送・組立ラックは、バーチ材製の堅牢な多層パネルで構成、金属製ラックとは異なり工具なしで分解可能で、トラック輸送量を最大88%削減しCO2排出量と輸送コストを削減できるという。
レディーチェーン・エコラックは、イグスがレディチェーンサービスをより持続可能なものにするための構成要素で、ユーザーは接続可能な状態でエナジーチェーンを受けとることができる。チェーンフレックスシリーズのケーブルはすべて敷設済みでプラグコネクタが取り付けられており、予知保全用のセンサーも設置済みとなっているため、組み立て時間が最大75%短縮される。


シェフラー
シェフラーは、EMOハノーバー2025のテーマの一つである自動化向けのbmt関連技術として、生産機械周辺機器向けのKLLTシリーズのX配列を採用した新しい4列モノレールガイドシステムと、生産工場の自動化向けの新しいYRTA回転軸ベアリングシリーズを披露する。
ワークや工具の脱着の自動化では、メンテナンスが極めて少なく耐久性の高い回転軸用軸受配列とリニアガイドシステムが、また、機能性と経済性のバランスを最適化し、投資回収期間を短縮できる自動化ソリューションが求められる。これらの要件を満たすリニアガイドシステムとして、X配列を採用したKLLTシリーズの新しい4列モノレールガイドシステムを開発している。KLLTモノレールガイドシステムは、形状誤差が小さい基礎構造にも、大きな拘束力を与えることなく、より正確に嵌合できる。
また、加工作業範囲外の回転軸向けに、実績のあるYRTC回転軸軸受シリーズをベースに、新しいYRTA(A =「Automation(自動化)」)シリーズを開発している。改良された製造プロセスと新しいニードルケージ設計により、これらの複合荷重用アキシャルローラーラジアルニードル軸受は、高い傾斜剛性、長寿命、低メンテナンスといった要件を理想的に満たす。

3nine
3nineは、EMOハノーバー2025のテーマの一つである持続可能性のソリューションとして、次世代オイルミストセパレーター「Freja 1000」と「Vera 500」を披露する。
同社のオイルミストセパレーターは、特許ディスクスタック(回転する積み重ねられたディスク)の遠心力を使って、最小粒子径1μmのオイルミストやその他の金属加工油を最大99.9%まで分離でき、油剤の再利用も可能なため、空気の浄化とフィルターの長寿命化、運用コストの低減を実現する。マシニングセンターから研削盤などすべての工作機械に適用でき、また水溶性加工油や不水溶性加工油などあらゆる金属加工油を対象としている。長寿命フィルターと自動洗浄機能(CIP)によりメンテナンス作業を最小化できるほか、分かりやすいLEDモニターによる稼働状態のリアルタイム監視が可能。


次世代オイルミストセパレーター「Vera 500」および「Freja 1000」(下)
生産システムにおけるエネルギー効率化を追求するETAファクトリー
翌日の7月11日にはまた、プレビューイベントの一環として、ドイツ・ヘッセン州ダルムシュタットにあるダルムシュタット工科大学のETA Fabrik(ETAファクトリー)を見学した。
ETAファクトリーは、生産技術、生産効率・エネルギー効率といった分野の研究と教育、企業への技術移管を総合的に行うダルムシュタット工科大学 PTW内に2016年に設立された、生産におけるエネルギー技術の研究と産業への移管を担う研究グループ。ETAファクトリーは、将来の各種産業における生産をエネルギー効率・エネルギー柔軟性・資源効率の高いものとし、それによって気候中立的な生産に大きく貢献するビジョンを掲げている。そのため、研究テーマとしては、①戦略的エネルギー・資源管理:企業が気候中立の目標に対しいかに戦略的に生産を行うか、②気候中立生産インフラの確立:冷却・熱・圧縮空気などの気候中立生産インフラをいかに評価し、組み合わせて効率良く活用するか、③生産機械のエネルギーシステム分析と最適化:機械加工や洗浄、乾燥、熱処理などに関わる生産機械の効率性と柔軟性の最適化をいかに確立し活用できるか、④エネルギー最適化された工場運営:工場運営の最適化により気候中立生産にいかに貢献できるか、⑤気候中立生産におけるサイバーフィジカルシステム(CPS):CPS、デジタルツイン、アセット管理シェル(インダストリー4.0で提唱されているアセットの接続性と相互運用性を実現するオープンスタンダード)などを活用していかに気候中立生産を可能にするか、などを推進している。
当日は、ETAファクトリーのStefan Seyfried博士より、エネルギー効率向上のアプローチとして、工場の構成要素である建築施設、空調やコンプレッサなど技術的建築設備、生産機械について個別にエネルギー効率向上を目指す従来の手法(エネルギー節減率:30%未満)ではなく、生産機械と技術建築設備、建築施設を相互接続して、エネルギーコントロールやエネルギー回生を実施することで相乗効果を高め、約40%のエネルギー節減を目指すアプローチについて紹介。建築学の観点からはエネルギー活性化やモジュラー構造の採用など、エネルギー・電気工学の観点からは生産機械・技術建築設備・建築施設のエネルギー接続や総合エネルギー制御など、機械工学の観点からは生産機械レベルでのエネルギー接続やエネルギーを考慮した機械の最適制御、革新的な制御コンセプトによるピーク負荷の低減などといった、学際的な取り組みによってエネルギー効率向上を進めていることを報告した。また、産業施設において、産業用冷凍システムを最適化し、エネルギー効率と柔軟性を高めるためのAI駆動型システムの開発を進めるプロジェクトなど、多数のプロジェクトに参画していることも紹介された。

その後、ETAファクトリーの革新的な生産棟に設置された縦型旋盤や洗浄機、熱処理炉、縦型研削盤などを見学。それら生産設備を用いて旋盤加工→穴あけ加工→洗浄→熱処理→研削加工→洗浄→組み立てという、産業生産プロセスチェーンに基づくエネルギー最適化に関する研究を進めていることが紹介された。また、生産機械や建築施設、技術建築設備のエネルギーシステムについて、電力グリッド、温水グリッド・冷水グリッド、グリコール水グリッド、ガスグリッドを夏期シナリオ、冬期シナリオなどに応じて、最適に組み合わせるなどの総合エネルギー制御を行っていることが説明された。例えばコンクリート屋根の断熱効果をグリコール水グリッドで高めて屋根の温度を平準化した上で、夏期には冷水グリッドで室内の温度を下げ、冬季には温水グリッドで室内の温度を温める。エネルギーを効率良く回収し貯蔵していることなども紹介された。

