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第9回ものづくりワールド名古屋

 

やわらか3D共創コンソーシアム、5周年記念シンポジウムを開催

 

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム 集合写真

 やわらか3D共創コンソーシアム(会長:古川英光 山形大学教授)は4月7日、東京都江東区の日本科学未来館7階未来館ホールでのオンサイト開催とオンライン開催からなるハイブリッド形式により、「5周年記念シンポジウム」を開催した。テーマは、「超デジタルものづくり―メタバース活用、AR/VR、物質転送―」。

 山形大学 古川研究室を中心とする同コンソーシアムでは、産学官の多様な関係者とともに、3Dプリンティング、デジタルファブリケーションなどこれからのものづくりを共創し、新産業・革新的事業の創出、新たな人材育成等を目指している。

 当日は、山形大学産学連携准教授で元NHKキャスターの臼井昭子氏を司会に、山形大学理事(研究、産学連携担当)・副学長の飯塚 博氏によるオンラインでの開会挨拶、古川氏による会長挨拶に続いて、以下のとおり講演がなされた。

・基調講演「カーボンニュートラルの実現に向けて―技術開発の現状・ 課題と加工技術の役割」:矢部 彰氏(新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 技術戦略研究センター(TSC) サステナブルエネルギーユニット フェロー)…2050年にカーボンニュートラルを実現するためにはあらゆる技術分野が連携して総合的に温暖化ガス排出削減を実現することが必須で、それには加工技術分野が連携して加工技術の観点から英知を結集することが不可欠。また、カーボンニュートラル実現には、CO2削減コストの高い技術まで活用する必要があり、世界で膨大な対策費用が必要になる。この対策費用を削減するため、CO2削減コストを低下でき、大きなCO2削減ポテンシャルを持つ革新的イノベーション技術開発を実現する必要がある。NEDOは2030年の地球温暖化対策目標、また、2050年のカーボンニュートラル実現を目指して、グリーンイノベーション(GI)基金事業に精力的に取り組んでいる。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、どのような技術開発が必要になるかを俯瞰的に予測し、分野横断・融合技術にも重きを置きながら技術開発を推進していくことが重要と述べた。

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム 講演する矢部氏
講演する矢部氏

 

・会長講演「超やわらかものづくり―超デジタルが変える―」古川英光氏(やわらか3D共創コンソーシアム 会長)…料理家・酒井研野氏との共創によるウニ寿司のプロトタイプや、米粉料理家・中村りえ氏との共創による新感覚スイーツのレシピづくりなど、さらには「面白くて 変なことを 考えている」をモットーにインターネット広告やPRイベントの企画・制作を行う会社・人間との共創による子どもの肌のやわらかさを残す「やわらか記念写真」など、古川研究室で開発された3Dフードプリンターあるいは3Dゲルプリンターを使う人を集めて、その使い方を決めてもらうことが大事と述べた。また、古川会長による会員企業同士のマッチングとコラボ事業化の伴走支援「お見合い事業」を開始したことを報告。帝人・児嶋大世氏から、お見合い事業の一例として、3Dゲルプリンターを用いた、組織モデルや薬物担持材など医療用途をはじめ様々な分野への適用が見込まれる機能性ゲル材料の開発のための技術獲得に向けた協業についての紹介がなされた。

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム 講演する古川氏
講演する古川氏

 

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム お見合い事業について紹介する児島氏
お見合い事業について紹介する児嶋氏

 

・基調講演②「いつもEyeしています―目を通した疾患の検査―」秋葉正博氏(トプコン技術本部)…人間が外界から得る情報の8割は視覚から獲得されており、視覚が大事であることは分かっていても目の検査が後回しになることは少なくない。眼圧が異常に高くなることで発症する緑内障は、日本人の40歳以上の20人に1人、約440万人が発症していると言われるが、9割が検査を受けておらず発見に至っていない。緑内障は日本人の中途失明原因の第1位であり、その早期発見のためには眼底検査が大切だが、近年の眼底検査として近赤外線を利用して網膜組織の深さ方向の厚みを5μmの分解能で撮影するOCT (Optical Coherence Tomography:光干渉断層計)検査では、わずか1秒で緑内障の進行具合が分かる。OCTでは心疾患や循環器疾患など眼科以外の疾患や状態も検出できる可能性があることなどを報告。手軽に早期発見できるOCT検査の早めの受診を推奨した。

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム 講演する秋葉氏
講演する秋葉氏

 

 このほか、同コンソーシアムの五つの部会のうち、食品部会について伊藤直行氏(ディレクションズ)が、医療部会について兼子博章氏(帝人)が、モビリティ(構造)部会について川端邦幸氏(日本軽金属)が、ソフトマシン部会について日下明芳氏(積水化成品工業)が活動報告・構想報告を行った。

