工作機械技術振興財団(理事長:安達俊雄氏)は6月16日、東京都港区の第一ホテル東京で「第47回工作機械技術振興賞贈賞式」を開催した。

同財団は、学術および科学技術の振興を目的として、牧野フライス製作所の創業者・牧野常造氏らの寄付により、1979年に通商産業(現経済産業)大臣の許可を得て設立。工作機械の開発、生産、利用に関する基礎的、応用的な技術の開発に関わる助成を通じて、工作機械の品質・性能の向上、生産および利用の改善や合理化に携わる研究者・技術者の養成に寄与することにより、機械産業の健全な発展に資し、もって国民経済の発展に寄与することを目的としている。
当日は冒頭、安達理事長が、「2024年以来の牧野フライス製作所へのTOB(株式公開買付)に関して、評議委員・理事の賛同のもと財団としてTOBへの反対表明を行い、会社関係者の慎重かつ明確な対応と関係各位の日本の工作機械業界に対する深い理解のもとで解決が図られ、財団運営の上でも晴れやかな気持で本日を迎えることができた」と関係各位に謝意を述べた上で、「当財団は創設以来40余年にわたり工作機械技術の振興を目的として試験研究を助成するとともに、この分野の優れた研究成果に対し工作機械技術振興賞を贈賞してきた。本日贈賞および試験研究助成を受けられる皆様には心よりお祝い申し上げるとともに、日ごろの研鑽に対して深甚なる敬意を表したい。今回の贈賞を含め当財団がこれまでに贈賞してきた工作機械技術振興賞の累計は、論文賞、奨励賞、隔年実施の人財育成賞を合わせて1225件3136名に達し、試験研究助成については、比較的歴史の浅い特別試験研究助成の21件を含めて累計333件となった。財団の事業は地道な活動だが、工作機械技術の進歩・向上に間接的ながら着実に寄与したものと考えている。我が国経済を取り巻く環境は大きな変化の時代を迎えているが、その一方で牧野フライス製作所からの当財団への支援が大幅に強化されようとしている。そうした中、財団としての皆様方との連携を一層深めながら、振興事業の一層の強化を図っていきたい。忌憚のないご助言・ご鞭撻をお願いしたい。これまでのご尽力に感謝するとともに、引き続きのご協力をお願いしたい」と開会の挨拶を力強く行った。

続いて、第47回工作機械技術振興賞についての審査報告が、新野秀憲(東京科学大学 名誉教授)審査委員長よりなされ、論文賞、研究助成のそれぞれについて選定理由を簡潔に説明した。例えば論文賞の日本精工の研究論文「Foundational development, modeling and configuration of state stabilizing mechanism to maintain axial tension in ball screw feed drive systems」については、「ボールねじの熱変形対策は従来、対処療法がほとんど。これに対し本研究では、軸力を自律的に安定化させる手法を提案することで、工作機械の高精度化と信頼性向上に寄与する成果として評価した」とコメント。また、研究助成Aの富山県立大学「工作機械用すべり案内面の In-situ 油流れ観察と摩擦力計測による摩擦特性評価手法の構築」の選定理由については、「工作機械用すべり案内面について、潤滑状態のその場観察と摩擦力姿勢変動の統合評価を試みたもので、工作機械案内構造の高性能化への寄与が期待される」と評価した。さらに奨励賞に関しては、「115編の候補から7編が選定されるという厳しい競争を勝ち残った」受賞研究に関して、「学生ならではの自由な発想と旺盛な研究姿勢による優れた研究成果で、工作機械技術の将来を担う優れた人材の成長を強く感じさせる」と評価。「本受賞を新たな出発点として、今後さらに研究活動を発展させるとともに、ものづくりを支える研究者として大きく成長することを期待したい。また、日頃から熱心に始動された指導教員各位に対しても、深く敬意を表する」と語った。

大学、高専、公的研究機関および企業の研究者などを対象に工作機械の発展・進歩に大きな貢献が期待できる独創的な論文に対し表彰する工作機械技術振興賞「論文賞」は、日本機械学会、精密工学会、砥粒加工学会、電気加工学会の四つの学会の推薦と、研究者が所属する機関の長の推薦により応募がなされた中から選出され、今回は以下のとおり5件18名に贈賞がなされた。
・「Foundational development, modeling and configuration of state stabilizing mechanism to maintain axial tension in ball screw feed drive systems」新井 覚氏・竹之内 優志氏・本多 信太郎氏・谷 翔太氏(日本精工)
・「Development of Side Wall Surface Smoothing Method by Large-area Electron Beam Irradiation」篠永 東吾氏・Jiayu Lu氏・岡田 晃氏(岡山大学)
・「Fluorescence response-based optical probing (FROP)法による難計測構造の3次元表面センシング」道畑 正岐氏・河見 建佑氏・吉川 元弥氏・増井 周造氏・高橋 哲氏(東京大学)
・「Proposal of a Novel Multi-Spindle Machine Tool Configuration:Prototype Development and Machining Test」Kianoosh Rossoli氏・茨木 創一氏(広島大学)
・「微粒子ピーニングによるガラスのナノテクスチャリングとそれを用いた粉体付着防止効果」川合邑佳氏・小玉脩平氏・佐藤秀明氏・亀山雄高氏(東京都市大学)

