イグスは、2019年12月18日~21日に東京ビッグサイトで開催された「2019国際ロボット展」に合わせて「特別メディア会議」を開催した。当日は北川邦彦社長自らが、同年9月16日~21日にハノーバーで開催された「EMO Hannover」と同年10月7日~10日にドイツ・シュトゥットガルトで開催された「Motek」で披露された秋の新商品を紹介しつつ、今後の日本でのフォーカス商品について説明した。また、2020年から日本国内で実施予定の使用済みプラスチック製品のマテリアルリサイクルの取組みについてアナウンスした。
同社では毎年、前年に実施された「クリスマス・ウイッシュ」というイベントを通じて、ユーザーから聞き取り収集した課題を解決する新商品を開発、春に開催される「ハノーバーメッセ」において春の新商品として発表している。2019年の「ハノーバーメッセ」では、120点のモーション・プラスチック商品が披露された。
「秋の新商品」は「ハノーバーメッセ」での発表に間に合わなかった製品や、春の新商品についてユーザーからのコメントやアドバイスを反映し改良した製品などで、今年は約20点が発表された。
このうち、今後の日本でのフォーカス製品としては、半導体などクリーンルーム対応の省スペースケーブル保護管「eスキンソフト」および「eスキンフラット」、道具なしで簡単に開閉でき組立が容易な「E4Q」低コスト4軸・5軸ロボット「ロボリンクDP」、パラレルリンクロボット「デルタロボット DLE-DR」、ロータリーテーブルベアリング「PRT-04」、捻回角度±360°/mの6軸ロボットに最適なバスケーブル「チェーンフレックスCFROBOT8.PLUS」、イグス製品の摩耗などの状態を検知し計画保全につなげる「スマートプラスチック」を紹介した。
従来のケーブル保護管「エナジーチェーン」を設置できないようなスペースにおいて、「eスキンフラット」は、やわらかい素材の上部シェルおよび下部シェルからなるコルゲート構造を採用した保護管によって高さ200mmに納まる高屈曲(曲げ半径を制御)を実現。ファスナー開閉式機構のため、中のケーブルが破損した際に他社製品では全交換する必要があったが、本品では破損したケーブルだけを交換することが可能。従来固定だった長さも、巻きの状態で購入することで、希望の長さに調整できる。コンタミの発生を抑える特殊な樹脂を使用することでIPAクラス1のクリーンルーム仕様となっている。
また、個々のeスキンの各チャンバーにケーブルを1本ずつ収納することで、さらに小さい設置スペースに収まる「eスキンフラット」は、同様に長さの調整が容易で、ケーブルが破損した場合、ジッパー構造のため、そのチャンバーのみを開いてケーブル交換が行える。IPAクラス1のクリーンルーム仕様。
自動車製造など大きな損害をもたらす突発的なライン停止を防止する目的から、イグスの20億サイクル/年の試験評価に基づき長寿命化を確保した可動ケーブル「チェーンフレックス」と、ケーブルを保護しつつ自身の高耐久性も備えるケーブル保護管が用いられている。エナジーチェーン内では、収納したケーブル同士が干渉しあうことによる損傷を防ぐため、横・縦の細かい仕切りを備えた新しい内部仕切りパーツ(セパレーター)により、ケーブルを整列させている。
「EQ4」では、革新的なクロスバー機構によって、スナップを起こして両側のロックを解除するだけで、工具を用いることなく手で開閉できる。メンテナンスを容易にし、組立時間を80%短縮できる。工作機械業界からのコストダウン要求に対して、トータルコストダウンの手法として提案。自動車ラインでの実施例では、従来品で2.5日間を要していた交換時間が4時間に短縮されている。
中国、韓国、日本向けの新タイプで、ステッピングモータ、制御ユニット、ティーチングソフト付きで提供される4軸および5軸の低コストロボット。関節部には薄型・軽量のロータリーテーブルベアリング「イグリデュールPRT-04」の歯付き外輪タイプを使用することで軽量、メンテナンスフリーを実現している。AGV(無人搬送車)に取り付けて物の受け渡しを行う用途などで、無潤滑で滑らかな動きを実現するとともに、軽量化によってAGVの省電力化にも貢献する。
デルタロボットは、リニアガイド「ドライリンW」のステッピングモータ駆動の歯付きベルトタイプを3本使用することによって、3方向のシャフトを滑らかに高速で動かす。リンクジョイントには軽量の球面ベアリング「イグボール」を使用。モジュラー式でアタッシュケースに入る程度のコンパクトな組立てキットとして提供できる。