 例えば食品部会では、①造形精度・速度向上や小型化などを図る次世代3Dフードプリンターの開発、②米粉や代替卵、コオロギなどアレルギー物質を使わず持続可能性のあるフードインクの開発、③首長竜の首肉ステーキといった古生物メニューなどのメニュー開発に取り組んでいる。2023年度の取組みとしては、①参加企業それぞれの強みをもっと打ち出す、②成果を持ち帰って事業に生かしてもらう、③よりアウトリーチを活発化し、消費者のフィードバックを今後の研究開発に生かしていく。さらに、3Dフードプリンターの発展と普及に伴う、パーソナライズ化された食や時空を超える食体験とメタバースの融合によって、家族や友人などがどこにいてもどんなバックグラウンドがあっても同じ食卓を囲む「全人類対応メタレストラン」といった未来構想を紹介した。

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム 食品部会の活動報告を行う伊藤氏
食品部会の活動報告を行う伊藤氏

 

 また、ソフトマシン部会では2022年度のミッションとして、ソフト材料・構造が真価を発揮しそうなソフトマシンR&Dを構想することを掲げ、同部会のオープンディスカッションの中で生まれた「ソフトマシン技術シーズの卵」を、ソフトマシン開発コアメンバーが実際のモデルとして創り上げて、その成果を広く普及させる目的で設立したウェブコンテンツ「ソフトマシンDOJO」を開設。やわらかい材料・構造を活かしたこれまでにありそうでなかった新しいプロダクトの形や、やわらかものづくりの中で生まれ社会実装の期待度が高い斬新なソフトマシンプロトタイプといった制作事例を提供し、オープンな研究アイデア創出の機会を増やしている。2023年度のミッションとしてはソフトマシン企画展を構想してソフト構造・アクチュエータ・センサー・AI研究のプレゼンスを高めることを掲げ、オープンな研究アイデア創出の機会を増やすとともに、ソフトマシンの実体験デモの機会を増やし企画展までつなげてプレゼンスを高めていく。

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム ソフトマシン部会の活動構想を紹介する日下氏
ソフトマシン部会の活動構想を紹介する日下氏

 

 さらにゲル部会を代表して、武藤崇史氏(人間)が「山形大学×マイラボ渋谷 やわらか記念写真」と題する話題提供を行った。2022年12月に東京都渋谷区のマイラボ渋谷で実施した、生後6ヵ月〜2歳の子どもを対象に、高強度ゲルと3Dゲルプリンターを用いた共同実験企画「やわらか記念写真-赤ちゃんの感触を残す記念撮影」では、1日親子4組限定=7日間28組の事前予約枠が早々に埋まり希望者多数で追加6枠が設けられるなど、好評だったことを報告。「未来を体験する」ポイントとして、子どもの頬の形状や硬さを再現し造形をできる古川研究室の先端研究と、自分の子どもの触感を残したいという多くの親が思っていた潜在的欲求をつなぐ場を提供できたことが、成功のポイントと述べた。

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム ゲル部会に関連した話題提供を行う武藤氏
ゲル部会に関連した話題提供を行う武藤氏

 

 講演に続いて、「超デジタルものづくりーメタバース活用、AR/VR―」と題するパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションでは佐々木直哉氏(山形大学 客員教授/立命館大学 客員教授)がモデレータを務め、田中浩也氏(慶応義塾大学環境情報学部 教授/SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボ 代表)による混合リサイクル式大型高速3Dプリンターを用いた樹脂のマテリアルリサイクル、小川 純氏(やわらか3D共創コンソーシアム 技術リーダー/山形大学 有機材料システムフロンティアセンター 准教授)によるソフトロボットの開発と社会実装、中村りえ氏(米粉料理家)による3Dフードプリンターにおける米粉の活用など各パネリストによる話題提供がなされた後、中谷光男氏(MAKErs SENSE 代表)と古川会長の質問担当者2名とパネリスト3名による議論が活発に行われた。

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム パネルディスカッションのようす
パネルディスカッションのようす

 

 当日はまた、交流会・名刺交換会が設けられ、スペシャルゲストとして、西成勝好氏(大阪市立大学 名誉教授)と岸野文郎氏(大阪大学 名誉教授/関西学院大学 客員教授)が挨拶を行ったほか、帝人、日本軽金属、ユシロ化学工業、積水化成品工業による「お見合い事業ポスター展示」が行われた。

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム 交流会のようす:西成氏(左)と古川会長
交流会のようす:西成氏(左)と古川会長

 

やわらか3D共創コンソーシアム 5周年記念シンポジウム ポスターセッションのようす
帝人によるポスターセッションのようす