本年9/17~21に開催、ITC Sendai 2019(国際トライボロジー会議 仙台 2019)の、ここが見どころ
東北大学 教授
日本トライボロジー学会国際企画委員会委員長、ITC Sendai 2019 副実行委員長
足立 幸志 氏に聞く
日本トライボロジー学会(JAST)が主催する最大のイベントである「国際トライボロジー会議(International Tribology Conference: ITC)」が本年9月17日~21日に、「杜の都」仙台にある仙台国際センターで開催される。
ここでは、ITC Sendai 2019(国際トライボロジー会議 仙台 2019、以下ITC仙台)の副実行委員長であり、JASTの世界的なプレゼンス強化の各種施策を推進するJAST国際企画委員会委員長の足立幸志氏(東北大学教授)に、プレゼンス強化施策の側面も含めて、ITC仙台の見どころについて、話を聞いた。
JASTの世界的プレゼンス強化の施策
JAST国際企画委員会の現在の主たるミッションはJASTの世界的なプレゼンス強化の具体的施策の提案と実行である。大きくは、JASTとしての中長期的国際戦略の検討と、学会の将来を担う若手研究者・技術者の育成を活動の中心に据えている。
世界的プレゼンス向上の具体的な内容としては、①主要国際会議、論文誌等におけるJASTおよびJAST会員の存在感の向上、②TROL(JAST発行の英文ジャーナル)の存在感の向上、③学会の将来を担う若手研究者・技術者の世界的な活躍、④日本のトライボロジー技術・研究のレベルの著しい向上、⑤会員技術者・研究者の活発な国際的研究活動、⑥日本国内の科学技術におけるトライボロジー分野のプレゼンス向上、などを掲げている。
2018年度(第63期)の活動成果としては、大別して以下の四つの取組みが進められた。
第一には、米国トライボロジー学会(STLE)との出版物の情報交換や若手交流などに関する相互連携覚書の締結や、ドイツトライボロジー学会(GfT)との相互連携覚書の締結など、海外トライボロジー学会との連携促進がある。
二番目の取組みとしては、二国間学術交流の推進が挙げられる。2018年4月に中国機械工程学会摩擦学分会(CTI)とJASTとの共催で北九州市において開催された第9回日中トライボロジー先端フォーラムや、同年10月に韓国潤滑学会(Korea Tribology Society:KTS)との共催で韓国・平昌において開催された第2回日韓トライボロジーシンポジウム、同年11月に台湾・台北において開催された第2回日台トライボロジーシンポジウムなどだ。
第三には、タイ・バンコクで同年11月に開催された第4回トライボロジー国際技術交流会など、日系海外現地法人での技術交流の場の提供がある。
第四番目がITC仙台におけるJASTのプレゼンス強化施策で、独自の名刺大のパンフレットを用いた宣伝活動や、各種国際会議の懇親会における宣伝活動を強化してきた。そのほか、以下で紹介する各種の目玉企画の実現に向けて準備を進めた。
2019年度の計画としては、ITC仙台におけるプレゼンス強化を含む上記四つの取組みに加えて、JASTとしての中長期的な国際戦略の検討を重ねていく。具体的には、①海外トライボロジー学会との交流・連携に関する戦略と役割の明確化や、②国際的プレゼンス向上を示す指標に関する議論、③JASTのプレゼンスの現状把握、④国際会議積立資産の利用を念頭に置いた短期的国際戦略の実施、などを進める。
ITCの概要とこれまでの開催の概要
さて、国際トライボロジー会議(ITC)は、4年ごとにJASTが主催する国際会議(2005
年までは5年ごと)で、理論的研究から実用化を目指した研究までバランスのとれた発表が行われている。特に海外のトライボロジー関連の国際会議に比べて、自動車分野をはじめ幅広い産業界で活躍するトライボロジー研究者・技術者が多数参加し発表するITCは、世界各国から多くの参加者が集まることで知られている。
1990年開催の「ITC名古屋」以降、2015年に開催された前回の「ITC東京」までの開催概要は以下の表のとおりだが、発表論文件数は前回のITC東京が最多の600件となっている。本年9月に開催されるITC仙台ではそれをしのぐ650件あまりの発表講演件数が予定されている。
ITC仙台の位置付け
ITC仙台の一つの側面としては、前述のとおりJASTの国際的プレゼンスの向上に加えて、トライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑の科学技術)の科学技術としてのプレゼンス向上がある。トライボロジーに関わる世界中の多様な分野の研究者・技術者がITC仙台において接点を持ち交流することによる、さらなるトライボロジーの飛躍、国際的な深いネットワークの構築などが期待されている。また、トライボロジーと異分野の融合を図ることもITC仙台における狙いの一つである。以下に示すITC仙台のロゴマークには、これらの願いが込められている。
ITC仙台の見どころ
◆異分野最先端研究者によるPlenary Lecture
今回の見どころの一つが、海外と日本の研究者による、トライボロジーおよび異分野の最先端研究に関するPlenary Lecture(基調講演)だ。“異分野と結ぶ、次の時代を切り開くPlenary Lecture”のテーマのもと、トライボロジーの最先端を切り拓く第一線の研究者とともに異分野(ロボット研究、レオロジー研究、数学)の第一線の研究者を招待し、以下のとおり講演が行われる。
【9月18日(水)】
・“Nanoscale Mechanisms Controlling Friction, Adhesion, and Lubrication Using in situ Approaches”Robert W. Carpick氏(University of Pennsylvania, USA)
