サーモモジュール(ペルチェ素子)は、対象物を温めたり冷やしたりする半導体冷熱素子のことで、N型とP型という異なる性質を持った半導体素子を組み合わせたモジュールに、直流の電気を流すと熱が移動し、一方の面が吸熱(冷却)し、反対の面が放熱(加熱)するというペルチェ効果を応用したもの。電源の極性を逆にすると、吸熱と放熱を簡単に切り替えることができる。
ここでは、フェローテックホールディングス(https://www.ferrotec.co.jp/)傘下のフェローテックマテリアルテクノロジーズ(https://ft-mt.co.jp/)の扱うサーモモジュールの技術と、その特性を活かし需要が拡大してきている市場の動向を紹介する。
サーモモジュールの上述の特性を活かし、自動車、半導体製造装置、光通信、医療バイオなど、温度調整デバイスとして用途が拡大してきており、フェローテックマテリアルテクノロジーズの市場占有率は36%とトップシェアを有する。
もともと産業用途向けの採用がメインだったサーモモジュールが2005年ころに某電機メーカーのイオン発生器に業界初の採用されたことでサーモモジュールの認知が広がり、近年ではインパクトのあるアプリケーションとして民生品での採用が拡大した。
多くの家電製品でイオン発生機能が付いたものが人気商品となっているが、イオンを発生させるためにサーモモジュールが利用されている。浄水式では水道水に含まれるカビや雑菌の発生源となる成分が放出されるのに対して、サーモモジュール式イオン発生器では空気中の水分を冷やして意図的に水滴を作る(結露させる)ことで、有害成分のない、きれいなイオンを省電力に発生させるというメリットがある。
直流電圧を印加することによって特定の部位を冷やしたり温めたりできる電子部品は唯一ペルチェ素子だけであり、民生品での適用拡大は、ペルチェ素子の軽量・コンパクト・省エネといった製品価値が認められたことによるものと見られる。
顕微鏡では見ることができない病原体の有無を検査するPCR(Polymerase Chain Reaction)法では、DNAの2本鎖とDNA合成酵素が特定の温度の熱サイクルで熱変性、アニーリング、伸長の三つの反応を起こすことを利用して、DNAの目的の部分を2n倍に増幅する。精密な温度制御による正確な温度サイクルnが正しい検査につながるほか、温度サイクルのスピードを上げることで検査の効率を上げることにつながる。
ペルチェ素子を組み込んだサイクル温度コントローラーによって、温度制御が精密で迅速になり、検査のスケールアップが可能になっている。ペルチェ素子はPCR検査装置の小型化・卓上化を可能にしているほか、最近では、検体容器1個を一つのペルチェ素子で加熱冷却する方式で、複数個の検体容器をPCR検査装置に搭載してパラレルに高効率に検査を行えるようになっている。
第5世代(5G)移動通信システム向けの光通信用デバイスは高速伝送速度を実現し、移動通信システムの高速大容量化に貢献する一方で、光通信用デバイスに内蔵される半導体レーザーは温度によって波長が変化するため、波長の変化に伴う動画の乱れや通信の遅延などを防ぐべく一定温度に保つ必要があり、ペルチェ素子による高精度な温度制御が不可欠となっている。
現在、5G通信機器向けにサーモモジュールの需要が急速に拡大してきているところで、特に中国では5G用通信基地局設置数が2020年に65万ヵ所、2021年に77万ヵ所、2022年に93万ヵ所と増える見通しとなっており、2000年のITバブル以来の非常に大きなサーモモジュールの市場として、さらなる成長が期待されている。
フェローテックホールディングスはこのほど、サーモモジュールの超小型化(150μm以下)、多段化の技術力や高品質のビスマス・テルル(Bi2Te3)材料開発力を持つロシアのRMT社を完全子会社化した。超小型化、多段化によって新しい用途への適用が見込まれている。
ペルチェ素子は局所冷却に使われるが、超小型化することで、さらにピンポイントに効果的に適用できる。例えば監視カメラの画像処理デバイスは、熱によって生じるノイズを視界内の対象物を画像化する信号のレベルよりも下げるために必要で、-20℃以下といった極低温まで冷却するにはサーモモジュールの超小型化と多段化が必要になり、RMT社の技術力が活かされると見ている。
4K・8Kといった高画質ディスプレイや顔認証システムなどでも、高精細・低ノイズに寄与する超小型・多段のサーモモジュールの適用が有効と思われる。
また、民生用途として、サーモモジュールは場所や環境に応じて冷房・暖房を切り替えることができることから、肌着やジャケットに温度調節用途としての採用が進んでいるが、超小型で軽量のサーモモジュールをラインナップに加えることで、今後のウェアラブル用途での需要拡大に対応できるものと見られる。
サーモモジュールは自動車分野においては温調シートで豊富な実績を持つが、フェローテックホールディングスでは2018年にオートモーティブプロジェクトを立ち上げ、車載用カップホルダーや、バッテリーおよびキャビンの温調システム、車載カメラのCMOSイメージセンサ用クーラーといった、新しい用途の開拓に注力している。
そうした新しい用途への対応では、ペルチェ素子のさらなる高性能化や効率向上が課題となっており、素子の材料特性を高める必要性があることから、フェローテックマテリアルテクノロジーズでは、ロシア・モスクワ工場や中国・上海工場、さらには新たに傘下に入ったロシアRMT社を中心に、素材開発を強化していく。
また、自動車部品など、製品バラつきをなくし、大量に迅速に良品を生産できるよう、工場の生産プロセスの一層の自動化や品質管理システムの増強を進めていく。
サーモモジュールは大空間の温度調整には不向きだが、局所的な温度制御では、コンプレッサーなどの外部装置を必要とせず小型・軽量で、低消費電力、低コストに効力を発揮し、環境面でもノンフロンで作動しCO2排出量低減に寄与する。フェローテックマテリアルテクノロジーズでは、こうしたサーモモジュールの長所をアピールしながら、EV、HVなどの自動車用途やウェハ大口径化対応の半導体製造装置、ウェアラブル機器等の民生品向けなど、各種の新たな用途への提案・展開を進めていく考えだ。
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