アトムと日本精工(NSK)は8月26日、東京都江東区のアトム本社で、国産ヒューマノイドAIロボットの開発・実装に向けた包括的なパートナーシップに関する基本合意書(MOU)締結に伴う合同記者会見を開催した。当日はまた、フィジカルAIの学習データを生産する開発拠点「アトム フィジカルAIファウンドリ」が披露された。

両社は、NSKが開発するヒューマノイドロボット向けアクチュエーターをアトムのヒューマノイドAIロボットに搭載して共同検証するとともに、NSKの製造現場を活用したフィジカルAIデータの共同収集にも取り組む。フィジカルAI・ヒューマノイドロボットのスタートアップであるアトムと精密部品メーカーであるNSKが、部品単体の供給にとどまらず、実機評価、データ収集、製品開発を一気通貫に進める。
記者会見でアトムの青木俊介社長は、ヒューマノイドAIロボットを日本の新たな基幹産業として育てたいとの考えを示した。少子高齢化による物流現場や製造現場の人手不足といった社会課題の解決に加え、日本が世界で競争できる新たな輸出産業を育成する必要性を背景に挙げ、「日本の部品産業をレバレッジする」ことを同社の重要な戦略の一つに位置付ける。NSKとの提携では、同社の精密部品の開発力と、アトムのヒューマノイドロボットおよびフィジカルAIの開発力を組み合わせ、世界市場で競争できるヒューマノイドAIロボットの実現を目指す。
一方、NSKの市井明俊社長は、ヒューマノイドAIロボットを日本の製造業が培ってきた精密技術の新たな活躍領域と捉える。NSKはベアリングやボールねじなどで培った耐久性、低摩擦、静粛性などの技術を基盤に、フィジカルAIが生み出す動きを現実の機械動作へ変換する「体」として、精密機械部品が重要になると指摘。特に、AIが意図した動きを正確かつ滑らかに実現するには、機械側の精度や安定性が不可欠で、長年培ってきたトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑)技術を生かして、高耐久・高レスポンスで静粛性の高いヒューマノイドAIロボット向けアクチュエーターの実現に取り組む。
両社の協業の一つが、このヒューマノイドAIロボット向けアクチュエーターの共同検証だ。NSKはすでに、ヒューマノイドロボット向けにロータリーアクチュエーターとリニアアクチュエーターを開発。軸受・直動製品技術とメカトロ技術を融合した、小型・軽量・高バックドライバビリティを特徴とするもので、ロボットのしなやかな動きを実現する。今回のMOUでは、それらのアクチュエーターをアトムのヒューマノイドAIロボットに搭載し、実際のロボット動作を通じてアクチュエーターの性能を検証する。実機評価から得られる知見を部品開発に戻すことで、性能向上だけでなく、量産化に向けた課題の洗い出しと解決を加速する。
協業ではまた、物流・製造現場を活用したフィジカルAIデータの共同収集を行う。アトムではすでに、新設したアトム フィジカルAIファウンドリにおいて、ロボット数十台を実際に動かして人間の動作や作業に関するデータを蓄積し、フィジカルAI基盤モデルの開発につなげる取り組みを進めている。今後は、NSKの製造現場をデータ収集の場として活用することで、実際の生産環境に由来するデータを取得し、製造工程で求められる作業をロボットが実行するためのAI開発を進める。ハードウェアの性能検証とAIの学習・改善を現場で循環させることで、部品とロボット、AIのすり合わせを加速する狙いだ。
両社が重視するのは、単純な「部品メーカーとロボットメーカー」という関係ではない。市井社長は、ハードとソフトを同時にすり合わせる開発を通じ、日本の製造業が培ってきた「すり合わせ」の技術を新しい形で体現したいとの意向を表明。製品そのものの競争力だけでなく、共創による開発プロセスそのものを日本の競争力につなげる考えを示した。青木社長も、日本の優れた部品メーカーと共同で設計・開発することで、日本が培ってきた生産・製造技術とAIを融合した、世界で勝てるヒューマノイドロボット産業を日本から立ち上げる方針を示した。
記者会見後は、新設された「アトム フィジカルAIファウンドリ」が披露された。
アトムは五本指・双腕・二足歩行のヒューマノイドAIロボットとそれを動かすフィジカルAI基盤モデルをいずれも自社開発しているが、本拠点では、そのヒューマノイドAIロボットを用いて、多様な作業データの収集・生成から、AIモデルの学習・評価、実機による検証、機体の改良までを一体的に行う。アトムではまた、データ生産拠点の一部を外部に開放・公開することで、日本のAIロボット産業全体の推進に貢献していくほか、拠点の一部を開放することでフィジカルAIに関する安全性・信頼性・セキュリティの議論に対して責任をもって参画していく。
約1700㎡の開発空間に、2027年末には200台規模のヒューマノイドAIロボットを稼働させ、累計30万時間分の学習データを生産する体制を構築する。実機から得られたデータをAIの学習と機体の改良に継続的に還元することで、AIとハードウェアを同時に進化させる垂直統合型の開発サイクルを加速し、2027年を目標に製造業・物流業向けを中心に、自社開発ヒューマノイドAIロボットの市場投入を目指す。



