日本粉末冶金工業会はこのほど、「2019年度日本粉末冶金工業会賞」を発表した。同賞は、1979年度に粉末冶金工業普及事業の一環として創設、2019年度で41回目となる。
同賞は、工業会事業に貢献した個人を表彰する「業界功労賞」と優れた粉末冶金製品を表彰する「新製品賞」、優れた原料粉末を表彰する「原料賞」、優れた製造設備を表彰する「設備開発賞」からなる。「新製品賞」は、さらに「デザイン部門」、「材質部門」、「製法開発部門」に分けて審査、2003年度から、選考委員会で特に優れた受賞案件とされたものに「工業会大賞」を授与している。また、賞の対象にならなかった応募の中から、特徴のあるものを「奨励賞」として表彰している。
今回は工業会大賞、新製品賞・材質部門、原料賞、奨励賞で、以下のとおり受賞企業が選出された。
なお、本工業会賞の表彰式は2020年1月20日に、同工業会新年賀詞交換会に先立って行われる。
・ファインシンター、トヨタ自動車「ディスコネクト部品の焼結化」…段差の大きいラチェット形状や薄肉・長尺形状の成形を原料・金型構造の面から対策を行い、また、うねりを有するボール溝端面においてレーザー焼入れ導入による特性確保など、技術的難度の高い複雑形状製品を実現した点が高く評価された。本製品のような複雑形状は従来では敬遠されがちな形状だったが、数々の対策により量産化を実現されたことにより、焼結品のニアネット成形技術の進歩をうかがい知ることができる。今後、他工法からの置き換えなどによる粉末冶金製品の市場拡大が期待される。
・ファインシンター「高速鉄道車両用焼結制輪子ライニング」…独自の等面圧機構により、ブレーキ性能向上や耐摩耗性向上など制輪子ライニングの性能の向上を実現し、安全面やコスト面において貢献がなされた点が評価された。特に、ブレーキ性能向上においては、地震発生時などの緊急ブレーキへの対応を可能とし、高速鉄道車両の安全性向上への貢献が認められた。今後、本制輪子ライニングを搭載した高速鉄道車両の市場拡大が期待される。
・住友電気工業「成形体加工を適用した2枚歯スプロケットの開発」…高難易の断続切削であるスプロケット製品の外歯加工を加工時の応力方向を考慮した加工条件や独自治具の採用などにより実現し、製品のコスト低減に貢献された点が評価された。成形体加工は、製品欠損など品質上の課題が多くあるが、外歯加工の実現により、成形体加工技術の進歩をうかがい知ることができる。今後、コスト競争力向上による粉末冶金製品の市場拡大が期待される。
・ダイヤメット「可変容量型オイルポンプ用部品の開発」…成形過程でのFEM(有限要素法)解析による金型の工夫などにより、高精度部品を実現した点が評価された。特にベーンロータでは、全長30mmと比較的長尺でありながら、ベーン溝幅精度を加工レスで実現した点が評価された。可変容量型オイルポンプは燃費向上に寄与することから搭載車両が増加することが予想されており、今後の市場拡大が期待される。
・住友電気工業「アルミ製からの置き換えを実現した軽量鉄系焼結キャリアの開発」…ねじりトルクの要求を満たしつつ積極的な肉抜き形状による軽量化により、アルミ製部品からの置き換えに成功した点が評価された。また、接合部品の重要管理ポイントである接合強度に対しても超音波探傷法を採用するなど、保証度向上に対する工夫も見られる。焼結化のコストメリットを活かしたアルミ製部品からの置き換えに関する好事例として、今後の横展開が期待される。
・住友電気工業「高曲げ疲労強度を有するシンターハードニング4WDカム部品の開発」…シンターハードニングの適用に加え、材料と形状の工夫によって工程省略を実現させた点が評価された。シンターハードニングの懸念材料であった強度面を克服したことは、今後の焼結品におけるコストダウン手法の選択肢を増やす良い改良となる。本工法の横展開により、他工法からの置き換えなどによる粉末冶金製品の市場拡大が期待される。
・ダイヤメット「電動パーキングブレーキ(EPB)用焼結含有軸受の開発」…ボス付け根R0.2以下やOリング保護形状など、極小形状の付与を金型形状や、工法改善により実現した点、また、今後大きな成長が見込まれる自動車の電動化部品に採用された点が評価された。特に採用されたEPBはブレーキ・バイ・ワイヤー化の足掛かりともなる技術とも言われ、近年普及が進んでいる。本製品がEPBに採用されたことで、さらなる焼結含油軸受の市場拡大が期待される。
・JFEスチール「広範囲の切削条件に有効な快削性プレミックス鉄粉」…粉末冶金製品において汎用的に使用されている原料に対して、幅広い切削条件にて効果的な快削性を付与した点が評価された。焼結材は一 般的に難削材とのイメージがあるが、本原料は独自の添加物の最適添加により大幅に被削性を改善している。本原料の使用により粉末冶金製品のコスト競争力を高めることで、さらなる市場拡大が期待される
・住友電気工業「鋭敏化対策ニオブ添加ステンレス材の開発」…ステンレス焼結材料に国内で初めてニオブを添加し、焼結部材には苦手とされている溶接工程の品質リスクを低減した点が評価された。開発材料は自動車メーカーの材料標準にも認定され、標準材料としての使用が可能となった。焼結材料の溶接に対する許容範囲を広げたことで、他工法からの切り替えによる市場拡大が期待される。
・ファインシンター「産業用人協働ロボット用部品のMIM化によるコストダウン」…MIM(金属粉末射出成形法)の特性を活かした製品開発により、自動車分野以外となる産業用ロボットに採用された点が評価された。人協働ロボット構成部品のコストダウンは、ロボット価格の低価格化にも貢献し、世の中の自動化促進へも貢献がなされたものと思われる。本製品の開発により、粉末冶金製品の小型産業用ロボットを含む新市場開拓の足掛かりになることが期待される。