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カーボンニュートラル実現に向けた歯車システムとトライボロジー

 

JAST自動車のトライボロジー研究会など4研究会が加賀で合同研究会

 日本トライボロジー学会(JAST)自動車のトライボロジー研究会(主査:豊田中央研究所・遠山 護氏)とJAST日本海トライボロジー研究会(主査:小松大学・粕谷素洋氏)、JAST機能性コーティングの最適設計技術研究会(主査:岐阜大学・上坂裕之氏)、東海トライボロジー研究会(会長:岐阜大学・上坂裕之氏)は3月14日、石川県加賀市の大同工業 本社工場/致遠館で「トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉」を開催した。

トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉 開催のようす bmt ベアリング&モーション・テック
開催のようす

 

 当日はまず、大同工業・新家啓史社長が開会の挨拶に立ち、「当社は1933年の創業以来90年以上にわたってトライボロジーを実践してきた会社で、〝大いなる目的のため、一致団結して高遠なる理想実現に努力すべし”という創業からの「大同致遠」の精神を実践しつつ、チェーンなど自社製品の摩擦を制御し耐久性や効率を高める技術を追求し、ユーザーの製品の省エネや環境負荷低減に寄与してきた。しかし一社でできることには限りがあるため、皆様といろいろな方面で意見交換をしながら、新しい価値の創造や理想の追求に愚直に取り組んでいきたい。本研究会を通じて、新たな知見や技術がさらに発展することを願う」と述べた。

トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉 挨拶する新家社長 bmt ベアリング&モーション・テック
挨拶する新家社長

 

 続いて、同社 総務部 広報チームの前田恭子氏が、同社のフィロソフィー(DID MUGENDAI)など会社の概要から、山中漆器の木地挽きろくろの技術から木製リム製造へと転換し、チェーン製造を手掛けていった事業の沿革について、さらには二輪・四輪チェーンなどモビリティ関連製品から、産業機械用チェーン・コンベヤシステム・バキューム搬送コンベヤなどの産業機械関連製品、いす式階段昇降機など福祉機器までの幅広い事業概要について紹介した。

トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉 会社紹介を行う前田氏 bmt ベアリング&モーション・テック
会社紹介を行う前田氏

 

 その後、同社福田工場の塑性加工工場と四輪エンジンチェーン工場を見学した。塑性加工工場では、スプロケットなどの複雑・高精度な三次元形状をネットシェイプ化する「三次元プレス成形」とキー溝加工を高い面粗度・寸法精度で打ち抜きできる「精密せん断」を組み合わせた独自「ファインプレスフォーミング技術」を用いたプレス機などを見学。また、四輪エンジンチェーン工場では、エンジンタイミングチェーンのピン・ブッシュ・ローラー・内外プレートなど構成部品の成形、接合、研磨、熱処理から、組み立て、目視検査までの工程の見学がなされた。

トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉 福田工場での参加者の集合写真 bmt ベアリング&モーション・テック
福田工場での参加者の集合写真

 

トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉 塑性加工工場の見学風景 bmt ベアリング&モーション・テック
塑性加工工場の見学風景

 

 工場見学後は、本社工場/致遠館に戻り、以下のとおり講演会が行われた。

 まずは、日本海トライボロジー研究会を代表して、新潟大学・月山陽介氏が「往復しゅう動試験機によるチェーングリースの潤滑特性評価」をテーマに話題提供を行った。往復しゅう動試験機を用いてピンとブッシュの摩擦挙動を再現し、グリース潤滑面におけるディンプルの影響を調査した結果、ディンプルによってサイクル初期の摩擦挙動が安定・低減する効果が得られ、その効果はグリースの粘度が高いときに顕著に見られた。ディンプル加工は、ピン・ブッシュ間のなじみ完了に時間を要しかつ高粘度グリースを使用したチェーンにおいて、高い効果を発揮する可能性があると結言した。

トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉 講演する月山氏 bmt ベアリング&モーション・テック
講演する月山氏

 

 また、東海トライボロジー研究会を代表して、大同工業・関 秀明氏が「チェーンとトライボロジー:幅広い産業を支える摩擦と摩耗技術」と題して、話題提供を行った。電動化の進展によって、モビリティ用チェーンにおいては、高速回転かつ給油条件が厳しい環境が想定され、また、速度の増加に伴うしゅう動発熱が大きくなるため潤滑不足や高温化、それらに伴う摩耗促進が懸念される。これに対し、発熱・摩耗抑制のための潤滑方法(潤滑位置の違いによる評価)や表面硬化処理の検討を行った。潤滑方法によって発熱低減や摩耗低減につながることを実験で確認したほか、同社独自開発のVCN(バナジウム炭窒化物)被膜が高速しゅう動時の発熱に対して十分な耐性を有することを確認した。

トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉 講演する関氏 bmt ベアリング&モーション・テック
講演する関氏

 

 さらに、機能性コーティングの最適設計技術研究会を代表して、東京都市大学・崔 埈豪氏が「摩擦発電機のトライボロジー分野への応用」と題して、話題提供を行った。電子機器の普及に伴い多くのセンサとそれらを駆動するための電源が必要とされている。これに対してバッテリー不要のセンサを作製できる手法として、優れたトライボロジー特性を有するダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を四フッ化エチレン樹脂(PTFE)とともに帯電材として用いた、高耐久性・高効率の摩擦帯電型ナノ発電機(TENG)を開発した。DLCベースの滑り型TENGを用いた滑り軸受の状態監視システムの事例を紹介し、滑り速度やミスアライメント、潤滑油の欠乏、潤滑油の挙動などが観察できるとした。

トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉 講演する崔氏 bmt ベアリング&モーション・テック
講演する崔氏

 

 最後に、自動車のトライボロジー研究会を代表して、名古屋工業大学・糸魚川文広氏が「表面プラズモン共鳴を利用した油膜圧力計測と添加剤吸着挙動観察」と題して、話題提供を行った。表面プラズモン共鳴を利用した手法は、高い界面選択性と感度(表面近傍のみの誘電率変化を感度よく計測することが可能)を利用して、潤滑膜の膜厚や密度の空間分布をin-situに可視化できる。接触面からの反射光強度の変化を捉え潤滑油密度の変化量を捉えることで、油膜圧力も測れるほか、高時間分解能計測が可能なため、しゅう動面の表面形状変化に対する圧力応答測定ができ、混合潤滑状態の圧力・油膜厚さの同時計測ができる。さらに、粗面のしゅう動による添加剤吸着膜の状態計測事例を紹介、真実接触部の抽出と摩擦係数の同時計測が可能とした。

トライボロジー合同研究会 in 加賀温泉 講演する糸魚川氏 bmt ベアリング&モーション・テック

 講演会終了後は、アパホテル加賀大聖寺駅前内「瑠璃」に移動し、技術交流会が和やかに行われた。