日本滑り軸受標準化協議会(PBSA)は6月12日、東京都千代田区の学士会館で「2019年度 第1回総会(通算 第29回総会)」を開催した。
当日は、開会の挨拶に立った林 洋一郎会長(オイレス工業)が、「1年前に会長に就任して以来、すべり軸受メーカーとそのユーザー企業、大学・研究機関のアカデミアという三者で育んできた当会の交流を維持しつつ、それぞれにメリットのある標準化作業を進めるとともに、標準化以外の活動・情報交換も拡充していくことを考えてきた。たとえば総会時の特別講演をこれまでの1件から2件に増やす、これまでと切り口の違うテーマや産業全般のテーマの話題提供をお願いするといったことで、講演件数2件は今後も確保したい。このような機会を増やすことで新しい規格のヒントが生まれてくると考えている。会員である3者がともに魅力を感じてもらえる会へと一層発展させたい」と述べた。
続いて2018年度の活動報告がなされ、2019年度の活動計画が発表された。2019年度の活動計画として、会議開催関連では2019年度第2回総会を来年2~3月ごろに開催。また、理事会を2回程度開催するほか、ISO/TC123国際標準関連プロジェクトおよび委員会等への参加と支援を行う。国際会議関連では、本年11月に中国・杭州で開催予定のISO/TC123および各SC国際会議の支援や、SC8のタイ国とのツイニングに関して、タイ国との交流を深めるための活動およびそれに係る経費等の支援、ISO/TC123における国際標準新規提案事項の調査、特に表面改質およびすべり軸受計算法に係る標準化作業の支援などを行う。国内関係では、日本機械学会ISO/TC123平軸受国内委員会活動の支援、PBSAおよび同会員に寄与する講演会・研究・調査などの実施、PBSAの会員増強対策、標準化作業を円滑に進めるための会員が活用しやすいホームページの作成・整備などを行う。さらには、その他の国内規格(JIS)および国際標準(ISO)開発に係る活動などを行う。
上記の活動計画のうち今回は特に、PBSAの会員増強案について活発な議論がなされた。たとえばISO/TC123国際議長の山本隆司氏(東京農工大学名誉教授)からは、「転がり軸受メーカーがトレインチャンネルなどで転がり軸受の魅力を発信しているように、水中で低摩擦を示すといった、すべり軸受の多くの利点について、会員各位の専門知識を活用しながら広く宣伝していくことが、すべり軸受に関わる人口を増やす上で有用ではないか」といった提案がなされた。
さらに、日本機械学会ISO/TC123平軸受国内委員会の2019年4月~2022年3月の活動の提案について、同委員会幹事の畑中雅憲氏(大豊工業)から報告された。発熱・変形を考慮した軸受計算技術の国際標準化やすべり軸受に関する流体潤滑理論の基礎事項の国際標準化、MoS2を応用した表面改質技術の国際標準化、DLCを応用した表面改質技術の国際標準化、エンジン軸受試験機の国際標準化などを掲げた。また、TC123関係国との連携強化案として、欧州関係国との連携強化や、タイ(SC8ツイニング)との交流などアジア諸国との技術交流を挙げた、
総会終了後には、以下2件の特別講演がなされた。
①「TC8/SC6の紹介と海運界の動向について」庄司るり氏(東京海洋大学)…ISO/TC8(船舶および海洋技術専門委員会)の技術的な方向性として安全性や環境、セキュリティー、海洋教育、海洋技術などを掲げ、庄司氏が議長を務めるISO/TC8/SC6(航海および操船)ではISO 19847およびISO 19848を活用した船陸オープンプラットフォームの構築など各種の日本提案を積極的に実施している状況を紹介。今後は船内情報の情報符号拡張のための調査研究や、船内LANに関する調査研究、電子海図表示装置(ECD)の国際標準化に関する調査研究などを進めていくとした。さらに海運の動向として、環境保全や自動運航船、IoT、ビッグデータ、AIなどの利用、造船分野の新技術、新素材、人材不足への対応などについて説明。さらに、航行環境情報や自船情報などの欠落や陸・船間の情報の伝達不良など、船長・当直航海士が情報解析・行動決定を行う上での各種の課題を紹介、SC6ではそれら課題に対応する標準化作業に取り組んでいく必要があると総括した。
②「接触・凝着の計算力学」古口日出男氏(新潟工科大学)…Hertz接触理論など接触解析の歴史や、JKR理論など凝着解析の歴史について説明。接触の解析事例としては、金型などに微細パターンを加工することで鋼板の流入特性を制御でき自動車のドアの型成形などを効率化できるとして、摩擦を考慮した接触解析および実験を用いて微細パターンを有する面の摩擦特性の解明を試みた事例を紹介した。また、凝着の解析事例としては、ヤモリが表面に張り付くのが足先の構造とvan der Waals力によるものであるとして、ヤモリの凝着機構を模倣した、壁面を登るロボットやヤモリテープなどバイオミメティクス研究開発の事例を紹介した。現在も、ソフトマターであるポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いての凝着解析(ヤモリの凝着機構のバイオミメティクス研究)と、ナノマテリアルの応力解析について研究を継続していると述べた。