木村洋行、ロボット分野で超薄型ボールベアリング、電動アクチュエータの適用拡大へ
木村洋行(https://premium.ipros.jp/kimurayoko/)はケイドン社の超薄型ボールベアリングと、本年1月から取扱いを開始したEWELLIX(エバリックス)社の電動アクチュエータについて、ロボット分野での適用を拡大している。ここでは、それら製品技術の概要と特徴について紹介するとともに、その特徴を活かしたロボット分野での各種アプリケーションや、日本国内における今後の展開などについて紹介する。
超薄型ボールベアリング
概要と特徴
1941年に創業されたケイドン社は、1950年代に世界で初めて超薄型ボールベアリング(Reali-Slimシリーズ)を開発し量産を開始した唯一の専門メーカーで、現在はSKFグループとして超薄型ボールベアリングを中心に、あらゆる用途に応じたカスタムベアリングの開発も手掛けている。
ケイドンの超薄型ボールベアリングは内径25.4~1016mmまでのサイズをくまなくラインナップ。最大の特徴はベアリング断面が超薄型であるため、装置に占めるベアリングのスペースを最小化でき、装置全体の省スペース・軽量化が図れるため、設計の自由度が向上する点が挙げられる。断面寸法は4.76mmから25.4mmまで複数のタイプをシリーズ化している。実物を見ると超薄型ベアリングの薄さを実感できるが、カタログアイテムでもある内径1016mmの超薄型ベアリングは、その見た目のインパクトは特に大きい。
一般的なISO規格・JIS規格のベアリングでは内径が大きくなるのに比例して断面サイズも大きくなるのに対し、ケイドン超薄型ベアリングは断面サイズでシリーズ化されており、内径が大きくなっても同じシリーズ内であれば断面サイズは変わらない。
超薄型ボールベアリングは塗装・溶接ロボットから半導体搬送ロボット、多関節ロボット、人型ロボット、さらには宇宙環境用ロボットまで様々なロボットに適用されている。その採用理由としてはケイドンを使用することで装置の小型・軽量化を図れるだけでなく、ボールベアリングであるために起動トルクと回転トルクが軽くて非常に安定しており、高い回転精度も実現できることが大きい。
ロボット関連ではラジアルやアキシアル荷重のほか、高いモーメント荷重も同時に掛かる複合荷重のアプリケーションが多いことから、超薄型ベアリングでもアンギュラコンタクトを用いた組み合わせベアリングや、上記の複合荷重を1列で同時に受けることができる4点接触型ベアリングが用いられている。アンギュラコンタクトの組み合わせであればベアリングも2列必要なところを、4点接触型ベアリングであれば1列で済むため、装置設計をさらにコンパクト化・軽量化でき、ベアリング使用点数の削減がそのままコスト削減にもつながる。
上述の断面サイズが内径の大小にかかわらず一定であるというケイドン超薄型ベアリングの特徴によって、設計の自由度を高められる。通常のISO・JIS規格のベアリングは内径を大きくするほど断面寸法も大きくなるため中空シャフトを使用しにくく、必然的に従来型のソリッド・シャフト(キングポスト・タイプ)を使用せざるをえないケースが多くなり、設計自由度に制約があった。これに対し、大口径のケイドン超薄型ベアリングを使用することで大口径中空シャフトへの置き換えが可能になる。これに伴い、気体・液体の配管類、あるいは電気配線やスリップリング等を中空シャフト内に収納でき、省スペースで効率的なデザインにできる。
ケイドンでは、超薄型ベアリングよりさらに薄型断面が必要な用途に対しても、世界最小断面寸法 2.5mmという「ウルトラスリム・ボールベアリング」を提案可能だ。
ロボット分野での適用
宇宙環境用作業ロボット
ケイドン超薄型ベアリングは1960年代のアポロ計画の宇宙服のヘルメットリング向けに採用され、その後も、米国航空宇宙局(NASA)の月面探査車向け等に宇宙空間の厳しい仕様環境に耐えるベアリングとして採用されている。
宇宙環境下では軽量・省スペース化が求められるとともに、真空環境、極低温~高温の幅広い温度領域で精密な動きを求められ、ベアリングにとって非常に過酷な環境での稼働と高い信頼性を求められる。そのため内外輪の材質だけでなく、ボールや保持器の材質、潤滑剤の選定などでケイドンの長年の経験が生きている。
近年も、超薄型ベアリングは新世代宇宙環境用作業ロボット(CAESARシーザー)をはじめ、NASAの火星探査機など多くの案件で宇宙空間でのスムースな回転と高い信頼性を実現してきた。上述のとおり中空軸の径を大きくできることにより、可動部への電力供給を行うための内部配線が可能なことも採用の理由となっている。
半導体製造装置・ウェハー搬送ロボット
宇宙機器での実績から、同じく真空環境で作動する半導体製造におけるウェハー搬送ロボットに採用されている。超薄型ボールベアリングはロボットをよりコンパクト化でき、トランスファーチャンバーの容積をより小さくできる。これにより、装置全体の小型化が図れる。半導体製造装置関係でしばしば問題となるパーティクルやアウトガス低減の対策として、宇宙環境向けケイドンベアリングと同様にボールや内外輪、保持器の材質を変更したハイブリッドタイプベアリングも適用されている。
電動アクチュエータ
概要と特徴
木村洋行では本年1月から、スウェーデンに本社を置くEWELLIX(エバリックス)社の直動製品の取扱いを開始している。エバリックス社は、SKFグループだったSKF Motion Technologies社を前身とする直動製品メーカーで、アプリケーションごとのニーズに合わせたカスタマイズのソリューションに定評がある。