・“ImPACT Tough Robotics Challenge - A National Project of Japan Cabinet Office on Disaster Robotics”田所 諭氏(東北大学、ロボット研究者)
【9月19日(木)】
・“What is the Best Design of Oil Additives for Friction Reduction?”平山朋子氏(京都大学)
・“Tribology and Rheology: Complementary Roles in Material Research”渡辺宏氏(京都大学、レオロジー研究者)
【9月20日(金)】
・“In-Silico Experiments in Tribology: the Power of Modelling and Simulations”Daniele Dini氏(Imperial College London, UK)
・“Mathematical challenge to a new phase of materials science”小谷元子氏(東北大学、数学者)
Plenary panel session (主要国際トライボロジー雑誌編集長討論会)
ITC仙台におけるJASTのプレゼンス強化の目玉となるのが、 “WEAR”、“JOURNAL OF TRIBOLOGY,ASME”、“TRIBOLOGY INTERNATIONAL”、“Tribology Transactions,STLE”、“TRIBOLOGY LETTERS”、 “Friction”、“Tribology Online,JAST”、という、世界の主要なトライボロジー関連雑誌7誌の編集長によるパネル討論会だ。「世界におけるトライボロジー研究の動向」や「未来に向けたトライボロジー」などをテーマに活発な議論が期待されている。
◆JAST & STLE young tribologist symposium(日米トライボロジー学会若手シンポジウム)
2018年度に相互連携覚書を締結した米国トライボロジー学会(STLE)との交流の第1弾が、このITC仙台における日米トライボロジー学会の若手トライボロジストを中心にしたシンポジウム JAST & STLE young tribologist symposiumである。両学会の将来を担う若手研究者・技術者間の活発な議論が期待されている。
◆Technical session
また、上述のとおりITC仙台では、これまでのITCで最大となる650件あまりの発表講演件数が予定されている。
トピックスとしては、Fundamentals of tribology(トライボロジーの基礎)、Lubrication and lubricants(潤滑および潤滑剤)、Surface and interface(表面および界面)、Material engineering(材料工学)、Manufacturing and machine elements(ものづくりと機械要素)、Life(生体・生活)のテーマが、シンポジウムとしては、JAST & STLE young tribologist symposium(日米トライボロジー学会若手シンポジウム)とともに、Contact dynamics of soft matters(ソフトマターの接触力学)、 Latest technology trends for lubricating greases(潤滑グリースの最新の技術動向)、Lubricant additive and base oil technology for sustainable global environment(持続可能な地球環境のための潤滑油添加剤および基油の技術)、New challenges in tribology for sealing technology(シール技術のためのトライボロジーの新たな挑戦)、New coating technology boosting tribological performance(トライボロジー性能を高める新しいコーティング技術)、Tribology simulation(トライボロジーシミュレーション)、Wear fundamentals(摩耗の基礎)といったテーマにおいて最新の発表がなされる。
◆Cultural activities
海外からの参加者を対象にした日本文化に触れていただくイベントCultural activitiesとして、書道教室やオリジナルの箸を作る体験教室が設けられる予定である。
◆Satellite Forum
ITC仙台のサテライトフォーラムとしては、9月12日~14日に北海道函館市において「Tribochemistry Hakodate 2019(8th International forum on Tribochemistry)」が、9月15日~16日に仙台市青葉区の東北大学において「Biotribology Sendai 2019(The 11th International Biotribology Forum, The 40th Biotribology Symposium)」が開催される。こちらもぜひ足をのばして参加いただきたい。
トライボロジーの発展につながる場としてのITC仙台
ITC仙台ではそのほか、ITC Sendai 2019 Special Issue on Tribology Onlineが創設され、9月19日(木)のバンケットにおいて論文賞Excellent Paper Awardsやポスター賞Best poster award、などの表彰が行われる予定だ。
摩擦・摩耗・潤滑を研究するトライボロジーは分野横断的で基盤的な科学技術であるため、ITC仙台が、世界から参堂する様々な分野の研究者・技術者の交流によって、トライボロジーのさらなる発展に貢献できる場となれば幸いである。