ロータリーテーブルベアリングはポリマー製すべり軸受用材料で実績のある「イグリデュールJ」を摺動材として採用、メンテナンスフリーで無潤滑で使用できる。新製品は、耐摩耗、無潤滑でメンテナンスフリーといった特徴はそのままに、従来製品に比べ60%軽量化しつつ高さを50%に抑えた。コスト効率と省スペース化を実現している。上述のとおり歯付きタイプはロボットの関節部などに適用できる。
最新の編組技術や、ねじれに強い材料の配合などによって、従来の2倍となる、捻回角度±360°/mの耐性の可動ケーブル。6軸ロボット用バスケーブルとして最適。膨大な試験に基づく豊富なデータセットをベースに、ユーザーはオンラインでケーブルの寿命計算を精確に実施できる。優れた耐油性、耐クーラント性、難燃性を有する。イグス試験施設において実施された、3次元動作用ケーブル保護管「トライフレックスR」内での1500万サイクル以上の捻回テストにおいて、イーサネット通信の電気特性が問題なく機能することが確認されている。
摩耗センサーや加速度センサー、温度センサーなど様々なセンサーと監視モジュールで構成された「isense(アイセンス)」を搭載した、リニアガイドやエナジーチェーンなどのスマートプラスチック製品によってセンシングされたデータが、予防保全のためのデータを集中管理するコミュニケーションモジュール「icom」に直接伝送される。オンラインシステムの場合、icomに伝送されたデータは、イグスのデータセンターに送信される。これによりイグスデータセンターとの連携によるオプションとして、外部のメンテナンス作業部隊や交換部品を自動的に手配するといった、迅速なオペレーション体制の構築や寿命の最適化が図れる。
しかし日本の場合は、工場内の情報を外部に出すことを望まないユーザーも少なくない。こうしたニーズに対応して、情報を外部に出さずにクローズドな環境で、ユーザーのデータシステムに対してのみ、通信をするという新しいタイプのスマートプラスチックが、特に日本のユーザー向けに開発。icomの基板を改良するなどしてクローズドシステムを可能にした新しいコミュニケーションモジュール「icom.plus」は、センシングされた予防保全のためのデータを自由に統合。
ユーザーの知りたい最適な時期・間隔で製品の寿命・交換時期の情報がユーザーのデータシステムにクローズドで通知される。これによって、メンテナンス費用の低減や予期しない設備稼働停止の回避、長寿命化、稼働効率の向上、時間節約、異常原因の迅速な発見など生産性の向上に寄与するとともに、エネルギー消費量の節減などコスト削減や環境保全に貢献できる。
イグスでは今回、2020年から日本国内で、ユーザーで使用済みのプラスチック製品のマテリアルリサイクルを実施する計画をアナウンスした。
プラスチックのリサイクルとしては大別して、①薬液で溶かす方法、②細かく破砕して再生プラスチックにして利用する方法、③プラスチックを燃やしてエネルギーに変換する方法がある。このうち①の化学的方法はコストが高くつき、③はCO2排出量増加につながるという問題があり、イグスでは、②の完全リサイクルの活動と、CO2排出量の低減につながるグリーンエネルギーの取組みを進めている。
ドイツ本社ではすでにユーザーで使用済みの他社製品を含むプラスチック製品を引き取って、処理業者を通じて別のプラスチック製品に再生したり、石油に変えるケミカルリサイクルの取組みを進めている。日本でも2020年からこの取組みを開始する計画で、数社と協力体制を作りつつある。自社製品はもちろん、他社のエンジニアリングプラスチック製品についてもこれまでの比較評価などのデータを通じて豊富な情報を有していることから、適切に分類してリサイクルに回すことが可能となっている。工場におけるCO2排出削減と廃棄プラスチックゼロを強力に推し進めていく。
北川社長は、「近年プラスチック製品による海洋汚染などが問題になる中で、イグスでは製品が自然環境の中に廃棄されることのないように、しっかりとコントロールしていく。エンジニアリングプラスチックによる再生品はある程度強度が必要とされる用途に適しているが、特にイグス製品のリサイクル品は大きな負荷や振動が加わるサッカースタジアムの観戦席といった、より耐久性を要求される用途など、生活の中で充分に役立てられると自負している」と語った。