特徴のあるピラー型電動アクチュエータは、ストローク長や荷重、速度、偏荷重など、アプリケーションごとの仕様条件に合わせた提案が可能で、高荷重という厳しい仕様条件に対応しながらも、低騒音かつ堅牢さが求められる厳しいニーズにも対応できる。
ロボット分野での適用
協働ロボットの垂直方向の動作範囲拡大
ユニバーサルロボット(UR)社とのコラボによる6軸協働ロボットのアクセサリ(ユニバーサルロボットの公式UR+ソリューションであるUR+コンポーネンツ)として、ピラー型アクチュエータを協働ロボット用にカスタマイズし、垂直方向に動作させることによりURロボットの動作範囲を拡大できる「LIFTKIT」を提案している。LIFTKITの垂直方向の最大ストローク長は500~900mmで、最大許容荷重は1500N。
キットにはピラー型アクチュエータに協働ロボットを接続するためのプレートや動力ケーブル、制御ケーブル、協働ロボットのティーチングペンダントでピラー型アクチュエータの上下動も制御できるソフトウェア・プラグイン(UR Caps)、コントローラー、マニュアルティーチングのためのハンドスイッチなどが含まれており、動作できるようになるまでのセットアップは約15分と迅速・簡単に行える。
URロボットをはじめとした協働ロボットでは、作業者との衝突防止など安全性の確保も重要となる。ピラー型アクチュエータ自体でセーフティー・ストップはできないが、アクチュエータと接続した協働ロボットの把持部などが作業者に接触した場合、把持部のセンサが検知して協働ロボットだけでなくピラー型アクチュエータの動作も制御できる。このような安全性の確保については、医療機器向け規格IEC60601-1も取得しているエバリックス社のノウハウがいかんなく発揮されている。
URロボットの基台としてピラー型アクチュエータである「LIFTKIT」を使用することで、設置面積を抑えつつロボットの昇降移動を実現でき、垂直方向のアームリーチの有効範囲が拡大できる。これによりロボット単体の時と比較して、倉庫でのパレタイジング作業などにおいて作業効率を飛躍的に向上できる。
協働ロボットの水平方向の動作範囲拡大
ユニバーサルロボット社の公式UR+アクセサリとしてはLIFTKITと同様に、単軸横置アクチュエータに協働ロボットを接続し、搬送やピック&プレースなどロボットの水平方向の動作範囲を拡大でき、作業効率を飛躍的に向上できる「SLIDEKIT」を提案している。SLIDEKITの水平方向のスライド長は100~1800mmで、最大許容荷重は10900N(動的)と12100N(静的)、最大動的モーメント荷重は2400 Nm(Mx)、1800 Nm(Mz)。
LIFTKITと同様に専用プラグインソフトウェア(UR Caps)を付属しているため、セットアップが容易となっている。
ニーズに応じてSLIDEKIT上にLIFTKITを載せて併用することも可能であり、その場合URロボットの垂直方向と水平方向の動作範囲を大幅かつ同時に拡大できる。
「LIFTKIT(UR+)/SLIDEKIT(UR+)」に対しては、UR社代理店やシステムインテグレータを通じて、協働ロボットのアームリーチの有効範囲を拡大したい、作業範囲を広げたいなどのニーズに対し、新規導入時に加えて、導入済みの協働ロボットのシステムアップグレードへのニーズも高まってきている。UR社以外のロボットではティーチングペンダントでのLIFTKIT/SLIDEKITの操作はできないものの、より大型のロボットや重量物を移動するロボットなどと接続してもその作業範囲を拡張できるため、木村洋行では、日本製ロボットのユーザーにも対象を拡大して、提案を進めていく。
遊星型ローラースクリューによる高負荷条件下での精密駆動
エバリックス社の直動製品としては、遊星型ローラースクリューにも特徴があり、ねじとねじとのしゅう動という構造によって高剛性化を実現している。同サイズのボールスクリューよりも高荷重を受けられ、動定格荷重3994kNまで対応できるため、コンパクト化と耐久性の向上が図れる。
過酷な荷重条件においても必要な寿命を達成できることから、射出成型機やリベットマシンなどの各種用途で、高負荷条件下での精密駆動を可能にしている。また、高負荷対応のため従来は油圧駆動を適用していた用途向けにも、ローラースクリューとモーターの組み合わせに置換えて電動化することでコンパクト化と省エネ化を実現し、同時に動作ムラの改善を図ったケースもある。
今後の展開
ケイドン超薄型ボールベアリングは、日本国内でも1980年代からロボット分野での採用が進んでいる。産業用ロボットの適用分野が拡大する中で近年、軽くて安定した起動トルクと回転トルクに加えて高い回転精度の実現を求める用途が増える傾向にあり、1列で複合的な荷重を支持できる4点接触型ベアリングをはじめとしたケイドン超薄型ベアリングの需要がますます増えてきている。
木村洋行ではこれまで、ロボット向けソリューションとしてはケイドン超薄型ベアリングがメインだったが、URロボットをはじめとした協働ロボットの作動範囲を拡張できるエバリックス社の電動アクチュエータという新たなソリューションが加わり、適用分野の裾野が広がっている。ケイドン社、エバリックス社ともに、ニッチなアプリケーションにも対応可能な小ロットからのカスタマイズに対応しているため、木村洋行では、ロボット分野をはじめ要求レベルが世界一厳しいとされる日本のメーカーの多様なニーズに対して最適なソリューションを提供できるよう、常に新しいトレンドに関する情報をキャッチしながら、現場の課題解決に努めていく考えだ。
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