日本トライボロジー学会(JAST)は11月11日~13日、「トライボロジー会議 2020 別府」をオンライン開催した。
今回は、機械要素や潤滑剤、固体潤滑、表面処理・コーティング、分析・評価・試験方法などに関わる研究約230件が、一般セッションとシンポジウムセッション、国際セッションで発表された。シンポジウムセッションは「役に立つバイオインスパイアード・ソフトトライボ応用技術」、「工作機械のトライボロジー」、「境界潤滑添加剤最前線―摩擦調整剤、摩耗・焼付き防止剤の最新技術と応用」「シールにおけるトライボロジー技術」「トライボロジーの啓発と次世代教育について考える」「3rd Japan-Korea Tribology Symposium」「添加剤としてのフラーレンの可能性」のテーマで開催された。
12日には特別講演会が開かれ、清川進也氏(湯~園地計画総合プロデューサー)が「世界が沸いた!別府市・湯~園地計画の全貌」と題して、別府の温泉と遊園地をコラボレーションした「湯~園地計画」の企画から開催の成功に至るまでの全貌について紹介した。
特別講演会に続く開会式で挨拶に立った松田健次実行委員長(九州工業大学 教授)は、「温泉の湧出量、源泉数がともに日本一の別府での開催が2年前に決まってから郷土料理でのおもてなしを含め準備を進めてきたが、新型コロナウイルスの蔓延に伴い現地での開催を本年7月に断念せざるを得なくなった。しかしながらオンラインという形ではあるものの、講演数は一般講演・シンポジウムで約230件と、地方で開催された従来の会議での発表件数とほぼ匹敵する内容で開催できることは大変喜ばしい。オンラインでの開催を案内した後に“名刺交換の場があるか”との問い合わせをいただき、トライボロジー会議が情報交換の重要な場であることをあらためて認識した。そこで、セッション後に個室(ブレイクアウトルーム)に移動していただき講演者と参加者が交流できる場を設けた。ぜひ活用いただき交流を深めていただきたい。オンライン開催ならではのイベントとしては、我々実行委員会とJAST国際企画委員会(委員長:東北大学 教授・足立幸志氏)とが協力して、ライブ配信によるドイツトライボロジー学会との交流イベントなども設けた。オンライン開催となった本会議の開催に協力をいただいた各位に、深く感謝したい」と述べた。
開会式では続いて杉村丈一JAST会長(九州大学 教授)が、「本年7月に、遺憾ながら現地での開催を断念する決断をしたが、形式にとらわれず開催を決定したところ、ふたを開けてみると、誰もがクリック一つで、希望のセッションを最前列で聴講できるという利点があることが分かった。何よりも、1年ぶりにトライボロジーの仲間たちが集まって、講演し質疑し、オンラインでも多くの情報交流ができていることが、とても嬉しく、とても意義深く、また、この前代未聞の折に、皆が良いアクティビティーを保っていることを実感した。ブレイクアウトルームの企画など、人的交流の場であるトライボロジー会議にいかに近づけるかを協議・検討・工夫いただいた、松田実行委員長をはじめとする関係各位の尽力に深く感謝したい。最終日まで、できる限り情報交流を図っていただき、バーチャル別府を楽しんでほしい」と語った。
11日と12日のセッション終了後には、以下のとおり特別企画が実施された。
11日にはイブニングセッションとして、ドイツトライボロジー学会GfTとウェブで接続し、リアルタイムで以下2件の講演がなされた。
・「The German Society for Tribology(GfT) and its current activities」Christoph Wincierz氏(GfT会長)…GfTの1959年の設立以来の活動の沿革について紹介したほか、現在の活動内容を紹介した。近年のトピックスへのトライボロジーの取組みとしては、エネルギー関連のトライボロジー、電気自動車、大気汚染のコントロール、CO2ニュートラルエネルギー、サスティナビリティー、環境適合性潤滑剤、トライボロジーに影響を与える環境政策、教育および研究、トライボロジー特性評価などを挙げた。特に産業界、大学、研究機関のメンバーからなるヤング・トライボロジストの部会を2015年に立ち上げるなど、若い世代に魅力のある学会づくりに取り組んでいることを強調した。
・「How advanced lubrication can contribute to a sustainable future:Quantification of CO2 reduction by life cycle assessment」Markus Matzke氏(Robert Bosch社)…機械の性能劣化・故障を防ぐための摩擦・摩耗の低減、エネルギーの節減は潤滑の主要な目的だが、近年は潤滑剤の有害な成分が環境負荷の少ない成分に代替され、使用済み潤滑剤のリサイクルシステムも確立されるなど、トライボロジーの始祖であるPeter Jost氏が提唱した「グリーントライボロジー」の実践がますます求められていることを紹介。ボッシュ社では気候、エネルギー、水環境、都市化、グローバリゼーション、健康という六つのサスティナブルな目標に向けた潤滑・トライボロジー関連の取組みを進めており、潤滑グリースに関する取組みとして、構成成分の製造からグリースの製造、自社製品の組付け時のグリース封入、最終製品である自動車でのメンテナンス、リサイクルまでのライフサイクルについて紹介した。また、マルチグレード油圧作動油や低粘度エンジン油など先進の潤滑剤やトライボシステムの適用によって、エネルギー消費量の低減や温室効果ガスの低減に寄与できると述べた。
また、12日にはウェビナーとして、ITC (International Tribology Council:国際トライボロジー評議会) 会長でテキサスA&M大学教授のAli Erdemir氏が、「Advances in Superlubricity ― Recent Developments and Future Prospects」と題する講演を行った。エネルギーや環境、グローバル・サスティナビリティーに寄与する超潤滑の可能性について紹介。摩擦・摩耗によって全世界のエネルギーの約23%が消費されており、これは年に8ギガトンのCO2排出量に相当することから、大幅な摩擦低減に寄与する超潤滑研究のエネルギーや環境持続性へのインパクトはとてつもなく大きいとした。超低摩擦・超低摩耗に寄与する多数の材料・コーティングの設計・開発において数々の進展が見られたこと、特にグラフェンやダイヤモンドライクカーボン(DLC)コーティングなどで超潤滑が認められていると述べた。また、摩擦が全世界のエネルギーの20%以上を消費し続けることから、エネルギー、環境、グローバル・サスティナビリティーに寄与するトライボロジー研究を継続する必要性を強調した。