イグスのモーションプラスチック製品が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所で「宇宙空間に近い環境」を地上につくり出す実験装置に採用された。
今回求められたのは500kg規模の大型装置を髪の毛よりも細かなμm単位で位置調整し、離れた制御室から操作すること。その精密な位置調整機構に、高い剛性と滑らかな動作、安定した操作性を実現するイグスのスライドテーブルやモーター、制御システムなどが採用されたもの。
JAXA宇宙科学研究所の地上プラズマ実験装置「電子ビームイオントラップ(EBIT)」
JAXA宇宙科学研究所では、宇宙から届くX線を観測し、星の爆発やブラックホール周辺などで発生する高エネルギー現象の解明に取り組んでいる。しかし、観測データだけではその現象を十分に理解できないため、地上で宇宙空間に近い環境を再現する実験が行われている。その実験に用いられているのが地上プラズマ実験装置「電子ビームイオントラップ(Electron Beam Ion Trap:EBIT)」で、EBITでは電子ビームを用いてガスをイオン化し、宇宙と同様の高温プラズマ状態を生成する。さらに強力なX線を照射し、そこで発生する光を精密に測定することで、宇宙で観測されたX線の解釈に欠かせない基準データを取得している。
EBIT実験では、高温プラズマとX線ビームの位置合わせが重要な要素となる。装置内で生成されるプラズマのサイズは約100μmであり、そこへ数十μmのX線ビームを正確に照射する必要がある。そのため、500kg規模の装置を極めて高い精度で位置調整しなければならない。
調整が必要なのは前後左右だけではなく、X・Y・Z方向の位置に加え、水平や傾き(チルト)を含む複数軸にわたる。これらの調整は研究の精度を左右する重要な工程で、位置調整機構には高い剛性と滑らかな動作、そして安定した操作性が求められる。
高エネルギーX線を使用する実験では、放射線防護の観点からビーム照射中に装置の近くで作業することができない。そのため、研究者は制御室から装置を遠隔操作しながら位置調整を行う必要がある。今回のシステムでは、レベリングブロックとスライドテーブルを組み合わせた5軸の調整機構で構成。位置と角度の両方を電動で精密制御している。
今回の位置調整システムに要求された事項は、以下のとおり。
・500kg規模の装置を支える高い剛性
・μm単位での高精度な位置調整
・高エネルギーX線実験に対応する遠隔操作
・研究用途に求められる柔軟な構成
・限られた研究予算内での高いコストパフォーマンス
研究開発の現場では既製品をそのまま導入するのではなく、研究目的に合わせた独自の装置設計が必要になるため、部品には性能だけでなく、柔軟なシステム構築と費用対効果も求められる。それらに対応する製品技術として、今回、イグスのスライドテーブルとカップリング、モーター、制御システムが採用された。
スライドテーブルは、研究装置の位置調整に使用。500kg規模の装置を支えながら、X線ビームとプラズマの位置を合わせる微調整機構として機能する。装置位置調整用スライド部に使用され、装置の位置調整、ビームラインとの位置合わせの役割を担う。
スライドテーブル
カップリングは、モーターと既存の調整機構を接続し、装置の電動化を実現している。モーターと送りねじ機構の接続部に使用され、駆動力の伝達と既存機構との接続の役割を担う。
カップリング
モーターは、各軸の位置調整を電動化し、制御室からの遠隔操作に対応している。使用箇所は装置位置調整用の各軸で、手動調整の電動化と遠隔操作への対応という役割を担う。
モーター
制御システムは、実験条件に合わせて位置調整を行い、実験中でも安全な遠隔操作を可能にしている。装置位置調整用モーターの制御に使用され、遠隔操作、5軸調整、実験時の微調整という役割を担う。
制御システム
電子ビームやプラズマ、X線を正確に重ね合わせるための動きが、研究の精度を左右することから、イグスのモーションプラスチック製品は、最先端の宇宙科学研究を支える位置調整機構の一部として活用されている。イグスでは今後も、研究・開発の現場で求められる高精度で高効率なモーションソリューションの提供を通じて、科学技術の発展に貢献していく考えだ。