左から安達俊雄理事長、日本精工 新井 覚氏・竹之内 優志氏・本多 信太郎氏・谷 翔太氏
また、将来の工作機械の発展を担う人材育成の一助として優秀な卒業論文を発表した学生およびその指導教官に対し表彰する「奨励賞」では今回、以下のとおり7件36名に贈賞がなされた。
・「CMP プロセスにおけるウェハ面内の摩擦係数分布を考慮した材料除去レート分布の高精度推定」広野 翔氏・鈴木 教和氏(神戸大学)、三谷 千紘氏(中央大学)、佐藤 拓実氏・平野 航大氏(荏原製作所)
・「前後同時切削5軸ターンミリングにおける切削力相殺効果の解析」野口 丈氏・篠崎 直紀氏(東京農工大学)、高橋 亘氏・阿部 太郎氏・髙橋 秀史氏(三菱マテリアル)、笹原 弘之氏(東京農工大学)
・「AM による複合ラティス構造砥石の開発と研削特性」神長 哲郎氏・高畑 光汰氏・倉本 繁氏(茨城大学)、稲澤 勝史氏(栃木県)、大森 整氏(理化学研究所)、伊藤 伸英氏(茨城大学)
・「ダイヤモンド砥粒刃先とニオブとの接触摩耗メカニズムの検討」倉光 健翔氏・二ノ宮 進一氏・松本 幸大氏(日本工業大学)、岩井 学氏(富山県立大学)
・「電界スライシング技術におけるSi インゴットの切断特性について」細川 遥花氏・池田 洋氏(秋田高専)、久住 孝幸氏・越後谷 正見氏(秋田産技センター)
「超精密研削盤用油静圧スピンドルのアクティブ制御」田邊 響介氏・藤田 祐成氏・田中 凜太氏・脇谷 趣聞氏・中尾 陽一氏(神奈川大学)、Dmytro Fedoryn氏(東北大学)、黒須 匠氏・鈴木 悠介氏(ナガセインテグレックス)
「超硬合金の炭化タングステン粒径が細線ワイヤ放電加工特性に及ぼす影響」加藤 雅也氏・山上 雄大氏・岡田 晃氏(岡山大学)

左から、栃木県 稲澤 勝史氏、茨城大学 伊藤 伸英氏・神長 哲郎氏、安達俊雄理事長、茨城大学 高畑 光汰氏・倉本 繁氏、理化学研究所 大森 整氏
続いて、第46回試験研究助成では、研究助成Aとして7件、学生を対象とする研究助成Bとして3件、プロジェクト研究を対象とする特別試験研究助成として1件が選定された旨の発表がなされた。

摩擦特性評価手法の構築」富山県立大学・宮島 敏郎氏の表彰のようす
その後、経済産業省製造産業局産業機械課長の須賀千鶴氏が来賓の挨拶に立ち、「皆様の優れた研究成果とたゆまぬ努力が本日の受賞に結び付いたもの。歴史あるコミュニティにようこそ、とお祝い申し上げたい。工作機械技術振興財団においてはこれまで、継続的な助成を通じて、工作機械の性能向上や利用の高度化に関わる研究者や技術者の養成に尽力をいただき、感謝している。工作機械はマザーマシンとして生活用品から航空宇宙の分野に至るまで幅広い生産に不可欠な製造業の基盤であり、我が国の工作機械産業は長年にわたり世界中のユーザーからの多様な要請に高いレベルで応え続けることで高い信頼を獲得し、世界トップクラスのシェアと評価を維持している、まさに我が国製造業を代表する産業。工作機械は戦略産業としての製造業の復権という近年のグローバルな潮流の象徴でもある。日本が技術優位性を有することは経済安全保障上も大変重要であることから、政府としては経済安全保障推進法に基づく「特定重要物資」に工作機械を位置付けている。今回受賞された皆様、助成対象に選ばれた皆様の取り組みには、加工技術の高度化や次世代の人材育成に寄与するものが多く含まれている。今回の受賞を新たな飛躍の契機として、我が国の工作機械産業の更なる発展をけん引していただけると期待している。政府は今年、フィジカルAIを大きなうねりにしようと、2年前には二桁億円だった予算を、ついに1兆円規模の予算要求まで大きく広げることを予定している。今年からの工程集約型の加工機を対象に追加した省エネ補助金や経済安全推進法に基づく基金などの各種支援等も活用して、業界の皆様の取り組みを強く後押ししていきたいと考えている。工作機械業界はフィジカルAIの本命であり、これからの時代の花形産業である。ぜひその業界を、各位の知恵と努力でけん引していただきたい」と力強く語った。

贈賞式に続いて、論文賞の受賞者を代表して、以下2件の講演会が行われた。
論文賞受賞講演「微粒子ピーニングによるガラスのナノテクスチャリングとそれを用いた粉体付着防止効果」…延性モードの微粒子ピーニング(FPP)を用いることでガラスのナノテクスチャリングとそれによる防汚性実現(太陽光パネルへのPM2.5などの粉体の付着防止)が可能になるほか、延性モードFPPによってガラスの高靭化・強度向上が可能になると報告した。


「Development of Side Wall Surface Smoothing Method by Large-area Electron Beam Irradiation」…磁場制御下での大面積電子ビーム照射により、任意の個所に電子ビームを誘導することができ穴底面や穴側面の平滑化を可能にしたほか、複数本のヨークを用いた磁場制御下での大面積電子ビーム照射によってラティス構造体内部および外部表面の平滑化を可能にしたことを報告した。


